お客様との出会いで知った、島からの絶景~にっぽん丸で訪問・秋の生口島①~ [旅のアルバム]

小型船で向かう島
2021年10月半ば、客船にっぽん丸の「週末利用クルーズ」に乗船の筆者。
航海3日目は、瀬戸内海に浮かぶ生口島に寄港。

午前7時・オプショナルツアーご参加のお客様に先駆けて、自由行動の人が上陸可能に。
沖に錨泊したにっぽん丸から島までは、小型の通船で移動。
早朝から運行の第2便は定員に充分余裕があったので、私も乗ることができましたに。
早朝から運行の第2便は定員に充分余裕があったので、私も乗ることができましたに。
今回はにっぽん丸搭載のテンダーボートでなく、現地の小型船が送迎してくれます。

通船乗り場から振り返って見る、にっぽん丸の船腹。
小型通船(それでも30人以上乗れる)と比べると、その大きさをあらためて実感。

早朝の船着き場に到着
「にっぽん丸が見えるよー」
波を蹴立てて島へ向かう通船の中で、ご機嫌のこまち。


午前8時前、朝日がきらめく小岸壁に到着。

私たちが乗ってきた船と入れ違いに、ほかの島との連絡船が出航…。したかと思ったら、バックしてまた船着き場へ。

こういうところも、都会と違ってのどかでいいですね。
島と言えば、「坂道」!
生口島の住所表記は、「広島県尾道市瀬戸田町」。
瀬戸内の島と言えば、坂道が付きもの。
私の大好きな大林宣彦監督の尾道を舞台とした作品には、坂道が印象的なシーンがたくさん出て来ます。
この島にもありました。
民家の脇に伸びる、島頂へと向かう石段。
これを上り切った先には、国宝の三重塔が建つ名刹・向上寺が。
民家の脇に伸びる、島頂へと向かう石段。

辿り着いた三重塔
しかしまだその先が…
しかしまだその先が…

けっこう勾配がきつい石段を上っていくと、朝の空気はひんやりしているのに汗が流れてきます。
私と同じように、途中で不安になる方が多いんでしょうね。
道半ばに、こんな看板が。
道半ばに、こんな看板が。

これに励まされ、汗を拭いつつえっちらおっちら先へ進むと…。
ようやく、三重塔のてっぺんが見えてきました!

ここまで来れば、あとひと息。
一気に上りきると、正面に
と称えられる和様・唐様折衷の鮮やかかつ荘厳な塔の全容が!
と称えられる和様・唐様折衷の鮮やかかつ荘厳な塔の全容が!

頭を垂れ両手を合わせてから、近くによってアップで撮影。

(ああ、いい物を拝ませてもらった。汗かいて上ってきた甲斐があった)
いい写真も撮れたことだし、そろそろ下りるか…。
いい写真も撮れたことだし、そろそろ下りるか…。
塔に背を向けて歩き出そうとした私に、下から上がって来た女性が声をかけてくれます。
え、ええーっ!
頑張って上ってきて、まださらにこの先があるの?!
頑張って上ってきて、まださらにこの先があるの?!
お客様が教えてくれた
生口島の絶景スポット
生口島の絶景スポット
私に話しかけてくださったのは、七十代くらいかなと思われる元気なお母様とご一緒の女性=にっぽん丸のお客様。
以前にもクルーズで生口島に来たことがあり、島の一番高いところまでお上りになったのだそうです。
その時のご経験から
を、丁寧に教えてくださいました。
を、丁寧に教えてくださいました。
これを聞いて、先へ進まないわけにはいきません。
お客様方にお礼申し上げて、さらなる頂きを目指します。

写真を撮ったところから島頂までの道のりは、さほどではありませんでした。
ただ距離は短くても、ススキや蜘蛛の巣が道まで進出してきており大変に歩きにくい。
なんだかインディ・ジョーンズになったような心持ちで生い茂る草をかき分け上って行くと…。


出ました、
絶景スポットに!

