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緊急事態宣言をひと時忘れ 昭和の楽屋にタイムスリップ [落語情報]

ネットで楽しむ江戸言葉遊び『web版言の葉落語会』の選者メンバーから、



に続いて


言の葉、ホントにご苦労様です
〆切延長も告知しました。
この企画も延長とか(笑)
では少し「言の葉のタネ」を提供します。
貴重な楽屋写真です。
アタシなりの解説です。文章起こしのタネに
今でこそ楽屋でエライ師匠にスマホを向けるのは
それほどでもなくなりましたが
当時は楽屋で写真を撮るなんというのはご法度!
その意味でも貴重かと。
また我々が前座の頃ですから、しくじりなど思い出と共に
きっちり撮影された日時や周辺を出しました。
想像力が広がるかと。


のメッセージと

さらに貴重な芸人たちの写真が届きました!
添えられた絶妙のコメントとともに、
それでは、本紙有能特派員・三遊亭金八師渾身のレポートご堪能ください。

①旧池袋演芸場楽屋で 二代目林家正楽師 86.6.29日

昼席ですね。調べたらやはり日曜日でした。当時、正楽師49歳。
ちょうどこのころご自身をモデルにしたテレビドラマ、「晴れのちカミナリ」がNHKで放送中
池袋 正楽師 86.6.29日.jpg
そのドラマ撮影でのエピソードですが
ご自身も父親役でチョロっと出演して、お百姓の野良仕事する衣装を着て待ってたら
スタッフから「師匠!そろそろ着替えて下さい」と言われたとか・・・
「してみりゃ、普段よっぽど汚い恰好してると思われてるんだな」・・・と
楽屋でご本人から直接聞きました。カッコ内、春日部訛りで声に出してお読みください(笑)
この12年後、98/7/2に62歳で亡くなってます。
そう考えると一番円熟していた働き盛りの頃でしょう。
イヤホンで何を聴いているのでしょうか?
また懐かしい旧池袋演芸場の楽屋というのもたまりません
初夏の昼下がり、いろんな意味で懐かしい正楽師の
甘酸っぱいニオイが漂ってきそうな写真です(笑)


「甘酸っぱいニオイ」。そう、先代正楽師は汗っかきで、そういう方に特有のあの香りを全身から発散させてました。
ご当人も自覚はあって、おかみさんがポーチに入れて持たせてくれるタオルのおしぼりでまめに身体を拭くように。


そのおしぼりが、掛け持ちの寄席1軒目ならいいんです。
おかみさんがきれいに選択して香水をふりかけてあるから、正楽師がおしぼりを取り出すといい香りがふわ~っと楽屋に漂う。


ところが2軒目でポーチを開けると、最初の寄席で出番前後にかいた男の汗をたっぷり吸ったタオルの何とも言えない匂いがあたり一面に。
そばでその匂いを嗅いだだけでも、昼の弁当の味が変わるほど強烈。


ましてや「前座さん、ちょっとこのおしぼり流しで洗ってきてよ(春日部訛りで)」と渡されでもした日には…。その日一日、石鹸でゴシゴシ手を洗っても匂いがとれないほどでした。


あの先代正楽師の甘酸っぱいニオイがたまらなく懐かしいほど、今は人恋しいですね

②勝馬検討 扇橋師 89/1/15水

扇治師には師匠のことは照れくさくって触れにくいかもしれませんが(笑)
とても扇橋師らしいショットなので出します。
勝馬検討 扇橋師 89.1.15水.jpg
調べたら夜席ですね。二之席でトリは志ん馬師。扇橋師は18:15
ウチの師匠金馬が19:00上がりで扇橋師が下りて、おそらく新宿に振っていく
少し時間があるのか、新聞を広げて勝ち馬検討に入った・・・そこを撮ったのでしょう。
週末のレース予想ですかね。ちなみに1/18土の「ニューイヤーステークス」中山は雨 
枠連は23番人気 6250円 次の日1/19日はGⅢ京成杯 枠連10番人気 2220円つきました
扇橋師取れたのでしょうか(笑)


いやさすが本紙の誇る有能特派員、過去の競馬のデータまでよく調べ上げてくれました。
そうですね、取れてたのかどうか。
あの日の師匠の機嫌、どうだったかなぁ。




うちの師匠の競馬は、基本的に1点100円単位でたくさん買うやり方でした。
マークシートやネット競馬なんてない頃なので、地方の仕事で自分が馬券買えない時は枠連書いたメモを渡して弟子に買わせる。


