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ありがとう、おいしさと温もりを~中野新橋『長濱や』閉店に寄せて~ [日々雑感]


がま口握りしめ、いそいそとおいしいたこ焼き買いに来たのに…。
閉店長濱やさん.jpg
突然の閉店に、
驚く黒猫こまち。



中野新橋駅前で
長く愛されたたこ焼き

地下鉄丸ノ内線・中野新橋駅を出てすぐのところにあった、『たこ焼き 長濱や』さん。
「皮はカリっともっちり、中はふわトロあちあち」
の大粒たこ焼きは地元の方々だけでなく、わざわざ遠方から買いに来るファンの人たちにも長く愛され続けてきました。

甘口辛口ソースのほか、他店ではあまり見ない「柚子ソース」「ねぎ醤油」も人気。
お店の近所に住む筆者も、幼い頃の子どもたちが大好きで土日にはよく『長濱や』さんへ買いに行ったものです。
明るい店頭と看板.jpg
※この画像2枚は『食べログ』投稿写真を引用させていただきました。

作り置きをせず一気に焼き上げた分を販売するシステムだったので、時間によっては短いながらも行列ができることもありましたね。

うちの子たちがもの心つくかつかないかの頃に店が新規オープンしたような記憶がありますので、かれこれ20年くらいはこの店舗で営業してきたであろう『長濱や』。
2022年(令和4年)4月、ひっそりとその歴史に幕を下ろすことに。
閉店のお知らせ.jpg
「健康上の理由により、閉店することにいたしました」。


店頭に貼られた
惜別のメッセージ

実際に閉店してから私は何度も長濱やさんの前を通っていたはのですが、たまたま毎回お昼12時からの営業時間前だったので気がつかず。

6月に入り店舗の前を通りかかった時(店の前が、妙にすすけているな)と思いよーく見ると、前項画像の閉店お知らせが店頭に。

店の窓にはそればかりではなく、長濱やファンの方からのメッセージが書かれたメモ用紙が何枚も貼られていました。
惜別のメッセージ.jpg
だから余計に目を惹き、遅ればせながら私も閉店のことを知ったわけです。

そのお店あての惜別の辞、謹んで撮影したものを以下にご披露。

1メッセージ.jpg

黙々とたこ焼きを焼いているお姿が大好きでしたよ♪
お疲れさまでした。
ごゆっくりして下さい。
ごちそうさまでした。


今までありがとうございました。
ホントおいしかったです。 おつかれ様でした。
もう少し、早く告知してくださっていたのなら、食べおさめしたかったです。
お元気で。

2メッセージ.jpg

店主様
家族皆で、大好きなたこ焼きでした!本当に残念です。
沢山の思い出をありがとうございました。
どうかお身体大切に。大好きなたこ焼き、忘れません!


喰いだめしたかったヨ。
今までごちそうさま
中野新橋の名物!でおいしかったです。
お大事にして下さい。

3メッセージ.jpg

美味しいたこ焼き
ありがとうございました!!
カリカリが最高でした!!

⑥ 店主様
おいしいたこ焼きありがとうございました
いつでもちょっとだけお話できるのが
とても楽しかったです
早く元気になってください!
ファンより

…。
☆『諸物価高騰により、『日高屋』モリモリサービス終了へ!
で綴りましたように、世の万事には必ず終わりと別れがある。
あらためて、実感。


永遠なれ、
たこ焼きの温もり

撮影したメッセージ画像を見直していて、筆者の胸には迫るものがありました。

足繁くというほどではありませんが、それなりの頻度で子どもたちと買いに行っていた長濱やさん。
前述したとおり、作り置きをしないのがご主人のポリシー。
店頭の札が「販売中」でない時は、一定数焼き上がるまで待っていなくてはなりません。

冬場の夕暮れなど、まだこらえ性のない子どもたちが「たこ焼きまだー」「お腹空いた」「寒いー」「トイレ行きたい!」愚図るのをなだめながら。
たこ焼きまだできないの.jpg
店の前で足踏みしつつ白い息を吐いてたこ焼きを待っていたのも、今となれば懐かしい思い出。