お客様が教えてくださった通りの風景が、そこに広がっています。
時折りトンボが行き交う青い空をバックにそびえる、長い年月に渡り島を見守ってきた三重塔。
その彼方には、優雅な客船が浮かぶ海。
時を忘れ見とれる私の周りには、今誰もいません。
朝の秋風に吹かれながら、絶景スポット独り占め。

ああ、あのご婦人のおかげで本当にいい体験ができた。
こういうお客様との交流があるのも、船旅のいいところ。

坂道を下りる途中でもう一度振り返り、三重塔名残の一枚をパチリ。

さぁ下ではそろそろ、瀬戸田の街も目覚め始めているでしょう。
それじゃ今度は、海沿いの道を散策するとしますか。
※当クルーズ最初の寄港地・別府については、
で綴っております。

お開きまでお付き合いいただきまして、まことにありがとうございます。ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝
入船亭扇治拝
タグ:にっぽん丸 写真
あなたは手紙を 書きたくなる~あの名作アニメ、特別編集版・OVAがテレビ地上波初放送!~ [お気に入り・おすすめ]
10月29日から、北海道へ行く筆者。
共同執筆猫と一緒に、衆議院選挙の期日前投票を済ませてきました。

投票と同じくらい、
忘れてはいけないのは…
忘れてはいけないのは…
正式名称”投票所入場整理券”を背に、布団の上で
「国民の権利、ちゃんと行使せいよ」
と厳しい目(?)でこちらを見るこまち。
単に、眠くて目つき悪いだけのようにも見えますが。
「国民の権利、ちゃんと行使せいよ」
と厳しい目(?)でこちらを見るこまち。


こまちに言われなくても、選挙の一票は大事に投ずるべきもの。
仕事で留守にするから棄権なんて、もってのほか。
ぎりぎりにはなりましたが、忘れないで冒頭イラストの通り投票は完了。
これで安心して、北の大地を目指すことができます。
そしてもう一つ・旅に出る前の私には、やっておかなければならない重要なミッションが。
それは、10月29日(土)21時からの『金曜ロードショー』を録画予約すること。
当日この番組枠で放送されるテレビアニメ「特別編集版」は、私にとっての好きな女性アニメキャラクター歴代ベスト3に入るヒロインが登場する作品。
そう、彼女の名は
ヴァイオレット・エヴァーガーデン。
ヴァイオレット・エヴァーガーデン。

涙腺崩壊必至、
「京アニ」の名作
「京アニ」の名作
『ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン』は、数々の名作アニメを世に送り出している「京都アニメーション」の製作。
2018年1月から、同年4月にかけてTOKYO MX等で放送されました。全13話、のちにOVAと劇場版が1作ずつ作られています。
コロナ禍で延期になった劇場版は、2020年9月に公開。前掲の画像は私9月28日新宿TOHOシネマズへ観に行った時、ロビーで撮ったもの。

この完結編映画も号泣ものでしたが、数奇な運命を辿るヒロインの人生をまた一から新しく観られる『金曜ロードショー』でのテレビシリーズ特別編集版と、OVA。
2週続けて、涙腺崩壊間違いなしの傑作。
ご鑑賞時には、ハンカチ・タオルのご用意お忘れなく。

「手紙」が育む
ヒロインの感情
ヒロインの感情
正直こういったシチュエーションは、過去に枚挙いとまがないほどアニメや特撮ドラマでは多く使われてきました。
でも『ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン』という作品のほかにはない”肝”は、
であるという設定。
であるという設定。
落語『手紙無筆』のように字が書けない人が多い、『ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン』の作品世界。
そういった人たちに代わってタイプライターを打つ「自動手記人形=ドール」は、この世界では花形職業の一つ。
卓越した身体能力と頭脳の持ち主である主人公ヴァイオレットは、驚異的なスピードで代筆の仕事に習熟。たちまち引く手あまたの、売れっ子ドールに。
そして依頼される、
気持ちを伝える手紙。
気持ちを伝える手紙。

