SSブログ

落語の稽古を巡る、面白エピソード2題~「クラゲ」「ライオン」「猫」で、三題噺? [落語情報]


初めて訪れた水族館で、神秘的に漂うクラゲに魅せられたこまち。

くらげはきれい.jpg

こんな、食らい意地張った輩がいますから。
優雅にフワフワしているようで、クラゲもなかなか大変。

同じように呑気に思える、私どもが高座で演じる落語。
先人からの口伝で受け継ぐ芸は、やはりそれなりの苦労もあったりします。


思い出深い落語『動物園』

令和3年3月下席昼の部、池袋演芸場の出番をもらっていた私。
日替わり出演の3日目、高座を下りてくると2本後の柳家小せん師が支度中。
支度する小せん師.jpg

まるで熟練の外科医みたいな手つきで、着物を広げていきます。



小せん師は、当ブログ重要コンテンツの一つ・「web雑俳」のメンバー。
コロナ疲れを、雑俳のテーマソングで吹き飛ばそう!では、素晴らしい歌声を披露。
あの気詰まりな「ステイホーム」の期間を、明るく爽やかに盛り上げてくれました。



その小せん師に、二ツ目が稽古を頼みに来ます。
教わる噺は、
『動物園』。
先代小せん師匠の、十八番の一つ。

落語『動物園』

各国の変わった生き物たちを集めた、「世界珍獣園」。
目玉の一つは、アフリカ産の全身真っ黒なライオン

しかしオープン直前に、ブラックライオンは体調を崩し絶命。
大々的に宣伝打ってある手前、今からライオン抜きというわけにはいかない。

苦肉の策として、なきがらの毛皮で着ぐるみを製作。
それを着た人間がブラックライオンの代わりに、檻の中を一日のそのそ歩くことに。

職に困って、その役を引き受けた呑気な男。
担当者から教わった「ネコ科動物の歩き方」を練習しているうち、珍獣園オープン当日がやって来る。

果たして身代わりライオン、うまくお客様の目を欺き通せるのでしょうか?


昔の「ポンチ絵」みたいなストーリーが、とぼけた味の先代小せん師匠によく合っていました。


稽古中、突然心霊現象が?

その先代小せん師匠から教わった、三遊亭吉窓師に。
二ツ目時代の私、『動物園』を稽古していただきました。

教わった場所は、新宿末廣亭二階の小座敷。
お席亭一族の仏壇があるところから、「仏間」と呼ばれている6畳ほどの部屋です。

私が相対して座った私の前で、まずマクラからサゲまで。
本番さながらの調子で、『動物園』を演じてくれる吉窓師。

一席終わったあとは、「なんか、わかんないとこある?」という質疑応答タイム。
その中で、主人公がやるライオンの歩き方。もう一度丁寧に、吉窓師がコツを教えてくれました。

「こう肩を下げながら、片方の前脚が出て。  
反対側の脚がまたその前に、こうバッテンに交差して出る。
この、繰り返しだよ」


動物園稽古.gif

さすが、ライオンの仲間こまち師匠。
うまいもんだねー。

私の方も、見よう見まねでお手本のようにやってみて
「こう、ですか?」
「んー、もう少し脚ゆっくり出した方がいいね。 こんな感じ」

吉窓師と二人、至近距離で向かい合い。
両の握りこぶしを畳につけて、のそのそライオン歩きをしていると…。

カタッ、カタカタッ。

脇の仏壇から、
物音が聞こえてきます。

すわ、心霊現象か!

ぎょっとした二人が、音のする方へ目をやると…。

大旦那お位牌.gif

つい熱が入り、オーバーアクションでライオンの仕草をやっていたので。
その振動で、仏壇内の初代席亭・北村銀太郎大旦那のお位牌が。
カタカタ、
揺れていたのでした!