こま正面アイコン基本形.jpg

やがて凝り性のご主人がやっと満足のいくように粒を焼き上げ、自分の番になって「はい、お待ちどうさま」と渡してくれるたこ焼きの包み。
受け取れば手にじわ~っと伝わる温もりに、凍えた身体がほぐれていく。

子どもたちにも包みを触らせてやると、「あったかーい」「いい匂い!」二人とも今まで不機嫌だったのが嘘のような満面の笑み。
たこ焼きあったか.jpg

じゃあ早く帰って、みんなでたこ焼き食べよう。
留守番してるこにちゃん(わが家の先代猫)が好きだから、かつお節のソースかかってないところ少しあげようかねー。
親子で語らいながら急いだ、冬の家路。

閉店した長濱やさん店頭を眺めている私の胸に、そんな光景が甦ってきました。

棟方志功のように真剣な面持ちでたこ焼きをひっくり返していた、いかにも実直そうな眼鏡の長濱やご主人。
かつて親子でお世話になったわが家からも、この場を借りてメッセージ送らせてください。
お疲れ様です長濱やさん.jpg
おいしさと温もりを、
どうもありがとう。



さて冒頭画像で、お目当てのたこ焼き買えなかったこまち。
うちでメソメソソしているかと思えばさにあらず。

立ち直りの早い食いしん坊猫、手際よく道具と材料揃えて。
楽しく、
たこ焼きパーティの真っ最中!
こまち3連アイコン.png
たこ焼き食べる.gif

おいしいそうだね、
こまち。
お父さんも、お相伴にあずからせてもらっていいかい?

蔦飾り線.png

お開きまでお付き合いいただきまして、まことにありがとうございます。ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝

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24時間庶民の味方・コインシャワーいまだ健在!~杉並区『さわやかランド』訪問記~ [日々雑感]


青梅街道松ノ木3丁目交差点を新宿方面を背にして左折、少し歩いた右手。
さわやかランド前にて.jpg
今では少なくなった街なかコインシャワーの一つ『さわやかランド』、元気に営業中。


個室有料シャワー
現代でも多くの需要あり

☆『「入浴料500円時代」到来に想う、前座時代銭湯通いのひと苦労エピソード
の記事を書きながら、また別の若い時分の入浴体験を思い出す筆者。

私は前座から二ツ目初期にかけ、女房と結婚するまでは風呂無しアパート生活を長く続けていました。

先輩の打ち上げに付き合って、銭湯の開いているうちに帰宅できないことはのべつ。そんな時に助けてもらったのが、東中野城山商店街にある24時間営業のコインシャワー

そこがずっと以前に店を閉めたのは知っていますが、(コインシャワーの現状ってどうなっているのかな? )気になったのでネットで調べてみることに。



「コインシャワー」の語で検索すると、上位に料金制シャワーユニットを製造・販売・設置する業者が何件か並びます。
コインシャワーユニット.jpg

私の検索環境でのトップヒットは、中野区本町に社屋を構える『株式会社ニド』
会社があるのは中野坂上駅のそば、わが家から歩いて行ける距離なのでさっそく取材撮影に行ってみました。

山手通り沿いにそびえる、実質7階建ての堂々たるビル。
遠景ニド.jpg
1994年竣工の自社ビル、正面玄関の壁に輝く「NIDビル」の刻印。
ビル見上げるこまち.jpg

こういった業者が扱う個室シャワーユニットはネットカフェ・高速道路サービスエリア・建設現場・カプセルホテルなどで使われ、現代でも多くの需要があるのです。
牧の原サービスエリアのコインシャワー.jpg


まだまだ頑張る
街なかのコインシャワー

前項のような場所で使われるものではなく、私が通った東中野のランドリーと併設されていたコインシャワーみたいな施設は今でも何軒かあるのかな。

今度は「コインシャワー」に「東京」「都内」というキーワードを加えて調べてみると、東京駅周辺などに銭湯併設のものを含めてそれなりの数ヒット。
銭湯の営業時間外に身体を洗いたい人のために、街なかのコインシャワーはまだまだ頑張っているようです。
胸を叩くパネルユニット.jpg

