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web言の葉落語会大反響御礼と、お願い [落語情報]


おおぜい様のご訪問、ありがとうございます!

【本稿は、4月15日付の記事に加筆・補足したものです】


にはたくさんの方に興味を持っていただけたようで、開設して間もないブログとしては破格のご訪問数をいただきましたこと御礼申し上げます。

既に募集開始当日にご投句くださった方いらっしゃいまして本当にありがたいことです。

こちらもできるだけ皆様からの句を募る期間を長くとりたいと準備を焦ったせいか、上記記事内の投句方法がちょっとにわかりづらい箇所があったことお詫びいたします。

以下のリンクにある投句方法と題の解説は修正いたしましたが、取り急ぎ当記事にて補足説明させていただきます。


複数句ご応募の方、できるだけ1件のメールにまとめて

ご投句いただく際「洒落」と「折句」は別件のメールでとお願いしておりますが、そのあとの

「1行に1句ずつ記入してください」を勘違いなさったのでしょうか。

1件のメールで1句ずつ送ってくださった方がいらっしゃいます。
もちろんそれでも結構なのですが、できましたら各題ごとのメールにて一度にまとめて3句お送りいただけますと事務作業効率化・お名前の取り違え防止になりますのでご協力いただけますでしょうか。

投句方法の注意点「1行に1句」と書きましたのはまとめて3句ご記入いただく際、
句と句ととの間にスペースを入れて、横につなげて3句ご記入しないでください
の意でございます。


また、行頭記号や五七五の間のスペース・行間に空白行が入りますと表に転記する際それを全て削除する作業が増えてしまい、転記ミスにつながりかねません。

作業効率化と皆様の大切な作品に傷をつけることの無きよう、重ねて記入方法お守りいただいてのご投句、お願い申し上げる次第でございます。

「折句附」でよく見られる勘違い

「は・な・し」を五七五の最初に配しての川柳が折句附ですが、こちらの説明不足で「は」「な」「し」をどういう順番でもいいから上五・中七・下五に置いての作が現時点でけっこう見られます。

句を分かち書きした時、五七五の最初の文字を並べると

・縦書きなら右から、横書きは上から読んで「はなし」。

・縦書きなら左から、横書きは下から読んで「はなし」。
いずれかの形で「はなし」の語を埋めこむ趣向

なんとまあ
新幹線は
速いもの
では五七五の最初の文字をつなげても「な・し・は」・天地逆転で「は・し・な」にしかなりません。句の内容以前に、題の趣旨に沿わないということで不可になります。

いま一度上記リンクの解説を熟読いただき句作にお励げみになられますよう、お願い申し上げます。

慌てずゆったりじっくり

また、いったんご投句いただいた句の訂正・差し替えには極力対応するつもりではおりますが、句数が出そろってまいりますとけっこうこれも手間のかかる作業になることが予想されます。

締切は4月26日23時59分まで。

まだまだお時間ございますのでじっくり句想を練り推敲重ねていただいた完成作を、できましたら各題3句ずつ(3句必須ではありません。1句でも2句でもけっこうです)まとめてお送りくださいませ。

募集は始まったばかり、先着順ではありませんので

のんびりゆったり、江戸言葉遊びの世界をご一緒に楽しみましょう。

蔦飾り線.png

4月15日、懸案の確定申告完了。
仕事全キャンセルの噺家には、給付金前の何よりの収入源。
還付金を頼りにエンジン全開、『web版言の葉落語会』の世話役精いっぱい務めさせていただきます。

16日以降は、また呑気な話題と猫の写真・イラストにもおつきあいください。

またのご訪問、お待ち申し上げております。

入船亭扇治


 




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続・コロナ疲れを粋な洒落で吹き飛ばそう!web雑俳投句募集開始 [落語情報]


ネットで楽しむ粋な江戸言葉遊び、正式スタート!


