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現代人も見習いたい!江戸っ子たちの超シンプル引っ越し事情 [江戸のトリビア]


仕事で、学業で。
年度が改まる春は、引っ越しの季節でもあります。

引っ越しならクロネココマチ.jpg

新天地への旅立ちには、希望ととともに若干の不安も付き物。
引っ越しにかかる労力と時間も、けっこう大変。

ついつい身の周りの品が増えがちな現代人に比べ、江戸時代の人々はあまり引っ越しを苦にしていませんでした。


天才浮世絵師は、
堂々の「引っ越し王」

93回。
浮世絵師・葛飾北斎が、89年の生涯で引っ越しをした回数。

私は上京してから
・噺家になった
・結婚した
・真打昇進
・子どもが産まれた
・猫を迎えた
といった理由で、計6回住まいを変えています。

その度ごとに、荷物の整理・不動産屋さんとの折衝・引っ越し業者とのやり取り・インフラ申し込み…。
無精な私には、心身ともにぐったりする作業の連続。

ことに「荷物をまとめる」のが、毎回大変でした。
噺家になってからは着物が増えましたし、それ以前から読書好きの私。
それなりの量の蔵書がありますので、箱詰めにかなり手間取ります。

こうやって作業を「手伝ってくれる」パートナーがいると、なおのこと作業が滞りがち。

本の整理手伝う.gif

「少し本、減らさなきゃなぁ…」
思うのですが、それぞれに愛着があってなかなか果たせず。

そんな私からすると、100回近くも家を変えている北斎。
もはや、
異次元の存在です。



なぜ天才浮世絵師は、そんな頻繁に引っ越しをしたのか?
若くてまだ売れていない頃は、店賃を滞らせて万やむを得ずという理由もあったようですが。

押しも押されぬ超売れっ子になってからは、

「増えすぎた作品の整理が、面倒くさい」からと。

創作環境リフレッシュの意味で、よく住まいを変えていたのだそうです。


「断捨離」不要!
超シンプルな居住空間

昨今はやりの、
「断捨離」整理術。

”いつか使うかも”の気持ちから、ついため込みがちな身の周り品。
思いきってしばらく使っていない物は、フリマに出したりして効率よく処分しよう!

そのノウハウをまとめた本が、よく売れたりしていますね。



江戸時代、ことに将軍お膝元の都市中心部に住む庶民たちは。
普段から、「断捨離」とは縁のない暮らしぶり。

今の3倍近い人口密度だった江戸市中では、限られた居住空間を有効活用するための「棟割長屋」が一番ポピュラーな住まい。

長屋はスイートホーム.jpg

落語によく出て来る「九尺二間」の貧乏長屋は、
・間口:約2.77m
・奥行:約3.63m
のワンルーム。

この面積から土間と押し入れ部分を引くと、居住空間として使えるのは3畳~4畳半
さらに収納が多い造りだと、畳が2枚しか入らないところも。

そういう狭い空間に、夫婦家族が寄り添って暮らす。

火事が多く、ひと晩で家を失うことも珍しくなかった江戸の街。
自然と人々は、「必要最低限の物しか持たない」ライフスタイルを確立させていったのです。


大型家具は
買い替えた方が安い

当時の長屋は同じような店賃なら、どこも間取りはたいてい似ていました。

そのためへっつい(かまど)・箪笥などの大きなものは持ち運ばず、
・古道具屋に買い取ってもらい、引っ越し先で新しく買い直す。
・損料屋(レンタルショップ)で借りる。
ことが多かったそうです。

大型家具は、運搬にけっこう手間とお金が必要。
手伝いの人を頼めば、そこに賃金が発生しますからね。



時代劇によく出てくる、荷物を運ぶ「大八車」

大八車あれー.jpg

当時この車がらみの人身事故が多発したため、大八車の総数は幕府によって厳密に定められていました。

希少車両なので、これを借りるにもまたそれなりの額のお金が必要。

だったら、布団・枕屏風・細かい台所道具・箒・雑巾…。
このあたりだけ持って、
身軽に引っ越し。

越した先で顔なじみになったお店から、必要な物は買い足していくのが江戸庶民流になったのです。

長屋の家財道具.gif


ケチってはいけない
「引っ越しそば」

当時の引っ越しでの初期費用として、敷金が必須だったのは現代と同じ。
敷金の風習は、婚礼の際の花嫁持参金に由来するという説が有力です。



そして新しい住まいのご近所さまへ、おそばを振る舞うことも大事でした。

当初は近隣・大家への挨拶として、縁起のいい餅・あずき粥などを配ったそうです。
のちにもっと安価で、江戸っ子が好むそばが主流に。

「そばのように長いお付き合い」
「おそばで末永くお達者に」

の気持ちで配る、引っ越しそば。

その頃の常識として、大家さんのほか最低でも
「向こう三軒両隣に、
 一人あたりもり二枚」
おそばを振る舞うことになっていました。

もしこれを、
ケチって怠ると…。

「なんだい、今度越して来たあいつは。そばの一枚も出さねぇなんて。
 あんなしみったれなうちとは、金輪際付き合うんじゃねぇぞ!」

あとあとのご近所関係に、支障をきたしますので。
貧乏長屋の住民たちも、そのあたりの費用はなんとか工面していたようです。

「うちで仕事してるんで、今おそば持ってこられても食べらんないよ」というお宅には、「そば券」というクーポン渡すこともありました。

「いいものもらった!」

おそば券.jpg

ニコニコのこまち。




結果的に「身軽な引っ越し」につながった、最低限身の周り品のみでの江戸庶民のシンプルライフ。

ついつい物欲におぼれがちな現代の私たち、見習うべきところ多いのではないでしょうか。

桜罫線淡い760.png

お開きまで
お付き合いいただきまして、
まことにありがとうございます。
ぜひまた、お付き合いくださいませ。
入船亭扇治拝

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