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黒澤映画のあの名作と、落語『風呂敷』の意外な共通点 [落語情報]


令和2年も、残りわずか。

暮れのご挨拶、今では宅配や通販で品物を贈るのが当たり前。

でもまだまだ直接お歳暮に伺う習慣が今に残るのが、噺家の世界。

贈答品持ち歩くのに重宝なのが、紙袋やエコバッグではなく。

昔ながらの風呂敷。
風呂敷現行犯.png

風呂敷と縁深い、噺家社会

風呂敷と聞くと多くの方が冒頭イラストのような光景、思い浮かべるのでは。

鼻の下で結んでほっかむり、唐草模様の大きな風呂敷包み担いで抜き足・さし足。昔の漫画・アニメの間抜け泥棒って、たいていこんな風に描かれていましたね。

レジ袋が有料になって、風呂敷もまた少しずつ注目を集めているようですが。

テレビのコマーシャルような、紫の風呂敷で包んだお使い物。今では、昔ほど日常目にするものではありません。
おちゅ~る元小.gif

でも私たち噺家にとって、風呂敷はとても身近な物。盆暮れの贈答品包むのはもちろんですが、それ以上に仕事へ行く時の着物を包みますからね。

我が家では衣装の支度をしていると、黒猫こまちが「手伝うー」と参加してくることがよくあります。
風呂敷を包むこまち.gif

落語『風呂敷』ご紹介

噺の演目で、そのものずばり
『風呂敷』という一席が。



『風呂敷』あらすじ

町内に一人はいる、面倒見のいい兄貴分肌の男。そこへ仲のいい弟分の女房が、血相変えて飛んで来る。

こみいった用で、今日の帰りは遅くなると言って出かけた亭主。

その留守に訪ねてきた町内の若い衆と、茶飲み話の最中に急な雨。

家の中が濡れないように雨戸をたて切ったところへ、思いのほか仕事が早くすんだ亭主がへべれけに酔っぱらって帰ってきた!

またこの亭主、普段から大変なやきもち焼き。酒が入るとなお訳がわからなくなるから、たちが良くない。

妙に勘繰られて、町内の若い者に手を挙げられては困ると。女房はとっさの気転で若者を、三尺の押入れに匿ってから亭主を家に招き入れる。

酔っぱらっていてすぐ寝るだろうから、そうしたら若い衆を逃がそうと思ったのが。

その晩に限って、なかなか寝ない亭主。 寝ないどころか、「飲み直すんだから酒買って来い!」。

若い衆がひそんでいる押入れに前に亭主、どかーんとあぐらをかいて座り込んじゃった。

困った女房は酒を買って来るふりをして、兄貴分に相談に来たのだが…。



間男を扱った噺では『紙入れ』と並んで、皮肉なサゲが効いている演目。

ただ噺にも流行りがあって、このネタは『紙入れ』に比べて高座にかかる回数減ってきました。

得意にしていた古今亭志ん生の動画が、古今亭志ん生(五代目) - 風呂敷 に上がっています。

今なお色褪せぬ、
時代劇の名作

さて、ここから今回のテーマ。

落語『風呂敷』と、
日本映画の巨匠・黒澤明の
あの名作に。
意外な、共通点が。

その作品とは、1961年公開
三船敏郎主演の痛快時代劇
『用心棒』
用心棒 ジャケット.JPG



映画『用心棒』あらすじ

からっ風が吹き抜ける、 ある宿場。

二人の賭場元締めが対立、町は特産品の絹織物市がたたないほど荒れすさんでしまったその町へ。

ある日ふらっとやって来た、風来坊ながらめっぽう腕のたつ浪人

その剣術の技を目のあたりにした双方の博奕打ち親分、金を弾むからと浪人を勧誘。

対立しているのは、名主を後ろ盾にした馬目(まのめ)の清兵衛一家と。
馬目の清兵衛.png

金持ちの造り酒屋が後押しする新興勢力、新田の丑寅一家。
丑寅一家.png

どっちも、悪そうな連中の集まり。

山田五十鈴さんも、
仲代達矢さんも若い!

桑畑三十郎と名乗った浪人は、飄々とどっちにつくか相手を焦らしながら。

博奕打ちどうしを真正面から戦わせ、互いに疲弊しきったところで悪い奴らをたたっ切り。

義侠心から宿場を解放しようと、策を練るのだが…。

今回久しぶりで見直しましたが、
いやぁ面白かった!