続く外出制限、各種店舗・施設への休業要請。
進まぬ損失補償や給付金。
オレたちの生活はどうなるんだ皆様ご不安なことかとお察しいたします。

私もそうです。
落語の仕事が今まるでないんですから。
いっ時は本当に、別の仕事探そうかなとも思ったほど。

でも、もうくよくよ気に病むのやめました。

愚痴言ったってはじまらないですよね、人類上げて今未知のウイルスをやり過ごそうという我慢の時なんですから。

辛抱の期間を少しでも前向きに、明るい方向へ向けられればと企画した江戸言葉遊び「雑俳」web版。

お待たせしました(まあそんなに待っててくれた人いないかもしれませんが、景気づけに言わせてください)[exclamation×2]

コロナ疲れを粋な洒落で吹き飛ばそう!
の記事で予告いたしました企画、4月14日19時より正式スタート。
26日23時59分まで、皆様からメールでの投句を募らせていただきます!

言の葉web 中.png


まずはどんなものか、様子だけでも


今回雑俳のお題は
「おめでたい物事一切の洒落」

「は・な・しを五七五の最初につけての川柳 折句」
の二つ。


※兼題の説明・投句方法・投句先等の詳細は
https://1drv.ms/u/s!AuMPkLP-OmbVyEogY5DK3wQycnPY?e=OKtNxO

でご覧いただけます。


今回宗匠を務める柳家小ゑん師匠が選者だった川柳道場の記事
・『うまいねどぉ~も川柳道場』全作品
なども併せてお目通しいただいたうえで…。

少しでも興味を持って下さった方、ぜひ句を投じて私たち選者の噺家連中と一緒に楽しく遊んでみませんか?

雑俳をこしらえるのは、難しくもなんともありません
わからないことございましたら24時間ほとんど在宅している私が手取り足取りお教えいたしますので、遠慮なくお申しつけください。

ただ早朝深夜は、ご勘弁を…。

脳トレにはうってつけの雑俳、くどいようですが難しくないです!
面白いです!

ほら、うちの飼い猫こまちも皆さんと一緒にやりたがってますよ。

こま竹林.png
まずは雑俳とはどんなものかを上記URLでなーんとなく見ていただいて、様子がわかったら一句二句作り始めてみてください。
自信作ができたら、メールで投稿。
こちらが「もう処理しきれない[exclamation]」と嬉しい悲鳴をあげるほど沢山の方にご参加いただけましたら望外の喜び。
皆さまの珠玉の一句、選者一同心よりお待ち申し上げております。
入船亭扇治





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緊急事態宣言下の東京 夜の街での恐怖体験 [日々雑感]


