タイプライターから出て来る小さい「 」が醸し出す恐怖~キング『しなやかな銃弾のバラード』ご紹介 [お気に入り・おすすめ]

長い時をかけて読み込まれ、ジャケットの端が擦り切れた1冊の文庫本を眺める黒猫こまち。
タイプライターに住む
創作の妖精
創作の妖精
『キャリー』『シャイニング』『IT』等のベストセラーを連発する”ホラーの帝王”、今ではそのホラー小説の域を超えて現代アメリカ文学の巨人としての地位を確立した作家スティーヴン・キング。
冒頭でこまちが眺めていた『神々のワードプロセッサ』は初期短編集『SKELTON CREW』を3分冊化したシリーズの第2集・サンケイ文庫1987年3月第1刷版。
扶桑社文庫として、今でも版を重ねています。
扶桑社文庫として、今でも版を重ねています。

キングとしては珍しいハッピーエンドが用意された表題作。
超長距離瞬間移動(テレポーテーション)技術が普及した未来を舞台に、底なしの恐怖を描き出す『ジョウント』。
その他計6編のいずれ劣らぬ傑作群から、今回ご紹介するのは『しなやかな銃弾のバラード』。
超自然現象が炸裂する派手さはありませんが、人間の「狂気」というものの恐ろしさをそくそくと感じさせる作品。
超自然現象が炸裂する派手さはありませんが、人間の「狂気」というものの恐ろしさをそくそくと感じさせる作品。
『しなやかな銃弾のバラード』 あらすじ
デビュー作が大成功して世に出たばかりの、新進気鋭の若手作家。
その作家夫妻自宅主催の少人数ながら和やかなホームパーティ、バーベキュー後の歓談場面から幕を開ける物語。
その作家夫妻自宅主催の少人数ながら和やかなホームパーティ、バーベキュー後の歓談場面から幕を開ける物語。
「若くして成功をおさめた作家」たちについて語り合ううち、いつしか話題は「将来を嘱望されながら、自ら命を絶った若手作家」のことへと。
そんな不幸な夭逝作家の一人レグ・ソープの死に至る経緯を静かに語り始めたのは、命を絶つ直前の彼を担当していた雑誌編集者。
作家としての第1作が大ベストセラーとなったレグ・ソープが続いて書き上げた、狂気をテーマにした短編『しなやかな銃弾のバラード』。
出版社に送られてきた原稿に一目惚れした編集者は、自分が担当している雑誌にこの作品を載せる約束をレグと交わします。
出版社に送られてきた原稿に一目惚れした編集者は、自分が担当している雑誌にこの作品を載せる約束をレグと交わします。
レグの妄想の一つとして、
というものがありました。
というものがありました。
しかし『しなやかな銃弾のバラード』という作品に魅せられ、自らも重度のアルコール依存症で精神が不安定だった編集者は
という嘘をレグへの手紙に綴ります。
という嘘をレグへの手紙に綴ります。
初めて自分の理解者を得たと喜ぶ妄想作家と、相手に話を合わせているだけのつもりだったのがいつしかフォーニットに心を侵食されていく編集者。
正気と狂気の間で危ういバランスを保っていた両者の危うい関係は、やがて取り返しのつかない悲劇をひき起こすことに…。
”パソコン付属猫”が
作品再読のきっかけ
作品再読のきっかけ
今回この作品を取り上げようと思ったきっかけは、共同執筆猫こまち・最近のこんな振る舞いから。
の記事で書きましたように、新しいエアコンの温風とノートパソコンの発するかすかな熱を求めてすり寄って来るこまち。
ベストポジション狙いつつ身繕い。
こうしてキーボードの上に乗っかられると、こちらはもう何も作業ができません。



ん、待てよ?
自分がキーボード打てない間、このパソコン付属猫が代わりに作業してくれないかなぁ。
こっちはパソコンに乗った猫の背中撫でているだけで、画像編集や呑気記事執筆がサクサク完了。
だったら、
楽でいいよなぁ。
だったら、
楽でいいよなぁ。
(あっそういえばスティーヴン・キングの初期短編で「タイプライターに住む創作妖精」ってのがあったな)、と。
こんな連想ゲームで、『しなやかな銃弾のバラード』を数年ぶりで読み返してみたようなわけです。
こんな連想ゲームで、『しなやかな銃弾のバラード』を数年ぶりで読み返してみたようなわけです。
機械の中で働く
”小さい人たち”
”小さい人たち”
『しなやかな銃弾のバラード』のクライマックス直前に、「フォーニットという妖精は作家の妄想ではなく、実在するのかも」と思わせる描写があります。 ※以下そのくだりの文章を数行引用します。未読で興味を削がれたくないという方は、ここから引用終了箇所までジャンプしてください。

飲酒で意識混濁した編集者が自宅のタイプライターがたてるかすかな音に気づき、機械に目をやると…。
こんな光景が見えたんだと、パーティ出席者に向って淡々と語る編集者。
こんな光景が見えたんだと、パーティ出席者に向って淡々と語る編集者。
~引用終わり~
・・・。
子ども向け絵本で同じ描写があったら、ほのぼのする可愛らしい光景ですが。
子ども向け絵本で同じ描写があったら、ほのぼのする可愛らしい光景ですが。

キングの筆致は思わず読んでいる本を取り落としそうになるくらい、ドキっとさせてくれます。

さらに「小さい手」から、こんなものも連想。
自動製氷機付きの、冷蔵庫。

岐阜の私の実家で、一時このタイプを使っていたことがあります。
氷ができる時にガタっ・ゴトごとっと冷蔵庫の中から音がするのを聞いた女房が
と言ったのが、妙にこちらのツボにはまったのを思い出しました。
と言ったのが、妙にこちらのツボにはまったのを思い出しました。
「小人さんのハイホー」というのが、わが女房ながら利いてますよね。

仕事の旅先で宿泊のビジネスホテル、自販機コーナーに無料の製氷機が置いてあるところが結構あります。
自分の部屋の真向かいにそんなコーナーがあると、夜中周りが寝静まっている時ふと目を覚ました時…。
ガタっ・ゴトごとっ・ごっとん。
聞こえてくる小人さんたちの、氷作りの音。
それに耳をすませていると、ふっと里心がついたり。

『しなやかな銃弾のバラード』からの連想は、いろんな方向へ広がっていくのでした。
※スティーヴン・キングの作品については、
でも触れております。 未読の方、よろしければそちらもご覧ください。
でも触れております。 未読の方、よろしければそちらもご覧ください。

お開きまでお付き合いいただきまして、まことにありがとうございます。ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝
入船亭扇治拝
タグ:読書 猫