「わー、すごいですねアニさん。
若い者たちが頑張って芸の継承をしてる姿に、雲の上の大旦那が拍手してくださってんでしょうか!」

私が柄にもなく感動してそう言うと、吉窓師。

「いやぁ、いい歳した大人が顔突き合わせて、呑気なことをやってやがる…。 
呆れかえって、笑ってんじゃないのー」


う~ん、確かに言われてみれば。
互いに30前後の男ふたり、狭いとこで向かい合って。

「ライオン、こうですか?」
「いや、  
もうちょっとこんな具合に」

やっている姿。
傍から見れば、笑っちゃうかもしれませんね。


ここで再び、クラゲ登場

その時楽屋にはもう一人、柳家喬太郎師が出番待ちしていました。

古典に独自の新作に、卓越した技を発揮。
全国各地で引っ張りだこの、超売れっ子噺家。

当日撮った写真は、3月25日付Twitter に投稿してありますので。
ここでは、元日の寄席で一緒だった時の画像を。

ちょっとダレながらカメラ目線くれる喬太郎師と、
吹き出す喬太郎師.jpg

鏡に映る、紋付袴姿の撮影者。
ポージング喬太郎師.jpg

池袋の楽屋で、私が小せん師に『動物園』稽古時の話をしていると。

それを聞いていた喬太郎師、
「それだったら扇治アニさん、あたしも脇で自作の『母恋くらげ』って噺やった時。 こんなこと、ありましたよ」

面白いエピソード、
語ってくれました!


あの大看板が、
「クラゲなら、こう…」


落語『母恋くらげ』

赤ちゃんクラゲの蔵之介、今日が親元を離れて大海デビューの日。
旅立ちを前に、
突如襲い来る大嵐!

高波にさらわれた蔵之介は、ひとり陸地まで運ばれ。
水たまりの中に、取り残されてしまいます

通りかかったバス遠足の子どもが、車窓から投げ捨てたミカンの皮
それを母親と勘違いしたりしながら、水たまりの中で心細く漂う蔵之介。

健気な赤ちゃんクラゲの、
前途やいかに?!


もともとは、三題噺だったこのメルヘン落語。
絵本にもなっている、喬太郎ワールドを満喫できる現代の名作です。



以下、喬太郎師・談。

「ある地方の会で、これかけたんですけど。  
あたしその頃は、クラゲの仕草。
広げた両手、身体の幅くらい離して…。
こう、胸の脇に垂らしてやってたんですよ 。   

そん時うちの師匠(柳家さん喬)も一緒で、袖であたしの高座見てたんですね。
で、下りてから師匠が  

「あのさー、そっちはこうやってたけどさー。  
くらげって本当は、こうじゃないか?」


~両手を伸ばし、肩から柔らかく動かして。”クラゲの脚”を表現してみせるさん喬師匠~
母恋くらげ稽古 .jpg

うちの師匠のこれがまた、「藤間のクラゲ」だからきれいでうまいんですよー!」
※さん喬師匠は、日本舞踊・藤間流の名取り。



うむ、確かに!

普段から、高座での立ち居振る舞いが端正な落語協会大看板。
その方のクラゲなら、歌舞伎座の舞台でも映えるほど美しいことでしょう。

「へーえ、この話聞いたら俺、さん喬師匠の『母恋くらげ』見てみたくなっちゃったよ。
喬太郎さん、今度師匠に稽古してあげたら」

ウケた私がそう言うと、「いやぁー…」喬太郎師苦笑してましたが。



超売れっ子噺家と、
親しくこんな会話ができる。

やっぱり楽屋って、
呑気でいいなぁ。
実感した、久しぶりの寄席出演でした。
ツーショット喬太郎師.jpg

おしまいに、オマケ。
さん喬師匠とのエピソードは、 寝坊な連中決死の早起き!噺家の正月風景 扇治独演会告知もあり!の記事でも取り上げております。

そして絵本『母恋くらげ』も読んで、ますますクラゲが気に入った黒猫こまち。
自分も、クラゲになってみちゃいました!
くらげこまち.jpg

溺れんなよー。


桜罫線淡い760.png
お開きまで
お付き合いいただきまして、
まことにありがとうございます。
ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝

nice!(0)  コメント(1) 
共通テーマ:芸能