近所で怖い思いを…


昨夜、恐ろしいものを見てしまいました。
今思い出しただけで、肩口から水を浴びせられたようにぞーっとします。
ああ、怖かった


本来このブログでは、
噺家らしい切り口で世情をスケッチ。
こんなご時世だから、少しでも明るく前向きな話題をご提供。

これを看板にここまで記事を重ねてきたつもりです。


つらい話・ネガティブなエピソードなどは、極力避けなければとも思っております。
ですから本当なら私も、こんな体験は皆様にお伝えしたくはないのです。

でもひとりで抱えて言わないでいるといつまでも怖いままなので、やっぱりここで書いちゃおう。


怖い思いを共有してくれてる人が多いと、恐怖心がいくらか薄れますからね。

勝手に納得して、話を進めさせていただきます。
令和2年4月の半ば我が家の近所で遭遇した、世にも恐ろしい体験


夜の道を疾走する〇〇


高座の仕事がまるでない私は、その日朝からうちにこもって噺の稽古やブログの準備などしておりました。


しかしあまり根を詰めて一人きりの作業を続けているとまた


の記事のような症状が出るといけません。
ちょうど私にとっての最優先生活必需品の一つ・缶チューハイが切れかかっていたので、足腰を伸ばしがてら近所の小型スーパーへ。


4月10日改装オープンしたばかりの、イオングループの「まいばすけっと」。スーパーと同じ商品をコンビニ感覚で買えるので、以前からお気に入りの店舗。

テナントで入っていたビルの建て替えで10か月ほど休んでいる間中、再開を心待ちにしておりました。


時刻は18時40分
通常より閉店時間を早めていることでもあり、なんかいい見切り品でもあったら贅沢して買っちゃおうかな。


エコバッグ持参で表へ出ると、冷たい春の雨が降りしきる空はもう真夜中のように真っ暗
日曜ですが人通りはほとんどありません。


少し歩くと普段はかなり車の行き来が激しい2車線の方南通り、横断歩道を渡ったはす向かいがお目当ての店。

3日ぶりの買い物に胸躍らせながら信号待ちしている私の目に、その時信じられない光景が飛び込んできました。


新宿方面からやって来る1台の路線バス。
近づくにつれ見えてきた、[バス]前面の行き先表示は「永福町」。
この路線の終点で、いつものこの時間なら平日は仕事帰り・土日は買い物や行楽の乗客をいっぱい乗せてこのあたりを走りぬけるはず。


それが「えっ、これ回送バスか?」と一瞬思ったほど、あかあかと灯りに照らされた車内は空っぽ。
運転手さんのほかは、見事に誰ひとりお客さんが乗っていません。


雨にけむり、ひっそり静まった夜の街を疾走する無人バス
緊急事態宣言下だからこそ見られるシュールな光景。
歩行者信号が青になったのにも気づかず、バスのテールランプをしばし見送っていました。


でもこれだけだったら、別にそう怖い話ではありません。
誰も運転していなかったとか、猿や猫や免許とりたての中川翔子さんがハンドル握ってたというわけではないのですから。
都民がよく外出を控えているな、という一つの証左。

このバスが恐ろしくなったのは、買い物をすませてうちへ帰ってからです。


最初は晩酌のネタだったのに


私が買って来た30%オフの豚小間をカミさんが手際よく調理して、家族3人と猫1匹でささやかながら和やかに夕餉の膳を囲みます。


今日も都内の感染者数最多更新したね、というニュースは知識として必要ですがせめてひと時楽しく食事をという場ではあまり話題にしたくないもの。

私も食卓では罪のない笑えるエピソードや楽しい話を振るように意識してますが、空っぽのバスはあまりにインパクトが強かったんで「さっきそこでさ、永福町行のバス見かけたんだけど」と話を切り出しました。


へぇ、普段あんなに混むバスがねぇとひとしきりこの話題が続くうち倅が
「そういう時運転手さん、車内アナウンスどうしてんのかな」


よその路線でもやってらっしゃるかどうか、京王バスでは停留所案内や扉開閉時の注意など運転手さんがインカムを使い自分で喋って車内放送をしています。

ごくまれに大雨でより運転に集中することが必要・喉を痛めて声が出しづらいという時は、発車時に「こういう事情で機械音アナウンスにさせていただきます」運転手さんがわざわざ断るほど徹底された習慣。
会社の指導方針なのでしょうね。


だからお客さんが一人もいない時はさすがに機械に切り替えるかアナウンス自体ないんじゃないか、いや会社の規則だし自分でも気が紛れるだろうから運転手さんやっぱり自分で喋ってんじゃないのとまた話が広がっているうちはよかったんですが…。


聞かなければよかった!ひと言でいきなりホラーに


うんこれ、高座やブログのネタになるなと私が内心思っていいるといきなりカミさんが




運転手さんが喋んのか機械かわかんないけど、「次の停留所は~でございます。お降りの方は降車ボタンでお知らせください」って言ったら後ろでだーれも乗ってないのに
ピンポーン!
鳴ったら怖いよね




当人は笑い話のつもり、私も聞いた瞬間は「ああそうだな、そんなことあったらびっくりするよな」なんて呑気に思ってましたが…。
その光景を頭の中でしみじみ想像してみたら、なんだかじわじわ怖くなってきたのです。


人の姿がほとんどない夜の道。
そぼ降る雨をついて、近づいてくるバス。
青白くLEDライトに照らされ闇に浮かび上がる車内には、一人の乗客の姿すら見えない。


運転手は口を真一文字に結び機械的にハンドルを操りつつ、無人とわかっていながら習慣で次の停留所名を告げる。

次は南台図書館前、南台図書館まえ。お降りの方はお手近のボタンを押して…


と誰もいないはずの背後で


…ピンポ~ン


うわ、自分で書いててめちゃめちゃ怖い
高校の部活でバスケやってて身長180センチ近くあるくせに超ビビりの倅は「ちょっとお母さん、なんでそんな話するんだよ!あー聞かなきゃよかった」と食事もそこそこに自室に引っ込んでしまいました。