そんな元気シャワーの一つが、冒頭画像でご紹介した『さわやかランド』。
地下鉄新高円寺駅から徒歩6分、杉並区梅里2-20-1で24時間営業中。

以前は『モンキーシャワー』という名前だったそうで、看板にその名残りが。
おさるの看板.jpg


アクシデントにも
さわやか対応

店舗内、洗濯機と乾燥機が並ぶ奥にシャワー室が三つ。
覗くシャワー室.jpg
24時間営業ですから個室内に経年劣化による汚れや黒ずみは見られますが、全体に掃除は行き届いていて清潔。
レポートシャワー室.jpg



シャワー室のレポートを終えたこまちが次に目をつけたのは、カミソリや石鹸・シャンプーなどの自販機。
さわやかランド自動販売機.jpg
なんと、
タオルまで売っています!

こういうところで売っている100円のタオルって、どんなものなんだろう?
話のタネに1本買おうとしたのですが…。
自販機コイン投入口.jpg
投入口の時代のつき方・注意書きの「硬貨を入れて2秒という表記に、(ずいぶん古い機械みたいだけど、ちゃんと動くのかな?)100円玉つまんだ手が不安で震えます。

言われたとおりお金を入れ頭の中で(いち、にぃ)数えて、ボタンを慎重に奥まで押し込む。
カチャッ。
乾いた音がしただけで、取り出し口に品物は落ちてきません。

不安的中、やはり自販機が壊れているかタオルの補充がなされていないようです。

アイコン集.jpg

どうしようかな、
100円のことだからな…。

店舗を撮影させてもらったから、取材協力費ということで諦めるか。

いったんそのまま帰ろうとしたのですが、店内にはちゃんと緊急連絡先が書いてあったのでダメもとで電話してみることに。
するとすぐ管理人さんの携帯につながり、丁寧なお詫びの言葉とともに100円は迅速に返却してもらえました!

金額の多寡ではなくその誠意の対応が嬉しく、当日は雨もよいの天気でしたが私とこまちの胸は晴ればれ。
心の中までさわやかになって、『さわやかランド』を後にするのでした。
こころ晴れ晴れ.jpg


焦りを呼ぶ
残時間表示

今回久しぶりにコインシャワーを訪問してみて(そういえばあんなことあったよなー)また一つ懐かしい記憶を呼び覚ますきっかけになったのは、洗い場内に設置されたパネルの「残時間表示」
タイマー.jpg

『さわやかランド』は現在200円6分が最低料金ですが、私が通ったコインシャワーは3分100円からでした。
身体を石鹸でこすっている間などはシャワーの一時停止ができますので、要領よく洗って全身を流せば3分で入浴を完了させることは可能。

可能、
なのですが…。

けっこう早いペースで減っていくタイマーの残時間表示を見ていると、気の小さい岐阜県人である私はドキドキしてシャワーを握る手を滑らせたり。

この焦りを呼ぶカウントダウン、前々から”あれ”に似ているなと思っていました。
エヴァ内部電源.jpg
そう、『新世紀エヴァンゲリオン』主役メカコクピット内モニターに映し出されるタイマー。

通常稼働時は外部から電源を供給されている汎用人型決戦兵器・エヴァが、ケーブルを外して内部電源で活動開始するとこの表示に切り替わる。
コンマ以下の単位で目まぐるしくカウントダウンされるエヴァの活動限界、もしこれがコインシャワーの水量に連動していたら…。