古文書の写本や舞台劇の後述筆記といった仕事もこなしながら、日々多くの手紙を代筆するうちに。
その手紙に込められた差出人たちの想いが、冷たく固まっていた戦うことしか知らない少女の心を柔らかく溶かしていく。
原作者・暁佳奈さんのオリジナルコンセプトを、京アニのスタッフが丁寧に繊細に織り上げた『ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン』。
初見の方もファンの皆様も、ぜひこの機会に手紙と言葉が紡ぐ素敵なドラマ。
満喫していただきたいと思います。
私も当日北海道の宿にて、『金曜ロードショー』観る予定ですよ。
満喫していただきたいと思います。
私も当日北海道の宿にて、『金曜ロードショー』観る予定ですよ。
テレビシリーズのオープニング曲「Sincerely」の歌詞に
とありますが…。
ヴァイオレットの物語に触れたあと、あなたはきっと
書いてみたくなることでしょう。
書いてみたくなることでしょう。


お開きまでお付き合いいただきまして、まことにありがとうございます。 ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝
入船亭扇治拝
タグ:おすすめアニメ
進化し続けるスマホ カメラ、旧端末との機能差にびっくり [日々雑感]
10月も末、近所の美容室に飾られたタペストリーを新しいスマホカメラで撮影。
少し離れたところからでもけっこう細かいところまで撮れており、ジャック・オー・ランタンや黒猫たちも嬉しそう。

"親切な現像”に
助けられた紙焼き写真
助けられた紙焼き写真
誰もが気軽に「スマホで撮影」できるようになるなんて、想像もしなかった頃。
私たちはカメラで撮った風景や子ども・ペットなどの大切な写真を、紙焼きで現像してもらっていました。
そして町の良心的な写真屋さんは工程を全部機械任せにしないで、細かいところは手作業で現像。
素人が撮った逆光やピンぼけのネガを、できるだけきれいに補正してくれているのだそうです。

スマホ撮影でその「親切なDPE」を行うのは、端末に内蔵された小さなCPUチップ。
デジタル撮影した画像を、集積回路がスピーディーにかつ丁寧に処理。
シャッター押したらリアルタイムで、美しい1枚に仕上げて画面に表示。
シャッター押したらリアルタイムで、美しい1枚に仕上げて画面に表示。
ほんとに、便利な世の中になったものです。
高性能チップで
写真の画質ぐっとアップ
写真の画質ぐっとアップ
私の愛用しているiphoneだと、1年おきに新世代チップ搭載の新機種が登場して話題に。
この度2年半活躍してくれたiphone8(無印)から昨年モデルiphone12miniに機種変更して、写真の画質がぐっと向上しているのに感動。
たとえば客船にっぽん丸の、舳先なめで臨む海と島。


どちらもweb用にサイズと解像度はかなり落としていますが、8に比べて12miniの方がよりシャープで細やかな仕事がしてあるなと感じました。
楽しいから、
どんどん撮っちゃう!
どんどん撮っちゃう!
新調iphoneのカメラ機能を使いたくていても立ってもいられず、スマホ握りしめて方々撮影してまわる筆者。
手始めに、見慣れたうちの庭のツワブキをパチリ。
外付けマクロレンズ装着して接写すると、今まで見たことのない光景が眼前に。


近所の公園に咲く、ランタナの花手毬。

そのモードでカメラを向けると、普段やんちゃなこまちもちょっとおすまし。

多彩な機能で
広がる撮影モード
広がる撮影モード
私の新しい相棒は、旅先でも実力を発揮してくれています。
で綴っております、にっぽん丸秋の別府・生口島クルーズ。
これまではかなり離れないとファインダーに入りきらなかった船体が、12miniの超広角レンズを使うと近距離からでもかなりの範囲をフレーム内におさめることが可能に。

さらに感動したのは、iphoneの「ナイトモード」。
昨年11月にっぽん丸に乗った時撮った、夜の瀬戸大橋。
七色にライトアップしたレアな姿なので、なんとか記録に残したかったのですが…。

その時は風のせいで手ブレ激しく、乏しい光量と通常レンズではこんなのしか撮れませんでした。
それが今回のクルーズで、光感度アップした超広角レンズとナイトモードの合わせ技を使うと…。
夜の灯りだけで、こんなに鮮やかにアップで撮影することに成功!

