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70年の時を超える『愛の手紙』~扇治の私的時間SF傑作選その①~ [お気に入り・おすすめ]


今の私たちには、遡ることも飛び越すこともできない「時の流れ」。
かなわぬ夢だからこそ、人は「タイムトラベル」に憧れるのでしょう。


伝説の
『少年ドラマシリーズ』

昭和47年1月から夕方の時間帯で放送が始まった、NHK『少年ドラマシリーズ』。
今だったら「女の子は見ちゃいけないの!」とクレームがつきそうですが、堅いことは言いっこなし。
小学生だった私には、放送日が来るのが待ち遠しくてしかたありませんでした。

『まぼろしのペンフレンド』『暁はただ銀色』などのSF、『飛べたら本こ』のようなシリアスドラマ。上質なユーモアと斬新な演出が光る『怪人オヨヨ』…。
1作が5話前後で完結する作品群は、いずれも名作揃い!

中でも別格なのが、筒井康隆『時をかける少女』を原作とする『タイムトラベラー』
タイムトラベラー.jpg

このドラマシリーズ記念すべき第1作は、ファンの間では伝説的な作品となっています。

城達也のナレーションで始まる、不思議な時間旅行の物語。
H.G.ウェルズ『タイムマシン』も大好きだった私は、『タイムトラベラー』で一気に時間SFの虜に。

主人公である普通の女子学生が、ある時時間移動に目覚める。そのきっかけは、ラベンダーの香り
当時は見たこともない花ですが、田舎者の私には”ラベンダー”という名の響きだけで(なんか、お洒落でカッコいいなー)思えたものです。
ラベンダー畑にて.jpg


”時を超える文通”ものの、
色褪せぬ古典

今度日本で実写映画化される『夏への扉』、大好きな夭逝作家・広瀬正の『マイナス・ゼロ』、梶尾真治『クロノス・ジョウンター』シリーズ…。

ご紹介したい時間SFは山ほどありますが、今回はジャック・フィニィの名作『愛の手紙』”The Love Letter"(1959)を。

キアヌ・リーヴスとサンドラ・ブロック共演でリメイクされた韓国映画『イルマーレ』などに影響を与えた、”時空を超えての手紙のやりとり”古典中の古典。

日本での初出は、福島正実・訳のハヤカワSFシリーズ。作品集『ゲイルズバーグの春を愛す』、現在も文庫で入手可能です。
ゲイルズバーグの春を愛す.jpg


『愛の手紙』あらすじ

舞台は1959年のニューヨーク、ブルックリン。
街の罫線760.png

語り手の主人公はある晩、骨董屋で買った机に隠し引き出しがあることに気づく。
三つあるうちの一番手前の引き出しに入っていた、1通の古い手紙。

1882年5月14日と日付があるその手紙は、親が決めた意に沿わない結婚を控えた若い女性が「自分の想像上の恋人」にあてて書いたもの。
”現実の婚約者よりも、架空の人であるあなたを私は心から愛しています”…。

静かな春の夜更けにこれを読んだ主人公は、不思議な気持ちになり。
自分がその「架空の恋人」として、机に入っていた古い便箋とインクで返事をしたためます。

収集アルバムにあった19世紀の切手を貼った封筒を持って、真夜中の街を主人公が向かうのはー。ブルックリンで、一番古い郵便局。
そこの差し出し口から手紙を投函し、翌日からは仕事に追われてそのことは頭の隅に追いやられていましたが…。

1週間後の、やはり真夜中。 主人公はまた不思議な予感にかられ、第二の隠し引き出しを開けてみます。
そこに入っていたのは…。


深夜のブルックリンの街の描写など、やはり時間物の『ふりだしに戻る』を書いたフィニィらしく。細やかで、抒情的な雰囲気漂う美文。 

私は読み返すたび、ラストの1行に胸が熱くなります。


すぐ読める短編、
ほかの作品ともぜひ一緒に!

大好きな広瀬作品などに先駆けて『愛の手紙』をご紹介したのは、
「文庫本で30ページほどで、すぐ読める
のがおすすめ理由その①。

その②は、
いろんなアンソロジーに採られている」
から。

『ゲイルズバーグの春を愛す』でフィニィ節を堪能するのも、もちろん贅沢な読書体験。
それに対し創元推理文庫『時の娘 ロマンティック時間SF傑作選』などでは、ほかの名作にも触れることができてお得!
ロマンティック時間SF傑作選.jpg


福島訳がポピュラーですが、アンソロジーを編んだ大森望が新たに翻訳した『机の中のラブレター』もまた別の味わいがあります。

それが入った角川文庫『不思議の扉 時をかける恋』は、梶尾真治『美亜へ贈る真珠』・乙一『Callig You』なども収録。
時間SF魂をくすぐる作品6編の、豪華詰め合わせ。
不思議の扉 時をかける恋.jpg

こちらもまだまだ、版を重ねています。




「コロナで、ゴールデンウィーク吹っ飛んじゃったよー」と嘆いても、それこそ時を巻き戻すことはできません。

旅行やレジャーの予定が変更になり、空いた時間を。
その時間の不思議さで、私たちをワンダーランドへ連れて行ってくれる。
「タイムトラベルもの」読書体験で、豊かなものになさってみてはいかがでしょう。

蔦飾り線.png

お開きまで
お付き合いいただきまして、
まことにありがとうございます。
ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝

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