ましてや私は、暗闇からぬっと現れたあの無人バス(運転手さん以外)をこの目でみているからそくそく迫る恐ろしさもひとしお。
怖くて怖くて眠れない


そうだ、あんまり怖いからうちの猫のイラストを描こう。
そうすりゃ気も紛れるだろうから、サラサラサラ…




こまちバス無人.png


ひえ~、もっと怖くなってきちゃったよー。


お口直しに小噺をおひとつ


私がこの話をして怖がるのは自己責任ですが、ここまで辛抱して読んでくださったお客様方までゾクゾクさせたままじゃ申し訳ない。


怪談の名手だった林家彦六は寄席のトリで怖い噺をやったあと
「お客様を陰のままお返ししちゃいけないんで、ここいらでご陽気に立ち上がりまして」

♪チャンチャラカチャカチャカスッチャラカチャンチャン
とかっぽれや奴さんを踊るのが常でした。


それに倣って、「ピンポーン」という音が地口になっている小噺をご披露。楽屋に昔から伝わるネタの一つです。




えー、只今では色んな品物をうちまで届けてくれるサービスが増えて、本当に助かりますな。


お歳暮お中元なんてのは昔は新巻ジャケやビールの詰め合わせを紫の風呂敷に包んで挨拶がてら先方さんに持参したもんですが、今じゃお互い訪ねたりうちで待ってる時間もったいないというんで宅配で送るってのが当たり前になりました。


宅配のご商売のの中でこれはクロネコヤマトのお兄さん。
今日も荷物を抱えてお宅の前に立つとインターフォンを
ピンポーン


主婦「ハイ、どちら様?」
お兄さん「宅急(卓球)便です」


これだけ。

洒落、おわかりですよね。

初めやった時はポカンとしてる方多いと思うんで、「これ宅急便の小噺だからね」と念を押してもう1回やるとわかった人がクスクス。


「わかんない方いるんでもう1回、たっきゅう便ですからねいいですか」

ピ・ン・ポー・ン
どちら様ですか?
たっ・きゅう・びん です!

3回くらい押してみて、それでもわかんない方は放っときましょう。


こういう時こそ、落語の笑いで前向きに。
お宅に居ながらにして、江戸言葉遊びで噺家と一緒に楽しもうという企画進行中。


4月15日までには正式発表できるよう努めます。
よろしければまたご訪問ください。


お開きまでお付き合いくださいまして、まことにありがとうございます。
入船亭扇治






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テレワークで落語の稽古? [落語情報]


二ツ目勉強会の想い出


仕草について師匠からアドバイスを受けた、もう一つの想い出。

入船亭扇橋の初公開音声 第2弾
の続き、師匠扇橋ともう一人の偉大な先輩とのエピソード。

蔦飾り線.png


今も池袋演芸場で行われている『二ツ目勉強会』


昔の寄席では、急いで次の仕事に行く予定がない芸人はけっこう楽屋に残ってのんびりしていったものです。
お茶を飲んでバカっ話をしつつ下の者の高座を聴いていて、あとでアドバイスをくれるなんて先輩も多かった。


それが時代が変わり噺家もそれぞれ忙しい人が増え、楽屋で長居するのはいかにも「あたしゃヒマでござい」と宣伝してるようなものだからと出番がすんだら皆さっさと帰るように。


落語協会幹部連が最近なかなか若手の高座を聴いてやる機会がないからじゃあそういう場を設けましょうよと、亡くなった古今亭志ん朝師匠の肝入りで始まったものです。

忙しい志ん朝師匠が、毎月この日のために予定を開けて客席のいちばん後ろに座りお客様と一緒に5人の出演者の噺を聴いてくれる。


志ん朝師匠が「空いてたら二ツ目の噺、聞いてやってくださいよ」とまめに声をかけてもくれてましたから、先代小さん・小三治・円蔵・先代圓歌などそうそうたるメンバーが最後列に陣取り、お客様高座より振り返ってそっちを見てるなんてこともよくありました。


