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噺家の必需品・風呂敷が伝える「和のこころ」~ 名人たちの風呂敷画像もご紹介!~ [江戸のトリビア]


レジ袋も有料となり、マイバッグ持参での買い物が定着した私たちの暮らし。

自在に形を変え、様々な包み方ができる「風呂敷」。

こちらも使い慣れると、
大変に重宝なもの。


噺家支度の必需品

あらたまった席でお使いものにする時は、紙や布の袋から品物を出すより。

結び目を解くと、
「はらり」。
中身が出て来る風呂敷の方が、上品でいいですよね。

風呂敷包み持参.jpg

私は寄席と先輩宅にお歳暮で伺う時は、必ず風呂敷で持参するようにしています。

それ以外にも日々の仕事先へ行くのに、着物一式を包みますから。
風呂敷は噺家にとって、なくてはならないもの。

支度をしようと着物を広げると、紐大好きな黒猫こまちが羽織にじゃれついてきたり。

着物の支度手伝う.jpg

このイラスト用に、実際にタンスから一式出して撮影していたら。

着物踏んでいく.gif

は、羽二重の羽織を!
素足で踏んでかないで…。


名人たちの名入り風呂敷

お互い使うとわかっていますから、真打披露など仲間うちの祝儀不祝儀の引き出物として。
よく使われる、
名入り風呂敷。

そんな品の中から、何枚か画像でご紹介しましょう。



まず、『横浜高島屋落語会』第20回記念風呂敷。

高島屋落語会風呂敷.jpg

もう雲の上へ行かれた人も多い、豪華な出演陣。

生地もしっかりしていて使いやすいので、私のお気に入りの一枚。

過去記事では、こんなGIF画像を掲載したことも。

風呂敷を包むこまち.gif



続いて、大師匠にあたる先代・柳家小さん師匠の風呂敷三連打。

①芸歴50周年記念

小さん師匠2.jpg

顔が似ているからと、色紙に狸の絵を好んで描いた小さん師匠。
芸と人で、ほかの人より抜きんでるようにと。
「狸」を「他抜」と書くのが常でした。


②人間国宝認定記念

小さん師匠1.jpg

①とはまた違ったタッチの、目がぱっちりでかわいい狸。
なんとなく、イラストこまちと雰囲気が似ているような気が。


③没後、お弔い返礼

小さん師匠3.jpg

お香典返しですから、墨色で仕上げられた上品な風呂敷。
茶釜から覗いている狸、小さん師匠が皆にお別れを言っているようにも見えます。



お弔いと言えば、古今亭志ん朝師匠のお返しも風呂敷でした。

志ん朝師匠風呂敷.jpg

もったいないから、頂いたままタンスにしまいっ放し。

初めて広げてみて、右肩の「ご贔屓さん江」の文字に感無量。

不世出の名人からこんなこと言われたら、恐縮しちゃいますよね。

※志ん朝師匠の想い出は、名人古今亭志ん朝のお宝エピソードの記事などでも触れております。


「風呂敷」の語源とは?

普段お世話になる風呂敷、その名のいわれを調べたことがあります。

天平時代~奈良時代、僧侶の袈裟・楽人の衣装や楽器を包むのに布が使われるように。

平安時代に入ってその習慣は貴族階級の「古路毛都々美(ころもづつみ)」から、「平包み」という名称で庶民にも浸透。

それが「風呂敷」に変わったきっかけは、 室町時代。
足利義光が都に設けた大湯殿で各地の武将を接待した折、家紋入りの袱紗や平包みを敷いた上で着替え・衣服を包むんだところから。


風呂敷は領分.jpg

徳川幕府開闢後もしばらくは、特に江戸の街では風呂敷=銭湯通いの必需品。

手拭や垢すりなどの入浴用品を包んで、銭湯まで持参。
板の間に敷いて、その上で着替える。

現代に例えるなら、エコバッグとレジャーシート一体化の便利グッズ。


銭湯用具から、運搬用に
風呂敷の用途も変化

しかし時代が下り、男女混浴が多かった江戸の銭湯も。
次第に、男湯・女湯別れた湯屋が増えてきます。

それまでは入浴時身に着ける人が多かった、身体を隠す「湯褌」「湯巻」。
異性の目がなければ必要ありません。

嵩張る荷物が減ったので、お湯道具はわざわざ大きな布で包むこともなくなりました。
銭湯にも、板の間に銘々用の脱衣かごを置くところも多くなり。

その頃から風呂敷は「銭湯通いの必需品」から、「物を包んで運ぶ」今の使い方へと変化していったのです。



道行く商人たちがしょっている風呂敷包みには、その商家の屋号が目立つように染め抜かれ。

行きかう人々がそれを見て、
「おっ、○○屋の若い者が、あんな大きな荷を担いで忙しそうに来るよ。繁盛してんだねぇ。じゃあ今度俺も、あそこでなんか買ってみよう」
広告塔の役割を果たしました。



婚礼用具を包む家紋入りの豪華な風呂敷には、決まって七福神などのおめでたい吉祥模様が描かれます。

昔から漫画などに出て来る「間抜け泥棒」が担いでいる、唐草模様の風呂敷。
あれも「力強くどこまでも伸びていく」、中国産植物の生命力にあやかろうという意味が込められているのです。

世界で初の人口100万人都市になった江戸の街では、一般用・商用・婚礼用の風呂敷が大流行。

大丸呉服店では最盛期に、年間6万枚の仕入れがあったといいます。

包む品物によって、自由に形を変える風呂敷。

一枚の長い布を使って、美しい結び目を産み出す。
和服の帯に通じる、「和のこころ」を今に伝える風呂敷。

噺家でない皆様も、機会があったら風呂敷にもっと親しんでみませんか?

『心をつつむふろしきの美』
森田知都子 著
産経新聞社 刊
『モダンふろしき案内』
佐々木ルリ子
菅原すみこ 共著
河出書房新社 刊


きれいな写真や興味深い解説で、風呂敷が身近になる書籍いろいろ。
本屋さん・図書館・ネット通販で、気軽に読むことができますよ!

そして私たちの心も、風呂敷のように柔らかく人を包みこむようでありたいもの。

そんな風呂敷が活躍する落語については、黒澤映画のあの名作と、落語『風呂敷』の意外な共通点で有名作品を引用して考察。
未読の方、よろしければ覗いてみてください。

梅の罫線450.png

お開きまで
お付き合いいただきまして、
まことにありがとうございます。
ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝

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