この1枚を撮れただけでも、今の機種にした価値はあったというもの。
☆非対応iPhoneでも、“ナイトモード撮影”が可能に!~夜景や暗所での撮影に、おすすめアプリご紹介~で触れた、ナイトモード非対応機でも夜間撮影できる「Neuralcam NightMode」。
この有料アプリもある程度まで光量の少ないところでの撮影を可能にしてくれますが、やはり純正ナイトモードと比べると若干精度と仕上がりは落ちます。
※両者の比較画像は、別記事にて掲載予定。
※両者の比較画像は、別記事にて掲載予定。
畳と何とかは、
新しい方が…。
新しい方が…。
手の出しやすい価格ながら高性能の、iphoneSE第二世代。
そちらより2万円程度お高い、iphone12mini。
そちらより2万円程度お高い、iphone12mini。
どっちにするか、本当に悩みましたが…。
実機を手にした今は、(この子にしてよかった!)しみじみ思います。
実機を手にした今は、(この子にしてよかった!)しみじみ思います。
2万円節約してカメラ性能に差がある機種を選択したら、スマホで写真撮るたびに(やっぱりケチらないで、あっちにしときゃよかった)くよくよしたことでしょうから。

物を大事にするのはいいことですが、現代人の必需品で日常酷使するスマートフォン。
私の場合は、2年半〜3年ほどで機種変更するのが頃合い。

私も新しい洋服や靴などを買った時と同じように、新調iphoneで外出先での撮影が楽しくて仕方ありません。
さあ、今日はどこへ行って何を撮ろうか!。
なんてことを思いながら出かけた、岐阜での学校公演。
なんてことを思いながら出かけた、岐阜での学校公演。
帰りに名古屋駅で珍しい「ドクターイエロー」新幹線に遭遇!
急いで撮ろうとしたのですが、顔認証でロック外すのに手間取っているうちに遠ざかってしまいました。

ああ、今度は望遠機能も欲しい…。

お開きまでお付き合いいただきまして、まことにありがとうございます。ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝
入船亭扇治拝
”地獄”で満喫する「極楽気分」~客船にっぽん丸秋のクルーズ別府(後編)~ [旅のアルバム]

熱い”地獄の煙”
眺めるだけでも温泉気分
眺めるだけでも温泉気分
☆湯煙たなびく別府を一望、無料の展望スポット~客船にっぽん丸秋のクルーズ別府(前編)~で訪れた別府の地、空き時間を使って少し”観光”らしきことをしながら散策中の筆者。
高台の展望台から温泉街を一望したあと、そこからほど近い鉄輪(かんなわ)地区へと足を延ばします。
鉄輪温泉と言えば、
「地獄めぐり」で有名。
湧出箇所によって泉質が異なることから、お湯の色が赤かったり白かったり・大きな泡がポコポコ湧いていたり。
それぞれの源泉は「血の池」「白池」「鬼石坊主」などの”地獄”と名付けられ、独立した七つのミニ温泉健康ランドになっています。
そんなにお高くないしどれか一つくらいは実際に入ってみてもよかったのですが、夕方からにっぽん丸船内で高座がありますのでお昼過ぎには帰っていたい。
ちょっと時間的に慌ただしいので、私は街のあちこちにたなびいている湯けむりを眺めるだけにしておきました。

代わりにイラストこまちには、地獄の中でも一番有名な「血の池」に入ってもらうことに。

ついでにもう一つの地獄、「かまど」で記念撮影。

私の方は街のあちこちから噴き出している”地獄の煙”を見るだけでも、けっこう温泉気分は味わうことができましたよ。

公園の中にある、湯けむり吹き出し口。
近づくとかなり熱く、煙にあたると本当に温泉に入っているような気がします。

蒸気越しに眺める空もきれいだったので、編集した動画を10月24日付Twitterに上げておきました。よろしければ覗いてみてください。
☆https://twitter.com/senjitonaraban1/status/1452175390546350082
☆https://twitter.com/senjitonaraban1/status/1452175390546350082
街のあちこち
あふれる”地獄”
あふれる”地獄”
「借金地獄」「薬物地獄」なんてのは、できたら避けて通りたいもの。
国産怪奇幻想短編を集めたアンソロジーの常連、
など、読後そくそくと怖い小説もたくさん書かれています。
など、読後そくそくと怖い小説もたくさん書かれています。
ことほど左様に、人間にとっては恐ろしいところ「地獄」。