『へっつい幽霊』でトリ


東芝銀座セブンという、博品館並びのビルのホールで当時は毎週土曜の夕方開催されていた二ツ目勉強会。
私が一番おしまいに出て『へっつい幽霊』という噺をやった時のことです。

落語『へっつい幽霊』あらすじ
道具屋が市で仕入れた土間へ据えるかまど「へっつい」。
大変に良い品だと、すぐにいい値で売れた。
いい商いがあったと早めに店じまいして寝ている道具屋の表を、真夜中割れるように叩く者が。
誰だろうと出てみるとへっついを買った客。「あのへっついから幽霊が出るからうちに置いとけない」と頼みこまれ、売り値の半金を返して引き取ることに。
あくる日店に出すとへっついはまたすぐ売れるが夜になると叩き起こされて半金で返ってくる、その繰り返し。
困った道具屋夫婦「あのへっついにはもうずいぶん儲けさせてもらったから、ここいらで1円つけてもいいんで誰か強い度胸のある人がもらってくんないかな…」。
話しているのを塀越しに聞いた博奕打ちの熊五郎、いい小遣い稼ぎだと道楽者の若旦那を誘ってへっついを引き取るが…。


終演後の講評会で「箸にも棒にも」


その時聴きに来てくれた幹部は志ん朝・先代さん助・木久蔵(現・木久扇)そして扇橋。


終演後はそばの和風ビアホールで打ち上げ。そこで幹部からさっきの高座の感想・講評がありこれが勉強になります。
その時はさん助・木久扇両師は帰り、講評会の席に並んだのは志ん朝師と私の師匠。


乾杯のあとひとしきり飲み食いがあって、そろそろ落ち着いたかなというところで志ん朝師の仕切りでいよいよ幹部からの講評の始まり。

出演順に大先輩から、感想とここはこうした方がという的確な助言を受ける二ツ目たち。


志ん朝師は「気軽に飲みながら」と言ってくれますが、とんでもない。みな背中を伸ばして緊張の面持ちで聴いています。

そして、私の番になりました。


「えー、最後は扇治くんの『へっつい幽霊』。ここは師匠がいらっしゃるんだから、まず扇橋さんからお願いしましょう」。


志ん朝師から振られて、焼きおにぎりモグモグしてたうちの師匠「ん?」という表情で顏を上げると
「…そうですねぇ、別に、何にも言うことぁありませんね」


そっけない物言いに慌てた志ん朝師、
「いやでも、彼は彼なりに難しい噺に挑戦したんだから、ここは師匠としてここはこうしろとね、直してあげてくださいよ」


それでも師匠は頑なに
「アニさんの前ですけどね、直すってのはどっかひとッ所でもいいとこがあるから直せるんで。こいつのさっきのあれじゃ、いやはや。当人の見た目とおんなじで平板でのっぺりしてて、箸にも棒にもてやつで手のつけどころがない。
だからアタシには、何にも言うことができないんで」


人一倍周りに気を遣う方だった志ん朝師匠
「あ、ああそうですか。
わかりました、師匠には師匠のお考えがあるんでしょうから…。じゃあ私もこれはやる噺なんで、一門の流儀は違うんだけど技術的にこうしたらもっとよくなるなんてことをいくつか言わせてもらうんで参考までに聞いてください」。


とってもいいアドバイスをくださったんですが、こっちは師匠のことも気になってしょうがないんで志ん朝師に顔は向けながらも目はチラリちらり扇橋の方を伺っている。

やがて店の時間もあるからとお開きになり、師匠の鞄を持って東中野の扇橋宅へ帰りました。


帰途の途中でも、うちについて私が台所の洗い物をしている時にも今日の高座の話は一切なし

おかみさんから「今日はもう遅いからお帰りよ」言われた私は師匠夫妻に挨拶をして、歩いて5分ほどのアパートへ帰りました。


深夜に、家の電話が鳴る


その晩は銭湯に行ったかどうだったか…。
着物を吊るしたり明日の支度をすませたりで、もう深夜0時をを回ってそろそろ寝ようかなという時。


プルルルル、プルルルルッ[電話]。電話が鳴ります。
こんな夜中にいったい誰だよと受話器をとり「はい」と小さい声で答えると向こうから
「ああ、俺だ」
師匠扇橋の声。思わず居住まいを正し「ハイっ」と直立不動で聴きいると…。