1分過ぎたところで表示されるレッドアラートが、さらにシャワー利用者の焦りを呼ぶ。

冷静沈着なエヴァ零号機パイロットなら、「大丈夫、問題ないわ」と落ち着いて対処するのでしょうが。
シャワー活動限界.gif

凡人小市民たちは入浴だけに「泡を食らって」焦りまくり、身体を洗い残したままでタイムアップ。
こまちシャワー活動限界.gif
まだ、
ヒゲの先洗ってないよー。

こういった事態を避けるため、若い頃の私がとった対策がこちら。
うちからシャンプー.jpg
うちでシャンプー頭に振りかけ泡立てた状態でコインシャワーに行き、向こうでは洗い流すだけにして時間を節約。

オードリー春日さんが下積み時代に同じことをしたと語ってらっしゃいますが、筆者も20年以上前からこれを高座で喋ってきました。

コインシャワーネタとしては、
私の方が先駆者なのです!

って、あんまりこんな体験自慢にはならないか。

えへへアイコン.jpg

さてふとしたきっかけで思い出したコインシャワーが、まだまだ元気で頑張っていることがわかって。
なんだか旧友に再会したような気分のうちに、本記事をまとめることができました。

さぁ、それじゃあこのへんでパソコン閉じて。
さわやかランドさんが返してくれたお金持って、近所の100円自販機で飲み物買っといで、こまち。
100円自販機.jpg

蔦飾り線.png

お開きまでお付き合いいただきまして、まことにありがとうございます。ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝

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「入浴料500円時代」到来に想う、前座時代銭湯通いのひと苦労エピソード [日々雑感]


お風呂道具を持って、近所の銭湯へやって来た黒猫こまち。
月の湯前にて.jpg
2022年夏より、東京都内の入浴料金は500円へと値上がり。


SF的発想だった
”ラーメン500円”時代

1973年(昭和48年)。
中学生の従兄が見せてくれた学習雑誌の中に、『今から50年後の日本人の暮らしはどうなっているか?』という特集記事がありました。

「テレビ電話の普及」「掃除ロボットの出現」といったけっこう実現しそうに思えるものから、「月への旅行・移住が日常化している」という夢物語的な話題まで。
様々な未来予測がイラストとともに掲載されており、当時小学5年生だった私はとても興味深く読んだものです。

そんな予測の中で比較的SF要素が強い=実現度が低い方の未来としてあげられていたのが、
「ラーメン一杯500円の時代が来る?」
というもの。

多くのラーメン専門店の価格設定が600円~700円台・トッピングや特殊なスープを注文すると1000円以上のラーメンもある現代からすると、信じられない話ですが…。
私がこの世に生を受けた1962年(昭和37年)、ラーメン一杯は平均48.5円だったそうです

50円玉出して、
お釣りが来たあの頃。
昭和37年の中華そば.jpg

昭和は、遠くなりにけり。


燃料・原材料高騰が
銭湯の料金も押し上げる

前項でご紹介した「ラーメン500円の未来」記事は、折りからの石油ショックにからめて〈燃料・原材料の価格上昇が、製品の値段を押し上げる〉という仕組みを中学生にもわかりやすく解説したもの。

漫画雑誌が半分ほどの厚みになり、高いプラモデルでも部品が減って箱の中身がスカスカだった石油ショック直撃時の日本。
スカスカプラモデル.jpg

あれから半世紀近く経って、また私たちの暮らしは急激な物価高に直面することに。
コロナ禍・露のウクライナ侵攻・作柄不良・円安などの要因で燃料・原材料・輸送のコストが上がったことによる、あまり健全ではない物価上昇。

その影響はついに、内風呂が無い方の味方にして庶民の憩いの場・銭湯にも及ぶことになりました
2022年7月~8月に従来の大人480円から、東京の入浴料金はワンコイン500円に値上がりすることが決定。

私が上京した1981年(昭和56年)には220円でしたから、500円という価格にはやはり時代を感じます。


噺家前座時代
苦労した銭湯の想い出

本記事のために昔の入浴料金を調べていて私の脳裏に甦ってきたのは、(前座時代けっこう苦労して銭湯に通ったなー)という記憶。

考えるアイコン.jpg

あの頃寄席夜の部で働きその後トリの打ち上げなどにもお供すると、アパートに帰ってくるのは深夜0時近くということは日常茶飯事。

楽屋で先輩たちと間近に接するのが前座ですから、できるだけ身ぎれいにしておきたい。
夏場で風呂に入れない日が2日続いたりすると身体を濡れタオルで拭くくらいではおっつきませんので、仕舞い湯ギリギリに銭湯に飛び込むなんてこともよくありました。