ところが当地別府では、北海道登別と並んで日常風景の中に”地獄”があふれています。



「海地蔵んとこ左に曲がって」とか「かまど地獄そばの喫茶店で待ち合わせ」なんて会話が、地元の方の間では普通に交わされているのでしょう。

いにしえの頃このあたりは熱い湯気と湯泥が噴出して、人間が気軽に近づける場所ではなかったそうです。
そんな恐ろしげな場所だからついた、”地獄”という呼び名。
それを逆手にとって観光資源にという「地獄めぐり」は大正6年(1917年)に始まったと言いますから、長い歴史があるんですね。
”地獄を極楽に変える”このアイディア、私たちが逆境に立ち向かう時の参考になるような気がします。
帰り道の
街角スナップ
街角スナップ
方々にたなびく湯けむりを眺め、熱い湯気を浴びて別府温泉街散策を満喫した筆者。
さて、そろそろ帰り道にならなくては。
鉄輪温泉街は高台なので海の方角に視線をやれば、すぐ帰るべきにっぽん丸の姿が見つかります。

方向音痴な私でも道に迷うことはないので、安心して街角のスナップ写真を撮りにちょっと脇道へ入ったり。
「かまど地獄」入り口にいた、招き猫さん。

お宅の塀に置かれた、忍び返しのボール。


九州横断道路沿いにある、かっぱ寿司。

こちらは駐車場、お店はその脇にありました。

ここまでくれば、港はもうすぐそこ。
さぁ早く帰ってシャワー浴びて、船内でおいしいお昼いただいて。
夜の三回公演に、備えるとしますか。

次なる寄港地・瀬戸内海生口島については、また別記事にて。

お開きまでお付き合いいただきまして、まことにありがとうございます。ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝
入船亭扇治拝
タグ:にっぽん丸 入船亭扇治
「下げるべき時には、きっちり頭を下げろ」今に生きる、亡き師匠・扇橋の教え [落語情報]
携帯電話の普及に伴い、2021年6月30日をもって完全終了した「新幹線の電話サービス」。

100円玉握りしめ
「今から帰るんで、CIAOちゅ~る用意しといてね!」
うちへ電話しようとした黒猫こまち、呆然。
「今から帰るんで、CIAOちゅ~る用意しといてね!」
うちへ電話しようとした黒猫こまち、呆然。
思い出す
見習い時代の大しくじり
見習い時代の大しくじり
新幹線開業翌年の1965年から、56年間サービスを続けてきた車内公衆電話。
食堂車の時と同じように、廃止直前には多くの鉄道ファンが写真を撮りに来ていたそうです。
そのカンヅメ生活中・お手洗いに立って目にした「サービス終了」の札が貼られた緑の電話機が、私の中の古い記憶を呼び覚まします。

前座として正式に弟子入りする前に当人の了見や適性を見極めるため、うちの師匠はだいたい半年くらいは見習いの期間を設けていました。
師匠宅の掃除やお使いなどしながら、噺家として最低限必要な礼儀作法と芸の基本を教わる時間。

寄席の楽屋や脇の仕事にはまだ連れて行ってもらえませんが、東京駅や羽田空港までの鞄持ちは任されるようになった頃。
入門三月目で修業生活にもある程度慣れて、ちょうど気の緩む時期だったのでしょう。
静岡での学校公演のため早朝に家を出る師匠を、東京駅まで送っていくことになっていた当日。
前夜の夜更かしがたたった私は、ものの見事に寝坊・遅刻してしまったのです!

「クビにするよ」
なんとか挽回を…
なんとか挽回を…
その頃はこうやって起こしてくれるこまちはいませんから、窓から差し込む陽の光で目覚めた私。
枕もとの時計を見ると、師匠から「うちに来い」言われた時刻をはるかに過ぎている。
(いけねっ、寝坊した!)
慌てて飛び起きると、顔を洗って身支度をしアパートを飛び出します。
慌てて飛び起きると、顔を洗って身支度をしアパートを飛び出します。
歩いて2分の師匠宅に、30秒で到着。
表の扉は鍵がかかっていなかったので開けて中に入り、玄関先で「すいません、遅刻しました!」土下座していると、奥からおかみさんが出て来ました。
おかみさんにそう言われて「申し訳ございません…」頭を下げ肩を落として、師匠宅を後にします。
馬券を買って
汚名挽回?
汚名挽回?
トボトボと戻ったアパートの四畳半、膝を抱えて
しょげている私に追い打ちをかけるように、あることが脳裏にひらめきます。
その日は土曜日で、前日に競馬好きの師匠から
頼まれていた私。
しょげている私に追い打ちをかけるように、あることが脳裏にひらめきます。

