繊細な筆とガチの本格ミステリ魂が産む、独自の世界~北山猛邦『さかさま少女のためのピアノソナタ』レビュー~ [お気に入り・おすすめ]
令和3年10月末から11月初めにかけての、北海道公演。
6泊7日の長旅のお供に選んだ本の中から、この作品をご紹介しましょう。
繊細な筆で綴られる
ラノベ風味本格ミステリ
ラノベ風味本格ミステリ
北山猛邦・著
『さかさま少女のためのピアノソナタ』。
『さかさま少女のためのピアノソナタ』。
2019年に『千年図書館』のタイトルで出た講談社ノベルス版を読み逃していた私、2021年文庫化されたものを今回旅支度の中に入れました。
今回取り上げる『さかさま少女のためのピアノソナタ』は、
に続くノンシリーズのオリジナル短編集三作目。
”弾いてはいけない”
謎のピアノ楽譜
謎のピアノ楽譜
表題作『さかさま少女のためのピアノソナタ』は、2019年に『世にも奇妙な物語』中の一作としてテレビドラマ化されています。
文庫化にあたりタイトルを変えたのは、それが一因かもしれませんね。
『さかさま少女のためのピアノソナタ』あらすじ
収録作中最も短い作品でありながら、謎の曲がもたらす現象を知った聖がとる行動が深く胸に残る一作。
収録作はすべて
粒揃いの名短編たち
粒揃いの名短編たち
『さかさま少女のためのピアノソナタ』に収録された、ほかの作品たちも簡単にご紹介。
☆”司書”という名の人身御供として、住み慣れた村の西の果てにある小島に送られた少年。
島に残る広大な図書館に残された鉛の箱を、さらに地下の書庫に運ぶのが司書の役目。
いったいこの図書館は、誰がなんのために建てたものなのか?
『千年図書館』
☆ある日突然太陽系外から飛来した物体により、大きな縞模様が刻まれた月面。
その出来事からしばらくして、主人公の大学生が持つラジオから不思議な声が流れ出す…。
奇妙な地球外生命体が、ユーモラスなストーリーを意外な結末に誘う。
『今夜の月はしましま模様?』
奇妙な地球外生命体が、ユーモラスなストーリーを意外な結末に誘う。
『今夜の月はしましま模様?』
☆転地療養を兼ね十年ぶりにイングランド東部の村に帰った医師が目にしたのは、数々の高い塔が立ち並ぶ異様な光景。
元海軍将校で”船乗りさん”と呼ばれる村長が始めた、塔の上に死者を葬る「塔葬」。 この習慣が根付いてからの村は、豊作に恵まれ人々の心は穏やかになったという。
しかし医師には村人から慕われる”船乗りさん”に、どこか暗い影があるように感じられてしかたがないのだった…。
『終末硝子(ストームグラス)』
いずれも、小説を読む楽しさに満ちた傑作揃い。
筆者一押しは
巻頭のこの作品
巻頭のこの作品
そんな5作の中で、私の個人的おすすめ度NO.1は巻頭に置かれた『見返り谷から呼ぶ声』。
『見返り谷から呼ぶ声』 あらすじ
私がこの作品をおすすめする理由としては、まず
が挙げられます。
”振り返る”という行為が、ある自然現象と結びついた時予想外の事態が起きる。
現実に可能かどうかは置いといて、作中ではミステリの仕掛けとして充分納得できるよう描写されています。
そしてもう一つのおすすめポイントは、
この語り手の設定は1999年大ヒットのハリウッド製スリラー映画以来、青春系ライトノベルやミステリでけっこうよく使われているもの。
一歩間違うと、(ああ、またあれか)と読者をがっかりさせがちですが…。
そこは、巧緻な作品作りに定評ある作者の腕。
かなりミステリ慣れしているつもりの私、初読の時はこの趣向にまるで気づかず。
ラストまで行ってからすぐもう一度読み返し、丁寧に伏線が貼られている快感に思わず膝を打ちました。
ラストまで行ってからすぐもう一度読み返し、丁寧に伏線が貼られている快感に思わず膝を打ちました。
私は旅の道中でゆっくりこの『さかさま少女のためのピアノソナタ』を満喫しましたが、いろんな形で楽しめるのが夜長の読書。
皆様にもこの秋、素敵な一冊との出会いがありますように。
お開きまでお付き合いいただきまして、まことにありがとうございます。ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝
入船亭扇治拝
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