もちろん遅い時間に来て申し訳ないと思いますから、番台に座っているおじさんに謝っておきます。
駆け込み銭湯.jpg
気のいいおじさんの「時間気にせずゆっくりね」との言葉に頭を下げ、手早く板の間で洋服を脱ぎ洗い場に入る私。

身体をきれいにしてから、湯船に肩までつかる。
狭い楽屋で身を縮めて働き固まってしまった全身が、芯からじわ~っとほぐれて。

ああ、
極楽ごくらく。

湯船でしばし目を閉じていると、さっきまで番台にいたおじさんが洗い場に入ってきました。

早くあがれという催促ではなく、あべこべに「こっちはできるとこから掃除始めるけど、まだゆっくりしてていいよ」と言ってはくれるのですが…。

銭湯というのは朝早く準備してから夜遅くまで、本当に重労働なのだそうです。
おじさんの方も「ゆっくり」と口で言いながら、本心はできるだけ早く最後のお客に帰ってもらいたいというのが正直なところ。

その気持ちが表れているのが、おじさんの掃除方法。
銭湯のおじさんと攻防.jpg
洗い場の風呂桶を、私が入っている湯船にどんどん投げ込んでくるのです!

もちろん私に当たらないように気をつけてですが、みるみるうちに湯船の中はプカプカ浮かぶ桶でいっぱいに。
銭湯桶狭間.jpg
(そろそろ、あがってくんない?)というおじさんからの無言のプレッシャー。

それは痛いほど感じるし早くおじさんを解放してもあげたいんだけれど、こちらも同じ入浴料金払うんなら少しでも長くお湯につかっていたいですから。

(遅くまでごめんなさいね)胸のうちで手を合わせながら、おじさんの方を見ないふりして口元までお湯に潜り桶の陰に顔を隠す私。
桶を投げ込んで空いた洗い場の床を、これ見よがしにデッキブラシでごしごしやっているおじさん。

湯船に浮かぶ桶を挟んで、長く入っていたい私と早くあがってもらいたいおじさんとの。
息詰まる神経戦の幕が、
ここに切って落とされた!
合戦開始銭湯桶狭間.jpg

そう、これが後の世に語り継がれる 「桶狭間の戦い」

おあとがよろしいようで…。

こま正面アイコン笑い.jpg

さぁ、今回も無事記事を完成させることができました。

せっかく銭湯のことを書いたんだから、値上がり前に久しぶりで近所のお湯に行ってみるか。

こまちも、一緒に連れてってあげよう。

こま正面アイコン基本形.jpg

やったー!
お湯からあがったら、もちろんあれ買ってくれるよね?
フルーツ牛乳飲むこまち.jpg

※この記事を書いていて思い出した、銭湯以外のうち風呂無き人々の味方である”あの施設”について
☆『24時間庶民の味方・コインシャワーいまだ健在!~杉並区『さわやかランド』訪問記~
で綴っております。そちらもぜひ、合わせてお読みください。

蔦飾り線.png

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入船亭扇治

タグ:猫 落語
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丁寧な時代風俗描写が紡ぐパラレルワールド 広瀬正『エロス もう一つの過去』~扇治の私的時間傑作選その④~ [お気に入り・おすすめ]