その日は土曜日で、前日に競馬好きの師匠から
頼まれていた私。

このイラストのように、競馬新聞と馬券を手に目の色変えて馬に声援を送る。
うちの師匠は、そういう殺気だった競馬はやりませんでした。
うちの師匠は、そういう殺気だった競馬はやりませんでした。
ことより
なんて都市伝説を洒落半分で信じながら、100円単位で枠連を何点か買うだけのの~んびりとした遊び方。
なんて都市伝説を洒落半分で信じながら、100円単位で枠連を何点か買うだけのの~んびりとした遊び方。
それでも俳句と並んで、師匠なりに楽しんでいる趣味の一つ。
鞄持ちが務まらなかっただけでなくその楽しみにしていた馬券まで買い損なったとあれば、これはもうクビ確定です。

しかし逆に言うと、今から師匠に聞いて馬券だけでも買うことができたら…?
ひょっとしたら、いくばくか汚名挽回につながるのではないか。
学校公演事務所から送られてきたコース表を私も見ていましたから、師匠の乗る新幹線の列車名はわかっています。
今思うと浅はかな考えですが、その時は夢中ですから。
すぐアパートの別棟に住んでらっしゃる大家さんに訳を話し、電話を借りて師匠が乗っている新幹線にかけてみたのです!

2004年でこのサービスは終わっていますが、当時はまだ
「列車内着信」ということが可能でした。
けっこう高額なサービス料がかかりますが、今はそんなことを言っていられません。
祈るような気持ちで受話器を握りしめ、新幹線通話センターからの応答を待つクビ寸前の見習い噺家。
1時間以上かけ続けましたが、当然師匠に私の電話がつながることはありませんでした…。
沈黙ののち
師匠が教えてくれたこと
師匠が教えてくれたこと
万事休す。
苦肉の挽回策も徒労に終わった私は、その夜9時過ぎに再び師匠宅を訪れました。
インターフォンを押すとおかみさんが出て来て、
言われた私はおずおずとダイニングキッチンに入り、Pタイルの床に両手をつき
蚊の鳴くような声で何とかそれだけ言って、あとはただ頭を下げていることしかできません。
蚊の鳴くような声で何とかそれだけ言って、あとはただ頭を下げていることしかできません。
テーブルに肩肘ついてテレビを眺めながら、黙ってタバコをふかしている師匠。

沈黙の時間が続いたのは、実際には5分ほどだったでしょうか。
私には無限に感じられる時が流れたあと、ようやくタバコを灰皿で揉み消すと師匠がこちらを向いてくれました。
「お前、今朝遅刻したあとな…」
声を荒らげることなく、静かに語り始める師匠。
声を荒らげることなく、静かに語り始める師匠。
懇々と諭してくれたあと師匠は、「今回は初めてだから」というので私のしくじりを許してくれました。
「頭を下げる」
簡単なことだけれど…
簡単なことだけれど…
なんとか首の皮一枚で、破門を免れた私。
そのあとも細かいしくじりは山とやらかしましたが、師匠とおかみさん・兄弟弟子たちに助けられ1987年3月に正式に前座として落語協会に登録してもらうことができました。
そうなると晴れて駅までの送り迎えだけでなく、旅先までお供することができるように。
そんな師匠との旅、扇辰師も一緒。

2001年には、真打に昇進させていただきました。


でもそれができない大人が、世間にはたくさんいるのが現実。
私自身も万たびそうできているかというと心もとないですが、できるだけあの時の師匠の教えは守っていきたいと思っています。

※その扇橋の弟子・孫弟子競演の『入船亭一門会』、10月30日18時より池袋演芸場にて開催。

☆senji1365@gmail.com

皆様のご来場、心よりお待ち申し上げております。

お開きまでお付き合いいただきまして、まことにありがとうございます。ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝
入船亭扇治拝