「さっきはご苦労さん。いや、あん時は志ん朝さんが一緒だろ。『へっつい』はおとっつあんの志ん生師匠のが絶品で、志ん朝さんも自分でけっこうやるネタだからなぁ。


俺のは師匠(先代三木助)の形だから古今亭のやり方とまるで違うんで、先輩の志ん朝さんの前だとなんだか言いづらくてな。

今度会った時言おうと思ってたけど、お前も前座じゃないからのべつうちぃ来るわけじゃねえしな。


こっちもそのうちとか言ってると忘れちまうから、今夜のうちに電話で言っとくな」。


それから30分近く、師匠は電話口で私の『へっつい幽霊』について色々と手直しをしてくれました。


「こうやるんだ」「見えません!」


おもに言われたのが、博奕打ちの熊五郎をどう演じるか。田舎者でのんびりした性格の私には、鉄火な江戸っ子を表現するのはかなりハードルが高い。無理に早口にしなくても巻き舌に聴かせるテクニックや言葉遣いについて教えてもらっているうちに師匠、


「あと、おしまいの方で熊と幽霊が博奕をするとこな。
うちの師匠(三木助)は噺で食えない頃は踊りと博奕で稼いでたっくらいだから、サイコロを壺に入れて振る仕草はそりゃもう迫力があってきれいだった。


さっきのお前のじゃ、壺から賽がこぼれちまう

そうじゃあなくって手のひらの真ん中少しくぼめてお椀みたにして、そこへ賽をふたっつこう乗っけて、右手で壺をこう持って…」。


興が乗って電話の向こうで仕方ばなしに。


私「あの~お話の途中すいませんけど、今んとこどうやるんですか?」


師「だから、今カミさんに電話持たせてこっちは両手でやってやってんだ。ほら、こうやるんだわかんだろう!」


申し訳ありません師匠、さすがに電話の向こうでは見えません…。

今に先立つ、テレワーク稽古をつけてもらったのでした。


電話見えません.jpg


あの名人が気を遣って


この話には、後日譚があります。
二ツ目勉強会から10日ほど過ぎた、上野鈴本の楽屋。
サラ口(前座の直後など、興行の始まったばかりの出番)をすませた私が楽屋の粗茶をすすっていると、2時間近く先の仲入り前に出るはずの志ん朝師匠が前の仕事が早く終わってつなぎきれないと突然入って来ました。


お会いするのは勉強会以来ですから、「あっ師匠、先日はありがとうございま…」とこちらが言うより早く志ん朝師匠、


「ああ扇治くん、こないだはお疲れさま。いやー師匠の目から見ると弟子の芸ってアラばっかり目立つんだろうけど、この間扇橋さんの言ってたことあんまり深刻に考えすぎない方がいいよ。


ウン、なかなかよくやってたよあんな面倒な噺。ほんとにね、あん時の『へっつい』、師匠が言うほどひどくはなかったからね!」。

励ましてくれたんですが…


ンちょっと待てよ。
「言うほどひどくない」って、やっぱりかなり危ない出来だったのかあの時の高座は!


でも、あれだけの名人が目の前でこんな若造の心配をしてくれた。とても、嬉しかったですね。
深夜の電話口の稽古をしてくれた師匠の想い出とともに、『へっつい幽霊』をさらうたびに志ん朝師匠の優しい顔も浮かんできます。


蔦飾り線.png


気を遣ってくれた大先輩に恥ずかしくないよう、これからも稽古精進。
当ブログでも、読者の方の貴重なお時間無駄にしない楽しい記事作りを心がけます。


よろしければうちの猫のエピソードなぞも、覗いてっていただけたら。





お開きまでお付き合いくださり、まことにありがとうございます。
またのご訪問、お待ち申し上げております。
入船亭扇治


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入船亭扇橋の初公開音声 第2弾 [落語情報]