後楽園の馬券売場の窓口で受付のおばちゃんに
「お願いしまーす。え~っと、3-6を100円、3-8を300円…」
なんてやってると後ろの耳に赤鉛筆はさんだ怖そうなおじさんから
「いつまでチビチビちびちび買ってんだよ!
 早くしろよ、次のレース始まっちまうだろ!」
怒られたものです。




写真の予想姿と並んで週末の楽屋でよく見られたのが、小型ラジオのイヤホン耳に挿して競馬中継聴いている扇橋。
買ってあるレースが始まろうかという時に自分の出番が来ると、近くにいるほかの芸人にラジオ渡して「これ聴いといて」。平気で頼んでました。


地方での永六輔さんのトークショーに、俳句の関係でうちの師匠がゲストに呼ばれた時のこと。
日曜の午後で例によって扇橋がラジオで中継聴いててさあ出走!というまさにその時、最初の永さんのトークが終わって自分の出番が来ちゃった。


珍しく1000円単位で買うくらい入れ込んでたレース、聴き逃してはならじ。
「はい、お次宗匠の出番ですよー」と楽屋に帰ってきた永六輔さんにいきなりラジオを押し付け両耳にイヤホン突っ込み
「永さん、このレース聴いてといてね!」
それだけ言い置いて舞台に出ていく扇橋。


高座返し(舞台の準備)がすんで楽屋に戻るとラジオを持って呆然としている天下の永六輔が、前座の私に向かって助けを求めるように


「扇治く~ん。僕競馬まるで詳しくないんだけど、この放送のどこをどう聴いて覚えとけばいいのかな?」


まるで落語『本膳』のサゲのような口調で問いかけてきたのを思い出します。
③円朝忌 扇姫金 92.8.11

これは説明不要ですが(笑)。この写真の時はうっすら記憶にあります。
さん吉師あたりが撮ってくれたはず?。全生庵の玄関前
円朝忌 扇姫金 92.8.11.jpg

扇治師は前々年秋、姫ねぇは前年秋二つ目に。
アタシは前座二年目の22歳。体重55キロです
それから28年。今、75キロあります(笑)


28年で20キロ増か。
大きくなったね、金八師。


毎年8月10日、落語界中興の祖・三遊亭圓朝を偲びお墓のある谷中全生庵で行われる『圓朝忌』でのスリーショット。
左から私・扇治、林家きく姫師、金八師。


写真を撮ってくれた柳家さん吉師匠は、三遊亭金馬・先代柳家小せん各師らカメラ好きが集まって作った写真同好会『パチパチ倶楽部』のメンバー。


岩合光昭さんのように常に一眼レフの高級カメラ持ち歩いてて、まるで息をするがごとく楽屋や往来で仲間のスナップを撮影。
それをすぐ焼き増しして、被写体当人に惜しげもなく渡してくださる。


フィルム代・現像料だけでも、月々のかかり大変だったと思います。
写真を頂戴する方としてはとても、ありがたい。
ありがたいの、だけれども(古今亭圓菊師匠風)。


多い時は1日おきくらいのペースで、楽屋で顔を合わせると「ホラよっ」写真を何枚も放って寄こす。

先代小さん・志ん朝といった名人クラスと写っている写真なら人に見せて自慢もできますが、そうでない本当に普通の日常スナップは正直ちょっと迷惑だなと思うことも(生意気ですが)。
人見知りの私は、だいたい写真を撮られるのがあまり得意ではないのです。




さん吉師が好意でくださる写真の数々にちょっと困っていたのは、私だけではありません。
あの名人・志ん朝師匠も楽屋でカメラを向けるさん吉師匠に


「あのさ、さん吉さんさ。撮るなとは言わないけど、後で現像した写真、僕にはくれなくていいからね。
本当に、渡さないでくれる?そっちからもらった写真で押入れが一つ一杯で、カミさんから怒られちゃったんだよ」


真顔ではっきり言ってたくらい。




でも今この状況で昔の写真見返すと、あの頃の懐かしい想い出が一気に甦ってくる。
当時はありがた迷惑なんて、今思うと罰当たりなことを思っていたものです。


やっぱり、写真っていいな。
私も在宅期間中に、物入れの奥にしまったままのさん吉師匠からいただいた写真整理しよう。

蔦飾り線.png

東京は緊急事態宣言まだ続きます。
この時間を使って皆様も、忙しい日常で忘れかけていたあの人あの時の懐かしい想い出を探してみられてはいかがでしょう。

私の胸の宝箱には、こんなエピソードが。



以上で現場からの金八特派員の報告・扇治の蛇足注釈お開きとさせていただきます。
ご拝読、まことにありがとうございます。

またぜひ、ご訪問くださいませ。


入船亭扇治


※江戸言葉遊び・雑俳『web版言の葉落語会』お客様選句のお誘いについては、




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