私が生まれる前の作品とは思えない、練られた脚本・研ぎ澄まされた演出・俳優の名演技。 1時間54分が、あっという間。

このあと『用心棒』の有名なシーンについて触れますので、まだの方はぜひDVDや配信でご覧になることをお薦めします。

超人的な技が可能にする、
○○○トリック


映画の中盤に、こんなエピソードが。



丑寅の後見人である造り酒屋主人・徳右衛門にお妾さんとして囲われている、美しい女性。

彼女には農夫・小平という亭主と幼い子がいるのだが、借金のかたに無理矢理連れて行かれたのだと聞いた三十郎。

ふらりと丑寅の本陣を訪れ、「お前の用心棒になることに決めた」と。 味方になったと見せかけ、相手の懐に入りこんで。

隙を狙って、囚われのおぬいという女性を助ける決意をしたのです。

願ってもない助っ人を得て、これで喧嘩はこっちの勝ちと喜ぶ丑寅。

助太刀をするには自陣の様子を知らねばと、妾宅の守りは何人で固めているのかさりげなく聞き出す三十郎。

屈強な荒くれ者が6人と自慢げに言う丑寅に、

それじゃあちょいと心配だな。もっと手数を増やしたほうがよかないか。たとえば、こんな強い奴をな。

そばにいる丑寅の弟・亥之吉の方をちらっと見ながら呟きます。
亥之吉懐柔.png

力はめっぽう強いが、おつむの方がちょいと足りない亥之吉。ほめられていい気になり、今から早速妾宅の様子を見に行くと言い出します。

計略図に当たった三十郎、「じゃあ、俺も一緒に行こう」と二人連れだってやってきた徳右衛門の妾宅。

勢い込んで中に入ろうとする亥之吉を三十郎は、「おぬいの亭主に何か用があったんじゃねえのか」。

妾宅の向かいにある、おぬい亭主・小平の小屋を子細げに指差します。
注意そらす.png

単細胞な亥之吉、「そうだ、あいつのおかげで俺兄貴から怒られたんだ。ひとつ引っ張たいてやる!」と小平の小屋へ。

亥之吉が駆け去るのを見送った三十郎が見せる、超人的な技と鮮やかなトリック!



それをワンカットで撮った迫力のシーンが、こちら。
用心棒 おぬい救出

出来事の時間をずらす、
高等テクニック

三十郎が使ったのは、ミステリーでいう「時間差トリック」。

たとえば人を殺めた犯人が、
・被害者の腕時計を細工
・録音した声や、
 被害者に変装した替え玉で
犯行時刻を誤認させたりする。

もちろん、ほかにも数えきれないほどの方法があります。

ミステリーで多いのはこういった犯行が起きた時刻を前後にずらして、自分はその時刻にアリバイを作って容疑圏外に逃れようとするトリック。



『用心棒』では「これから起きる」ことが「既に起きた」ように誤認させ、見張りが知らせに行った隙にその出来事を本当にしてしまう。

それを可能にするのが、
三十郎の超人的な剣の技。

短時間に手練れの6人を切り殺すだけでなく大勢の仕業と見せかけるため、さらに妾宅の中を小気味いいほどに破壊。
家を破壊.png

駆けつけた丑寅に
こりゃあどう見ても、
 15・6人の仕業だな。
 だから言ったんだ、
 6人じゃ不足だ!」
言い切る三十郎。

「一人が短時間でこんな荒業できるわけがない」という固定観念に縛られた丑寅は、その場ではみじんも三十郎を疑おうとしません。

時間差トリックの中でも実によく考えられた、高等テクニックと言えるでしょう。

共同脚本の黒澤と菊島隆三は、このアイディアが自分たちでも会心の出来だったよう。続編の『椿三十郎』でも、同じ手法を違った趣向でうまく使っています。

いいことを聞いたと、
早速自分もやってみるこまち。


『風呂敷』の時間差トリック

落語『風呂敷』で兄貴分が押入れから若い衆を逃がすに使う手段が、三十郎のやり方とよく似ています。

大きめの風呂敷一枚持って、やきもち焼き亭主の家にやって来た兄貴分。

「今この先で、こんな揉め事があったをおさめてきた」と、この家で現在進行形の出来事。

さもよそのうちのもうすんだことのように、話して聞かせます。

「へーえ、面白そうだね。兄いそれ、どうやっておさめてきたの?」聞きたがる亭主。



なーにわけぁないんだ。
お前が仮に、そのやきもち焼き亭主野郎だとすんだろ。

俺がこの風呂敷をあいつにこうやって…(目の前のやきもち亭主の頭から被せる)見えなくしといて。

後ろの、三尺の押入れをそーっと開けてな…。



中でガタガタ震えている若い衆に兄貴分が目配せや小声で話しかけて、亭主が見えない隙にうまく脱出させる。

その時の目の使い方・声の出し方が、演者の腕の見せどころ。

落語と映画、 共通点はほかにも

いかがです、多少力業かもしれませんが。

黒澤映画と、間男噺。

一見まるで無関係な両者に意外な共通点がというゴールに、なんとかたどり着けたのではないでしょうか。

大の落語ファンである山田洋次監督は『男はつらいよ』中、とらや(のちに「くるまや」)茶の間でも寅さんの語りなどに。

『片棒』『野ざらし』『湯屋番』等の話法を、巧みに取り入れています。

自らが落語研究会出身で、若手噺家が主人公の『の・ようなもの』を撮った森田芳光監督。ほかの作品にも、そこここに落語テイストを感じることが。

その森田監督の『の・ようなもの』『キッチン』には、私の師匠・入船亭扇橋がけっこう重要な役で出演しています。

お時間ございましたら、ご覧頂くのも一興かと。



その扇橋没後、6人の直系弟子が初めて同じ高座に座る

『入船亭一門会』

12月23日(水)18時~池袋演芸場にて開催。
一門会チラシ.png

こちらも、よろしくお願いいたします。


蔦飾り線.png

お開きまでお付き合いいただきまして、
まことにありがとうございます。
ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝

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