ご好評にお応えし、稽古音声を蔵出し。


寄席と各地の会がお休みで落語ロスの方々に少しでも喜んでいただければと公開した、私の師匠が稽古をつけてくれた音源
多くの方に聴いていただき、いくらか落語の渇きを癒すお役にたてたようで幸いです。




機会があればまたというファンの方からのご要望もあり、天国の師匠に再度登場願うことと相成りました。
自分の語りでお客様がコロナ疲れをひと時忘れてくださるなら、扇橋自身も「俺が稽古してやったテープ、勝手に使いやがって」とは言わないでしょう。


前にお届けした『寿限無』の音源は噺家見習い中の私に初めてつける稽古だからと、前座としての心構えなど現代にも通じる精神論について師匠がこんこんと言い聞かせてくれた箇所を抜粋。


今回はがらり様子が変わって、落語を演じるための具体的な技術論を語っているテープからお聴きいただきます。
平成3年7月28日、二ツ目になってしばらくたった頃教わった噺。


この演目で国立演芸場第52回花形演芸会銀賞を頂戴した、私自身にとっても想い出深い一席。


その演目は『口入れ屋』


落語『口入れ屋』あらすじ
江戸の大きな古着商の店へ、ある日口入れ屋(働きたい人に奉公先を仲介する、昔のハローワーク)から大変に器量のいい娘さんが紹介されてやって来る。
さっそく職権を濫用して気を引こうとする番頭はじめ、住み込みの男の奉公人たちで店は蜂の巣をつついたような騒ぎ。

お互い牽制し合いながら一同、昼間の疲れから皆寝入ってしまう。
夜中にたったひとり目を覚ました二番番頭、これは天の配剤と女性の奉公人が休む中二階へこっそり忍んでいこうとするが…。



東京では『引っ越しの夢』という題名でやることが多い、元は上方ネタ。
扇橋がやっていたのは、先代三木助が橘の円を名乗って大阪にいた時向こうの噺家から教わってきた形。


冒頭に『引っ越しの夢』にはない口入れ屋の場面が元ネタほどのボリュームでないが入っているので、師匠は『口入れ屋』でネタ帳につけるよう前座に言ってましたね。


音源は本編を語り終わった扇橋が、それぞれの箇所の演出方法を語っている部分。


器量のいい女の奉公人に番頭が、

「帳面どがじゃかにして店の品物融通してあげるから、その代わりあたしがお得意先から酔っぱらって帰ってきて間違ってお前さんの部屋に入る、なんてことがあったらそん時は…ね?」。


というくだりの説明が終わって、夜這いをかける男が中二階の梯子段・台所の吊り戸棚でしくじる場面についての話にかかっていくところ。

江戸期の吊り戸棚は、天井から2本の縄でじかに吊ってありけっこう不安定なもの。それを頭にいれたうえで、お聴きください。



対面の稽古だからわかる、仕草の立体的な見せ方


いかがでしたでしょうか。
音声だけではわかりにくいと思いますので、イラストもご覧いただきましょう。
引っ越しの夢.jpg


お客席からそれらしく見えるように、「芸のウソ」でデフォルメして演じる。これはお互い顔を合わせての稽古ですから教えてもらえること。


師匠も忙しかったり自分がしばらくやってない噺だと、「とりあえずこれで筋だけ覚えてやってろ。折があったらそのうち聴いてやる」なんてことがないでもなかったですが、たいがいは丁寧に教えてくれましたね。


いい歳をした男が二人向かい合って
「師匠、こうですか」
「そうじゃない、こうやるんだ」
エアー吊り戸棚を担いでいる姿。
はたから見ると笑ってしまうかもしれませんが、一生食っていけるだけの財産を渡す・譲り受ける作業。


呑気に見えて噺家の稽古、なかなか大変なところもあります。


蔦飾り線.png


師匠から仕草について教えてもらった想い出はもうひとつあるのですが、あまり長いのはご迷惑。
またの機会に譲らせてくださいませ。


お開きまでお付き合いいただきまして、まことにありがとうございます。

よろしければ、また覗いてやってくださいね。

お宅に居ながらにして噺家と粋な洒落で遊べる企画も準備中。

コロナ疲れを粋な洒落で吹き飛ばそう!
こちらもよろしくお願いいたします。

入船亭扇治

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