縁あってわが家にやって来た黒猫こまち。
今や私たち家族にはその存在が欠かせない、大事な同居猫です。

でも、
もし彼女の身体が黒ではなかったら?
白と黒のこまち.jpg
現在の私たちを取り巻く環境は、大きく変わっていたかもしれません。

そんな「もし、~だったら?」というパラレルワールドを描いた広瀬正の名作『エロス もう一つの過去』(1971年刊)をご紹介。
エロス紹介.jpg


『エロス もう一つの過去』
発端あらすじ

〈忘れもしない昭和九年九月二十日、私は映画を見に行きました。もしもその日映画を見に行かなかったら、私は歌手にはならなかったでしょう〉

雑誌の〈あなたにとっての「あのとき、ああしていたら・ああしなかったら」は、どんなことですか?〉というアンケート企画に、大歌手・橘百合子が寄せた回答。
この答えに興味を持った女性記者に、昭和八年に上京した時からの自分の過去を語り始める百合子。

東京駅.jpg

もともと兄弟が多く、暮らしが豊かではない家に生まれ育った赤井みつ子=橘百合子。 東北三陸地方を襲った地震・津波の影響を受けさらに苦しくなった家計を助けるため、十八歳のみつ子は東京の叔父夫婦を頼って故郷岩手を後にする。

初めて上京した彼女をあたたかく迎え入れてくれる、叔父と叔母。

市電の運転手である叔父にすすめられ、みつ子は昭和九年の市電女性車掌新規大量採用試験に応募することに。

当時の女性車掌といえば、タイピスト・エレベーターガールなどと並ぶ花形人気職業。
市電の車掌さん.jpg
多くの女性が応募してくるだろうが容姿も声も良いみつ子は必ず合格すると叔父叔母は太鼓判を押し、当人もすっかりその気でいたのだが…。

結果は、不採用。
原因は面接時に、抜けきらない東北なまりを指摘されて。
自分では達者に喋っているつもりだったみつ子の標準語は、東京の人からすると接客業ではとても通用しないものだった…。

落胆する彼女に追い打ちをかけるように、叔父夫婦の家に降りかかる災難。
市電運転手の待遇改善を求めてストライキに加わった叔父が市電気局の処分を受け、解雇が大幅減俸の危機にさらされたのだ。

実の娘のようにかわいがってくれる叔父夫婦に恩返しをするため、すぐにできるだけ高い給料で働ける職に就こうと決心するみつ子。
女学校を出ておらずなまりの抜けない彼女が見つけた破格の高給職は、なんと美術学校の学生相手のヌードモデル

そして運命の昭和九月二十日。 意を決したみつ子から「今日から働きに行く」と告げられた人のいい叔父は、その仕事が裸婦モデルなどとはつゆ知らず。
「うちのことは心配しないで、今までのように叔母さんの台所仕事を手伝ってくれればいいんだよ。今日はこれで活動写真でも見ておいで」と みつ子の掌に一円銀貨を乗せてくれる。

渡してくれた人の手の温もりが残る一円を握りしめ、今日は叔父の好意に甘え映画を見に行きモデル紹介所の門をくぐるのは明日にしようか…。
迷いに迷ったみつ子が向かった先は、東都の中心に開場したばかりの最新設備の映画館。
日比谷映画劇場.jpg

その帰り道ある事故に巻き込まれたことにより、みつ子は大歌手・橘百合子への道を歩み始める…。

物語は女性記者に百合子が語る「過去」のほかに、あの日映画館ではなくモデル紹介所を訪れた彼女が送ることになる「もう一つの過去」が並行して描かれラストでその二つの意外な関係が明らかに。


細い描写が紡ぐ
「二つの過去」の現実味

デビュー作『マイナス・ゼロ』次作『ツィス』に続き、広瀬正三作目の『エロス』も直木賞候補に。
しかし前二作同様に司馬遼太郎以外の選考委員に評価されず、落選。
失意のうちに広瀬正は、『エロス』刊行翌年にこの世を去っています。

この作品を推さなかった委員たちの『エロス』マイナス評価の一つが、「結末のどんでん返しが地味」という点。

確かにパラレルワールドを扱ったSFとしては当時でも突出して斬新なアイディアではなかったのでしょうし、現代ならライトノベルやアニメで『エロス』よりはるかに派手な設定が使われたりしています。

