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『雲隠し』でさらに広がる雑俳の楽しさ [web雑俳]

4月14日からお客様と噺家がネットで一緒に江戸言葉遊び・雑俳を楽しむ『web版言の葉落語会』。
5月6日までは、いただいた句を選者噺家とお客様ご自身(ご投句なさっていない方も、もちろんOK)で優秀作・好きな作を決める互選の期間。


その後は選句結果発表そして、第2回へと繋がって行く予定。
もう緊急事態宣言がいつ解除されるかとは別に、普段通りに洒落と笑いを生む言葉の世界にみんなで遊びましょう!

天地人以外の選とは?

今回は『言の葉落語会』としては初めての、完全web上完結の催し。
どれだけの方がご参加くださるかわからないうえ5月6日を当初の企画終了日と設定しましたので、投句・選句とも数を抑えさせていただきました。


次回はもっと時間的に余裕を持って開催し、さらにたくさんの句を投じ選んでいただきたいと思っております。


お客様に選んでいただく「天・地・人」のほかに、噺家選者連はまず「客」という位で5句採らせていただいてます。
佳作の意、天地人にはわずかに届かないけどやっぱりいい句だ!という選。
「客の一」から始まり、五が「客」の最高になります。


そして「キキ」と並んで雑俳のほかの俳諧にはない互選のお楽しみが、『雲隠し』

雲に隠れた向こうには?

ネット上には小ゑん師匠のお書きになった


のほかには「雑俳」で検索してヒットする情報が本当に少ないのですが、『雲隠し』にいたっては少ないどころか皆無(5月6日私が調べた限りでは)。


えっ、うちの猫こまちは『雲隠し』なんて昔っから知ってるって?
ふーん、偉いね。
じゃあここで読者の皆さんに説明してごらん。


おやすいご用だニャ!

雲隠れこまち.jpg

はいはい、「雲隠れ」ね。
やると思った。
あんたはもういいから、向こう行ってお母さんにおやつもらってなさい。


我が家の駄猫が失礼しました。
ではお詫びついでに飼い主の私から、小ゑん師匠の解説とはまた別にこのブログ上でざっと『雲隠し』についてのお話を。




お忙しい方のために結論から先に申し上げると、『雲隠し』とは


選者が「これは色っぽい句だな」と解釈して採らせてもらう句


のこと。


江戸時代の浮世絵で小さいお子さんや妙齢のご婦人には刺激が強いようなお色気度の高過ぎる絵は、一番危ないところに上から雲を描いて隠し絵師と版元はお上から睨まれるのを回避したそうです。

今でいいう映像・画像のモザイク、放送中の言葉だったらピー音ですね。


雑俳の互選で絵心がある宗匠は、『本巻』(宗匠選を書いた帳)に句と並べてさらさらっと絵を添えてくれる。
艶っぽい句につける絵では、やはり肝心なところをモヤモヤっと雲で隠したところから雑俳でも使われる言葉になったとか。


キキによってがらっと変わる句の印象

『雲隠し』は色っぽい句としての選だというところまで、まずはガッテンしていただけましたでしょうか。


そして一口に「色っぽい句」と言っても、その選び方は二通り。
一つは作者が最初から艶っぽく作ろうとして詠んだ句を、その通りいただく。


二つ目の雲の採り方、これが雑俳の醍醐味の一つ。
詠み手はまるで「色気」なんて意識無しで吟じた作を、選者がキキをつけることによって艶っぽさを加味する。


キキについては


でも触れております。


選者が付ける基本七七の短文は元句を引き立てる効果を上げるとともに、選者が「私はこの句を、こういう解釈で採らせてもらいましたよ」という一座への意思表明


うまいキキによって「えっ、この句ってこういういう意味にもとれるんだ!」句の印象ががらっと変わる。まさに言葉のアクロバット、選者の腕の見せどころ


噺家雑俳連衆の中でも玉照大神(たまてらすおおみかみ=五明樓玉の輔)さんのように
「オレほんとは客の一から天まで、全部『雲隠し』で採りたい!」
と公言して憚らない大の「雲マニア」がいます。


次回以降の企画では、ぜひお客様にも天地人と併せ『雲隠し』も選んでいただきたいと思います。

うまくはありませんが、雲の例

こんな感じ…とご説明するため決してうまくはありませんが、池袋演芸場での『第1回言の葉落語会』で私が『雲隠し』で採らせていただいた句とキキをご紹介しましょう。


・兼題:洒落附 春の物事一切

お客様がお詠みになったのは


春物に触る


「腫れ物にさわる」の洒落、お上手ですね。

真冬の分厚いコートやセーターに慣れた身体には、春の衣装って本当に着ただけで肩が軽くなって気持ちいい。
これから、希望に満ちた季節が始まる。


そんな思いと、春物の洋服は冬物よりはぐっと薄手だから無造作に触るんじゃなくてそーっと優しく触れている。そういったところから詠まれた句なんだろうなと想像しつつ、あえて「雲」の方へ持っていって


キキ 薄き布地をまとうやわ肌
春物に触る


18禁で頂戴した次第。


・兼題:笠附「ぜいたくは」
決まった言葉を句の頭につけた川柳だから、「笠」。


とてもきれいな句をお詠みになった方がいらっしゃいました。


ぜいたくは跡つけ染めし銀世界


俳句としてもじゅうぶん通用する御作だと、感服。
朝目を覚ましてみたら、夜半から降り積もった雪でご自宅の前一面が真っ白だったのか。

整備がすんだばかりのゲレンデに一番乗りして、自慢のスキーで鮮やかなシュプールを白銀の上にしるしたのか。

いろんな解釈ができる句ですが、嗚呼それを私は罰当たりなことに


キキ おぼこ娘を落とす二枚目
ぜいたくは跡つけ染めし銀世界


と。
もう完全にR指定です。
さすがに自分でも高座で読み上げる時は、
「こんないただき方でどーもすいません!」
先代三平のようにお客様に謝りました。

蔦飾り線.png

このように、言葉を操って無限に広がる江戸言葉遊び・雑俳の世界

このあとの選句結果発表・第2回兼題のお知らせ。
そしてかねてより告知しておりました『web版言の葉落語会』公式テーマソングも、近いうちに公開できそうです。


すでにご贔屓くださっている方、ここから初めて当ブログや雑俳に入って来てくださる方、皆さんWelcome。

ご一緒に、のんびりワイワイ賑やかに、楽しく風薫る5月を過ごしましょう!


お開きまでお付き合いいただきまして、まことにありがとうございます。
またのご訪問、心よりお待ち申し上げております。

入船亭扇治


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