でも私にとってこの作品は、初読の折り感じたラスト一行の醸し出す静謐観とそこから立ち上るスケールの壮大さが未だ忘れられぬ名作。

地味と評されるどんでん返しも、「鬼面人を驚かす」ものではなくあえてこうしたのではというのが私的な感想。

作中語られる二つの過去のうち片方が、実は一個人の些細な行動の差異が世界を大きく変える「バタフライ効果」によるものというのが『エロス』のSF的仕掛け。

その仕掛けを活かすためには、どちらの過去もあり得るものだと読者に納得させなければいけません。
『エロス』では『マイナス・ゼロ』以上に細かく描かれた戦前・戦中の時代風俗が、二つの過去に説得力を持たせています。
銀座通りの市電.jpg
ページの向こうから、自然とこんな情景が浮かび上がってくるよう。


黒くない猫が
変える未来

さてここで、話は冒頭画像に戻ります。
こまちが黒猫でなくほかの模様だったら、私たちを取り巻く環境は変わっていたのだろうか?

答えは、YES。
黒猫でないこまちの存在は、今ある世界を大きく変化させていたことでしょう。

え、「お前んちの猫が黒かろうと黄色だろうと、こっちの暮らしには何の関わりもない」とおっしゃいますか?

いえいえ、
そうではござりませぬぞ。

こまちが黒くなくて白猫だったら、まぁ大勢に影響はないでしょうが…。
アメショーもどきや三毛猫のように模様入りだったら、大変です。

何がどう大変って、筆者がイラスト描くのがもう大変。

☆『前世で会っていた、我が家の愛猫?~黒猫こまち成長記①
で綴りましたようにこまちにはほかにきょうだいがいて、そのうちのはち割れの子をわが家に迎える可能性もあったのです。
パラレルこまち鉢割れ.jpg
今試しにこのイラストを描いてみただけで、かなり疲れました。

一枚絵を描くだけでこんなに手間がかかるのですから、いわんや動くGIF画像をや
今回の話題「パラレルワールド」にちなみ、段違い平行棒に挑戦するこまち。

段違い平行棒.gif

これを鉢割れ猫で作ろうと思ったら、黒猫の数倍時間をかけなくてはならないでしょう。

高座の仕事に噺の稽古・リアルこまちと遊んだりと、ヒマな弱小噺家なりに私にもやるべきタスクはけっこうあるのです。
とても、鉢割れこまちのイラストだけにかかずらっているわけにはいきません。

いきおい、こまちをイラストで登場させる機会が少なくなる=呑気ブログの更新頻度も減る。
記事数が少ない素人ブログには、あまり人も訪ねてきてくれない。

つまり、わが家のこまちが黒猫でなかったら。
今こうして本記事を読んでくださっているあなたと筆者との出会い自体が、無かったかもしれないのです。

ああ、
こまちが黒い子でよかった。

こま正面アイコン基本形.jpg

あらためてその感謝の気持ちを胸に刻み、これからもこまちと一緒に記事を重ねてまいります。
今後とも呑気ブログ、よろしくお願い申し上げます!
黒くて協力.jpg


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入船亭扇治拝

タグ:読書 猫
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『第3回入船亭一門会』お開き御礼 [落語情報]

第3回一門会一番太鼓.jpg

夕刻の池袋演芸場前で、威勢よく一番太鼓を打つ黒猫こまち。


第3回一門会
前半戦高座アルバム

2022年5月30日夜に開催いたしました、『第3回入船亭一門会』

こまちがドンドンドンとコイと一生懸命太鼓を打って呼び込みしてくれたおかげもあり、大勢のお客様においでいただき盛況のうちお開きにすることができました。

ご来場の方々・応援してくださった皆様に、厚く御礼申し上げます。

こま正面アイコン基本形.jpg

それでは当日の様子を、画像でざっと振り返ってみましょう。

まずは開演直前の楽屋、おいしそうな差し入れのお菓子に舌なめずりするこまち。
楽屋風景.jpg
自分の高座が済んだら一ついただきなさい。
ただ、楽屋は禁煙になったのでタバコは遠慮するように。かわいそうに前座が、煙たそうな顔してるよ。

その前座が開口一番を務めた後は私・扇治が一席、演目は師匠に教わった『近日息子』
愚かしい人物を扱ったこの噺、最近はあまり高座にはかかりませんがとぼけた味が個人的に好きな演目です。



続いての出演者は、九代目扇橋の末弟子・扇里師。
扇里師楽屋.jpg
座っている傍らにあるのは、以前落語協会イベントのために作った師匠の句入りトートバッグ。
ミニトートバッグ.jpg
”炭熾す前座は踞む(かがむ)ことばかり”

師匠形見分けの着物に身を包んだ扇里師が当日演じたのは、歌人・西行の若き日を題材にした『鼓ケ滝』
扇里師高座.jpg
俳句をたしなんだ師匠の想い出にも繋がる高座。



仲入り前には一門の筆頭弟子・扇遊師匠が登場。
扇遊師楽屋.jpg
生前の師匠から事あるごとに言われた「高座では行儀よく」の教えをきちっと守る、丁寧なお辞儀。
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そこから始まった高座の演目は『厩火事』
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年下の亭主を持つ髪結い女性の気持ちを描いた、自身十八番の一つ。

年齢とともに円熟味を増す筆頭弟子の芸に、お客様はすっかり引き込まれていました。
その高座姿を、客席脇からちょいとだけパチリ。
正面から高座覗く.jpg


仲入り後は
”怒涛の後半戦”

前半三席ご披露したところで、お仲入り。
仲入りにお茶.jpg

歌舞伎やコンサートなどと違い、「お客様が帰っちゃうといけない」というのでとにかく短いのが寄席の休憩時間。



皆様のお手洗いや一服が済んだ後の「クイツキ」出番は、扇辰師の担当。
扇辰師楽屋.jpg
「えー、ただ今から怒涛の後半戦、こっからが本番で。これに比べたら前半なんて、遊びみたいなもんですから」
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言いながら絶妙のタイミングで、
楽屋の方を向いて舌をペロリ。
扇辰師高座.jpg

こういういい間でまたすーっと休憩後のお客様の気持ちを高座に引き戻した扇辰師、語り始めたのは扇橋が生前本当によく演じていた『茄子娘』

清廉潔白な僧のもとへ真夏のひと夜、自らを「茄子の精」と名乗る美しい娘が訪ねてきて…というこの噺。

袖で聴いていると、絽の涼しげな着物をまとって飄々と語っていた師匠の姿と口調が脳裏に甦ってきます。



そして当夜のトリを務めるのは、扇好師。

今回出演者の中で個人的に一番多くお客様を呼んでくれました。
扇好師楽屋.jpg
そばにお酒とか楽屋見舞いがいっぱいあって、羨ましいなぁ。

そのトリが満を持し出囃子に乗って、高座に上がります。
1扇好師高座.jpg
楽屋袖から一歩踏み出した瞬間、もう噺家の出番は始まっている。

マクラで
「今日の売り上げは出演者で頭割りにするんで、お客さん沢山呼んでもいただくものはおんなじなんですよ」
と、右手でお金マークを作る扇好師。
3扇好師高座.jpg
どっと笑いが来たところで、本筋は『笠碁』

いい歳をした旦那ふたりが、碁の待った待たないから大げんかして絶交。
元々は竹馬の友の幼馴染どうし、会って仲直りしたいんだけれどお互い強情で言い出せず…。

後半はずーっと雨が降り続くこの噺、紫陽花の咲くこの時期に聴くと胸にしっくり来ますね。


オリジナルグッズ
若干在庫あり!

この時期といえば、今回作った会オリジナルクリアファイルも九代目扇橋の紫陽花の句をあしらったデザイン。
クリアファイル販売.jpg
仲入り・お開き後に沢山の方にお買い求めいただきましたが、あと若干枚数こちらの手元に在庫がございます。

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入船亭扇治拝

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