猫の魂を宿した筆が紡ぐ、心温まる珠玉のキャットストーリー 有川ひろ『みとりねこ』 [お気に入り・おすすめ]
「猫優良図書選定委員会」の推薦図書に決まったこの一冊。
作者・有川ひろ先生の大ファンである黒猫こまちも大喜び。
熱心に一心に
梅鉢はんこ押す猫
梅鉢はんこ押す猫
短編集『みとりねこ』(2021年講談社刊)には、猫と人間を巡る物語が7編収録されています。
映画化され全国の猫好きたちの涙腺を崩壊させた『旅猫リポート』外伝2作を皮切りに、いずれも心温まり目頭熱くなる作品ばかり。
映画化され全国の猫好きたちの涙腺を崩壊させた『旅猫リポート』外伝2作を皮切りに、いずれも心温まり目頭熱くなる作品ばかり。
今回はその中から、巻末に配された表題作をご紹介。
ある朝のこと。
桜庭家の三男坊・浩太(こうた)が朝食の席で醤油の小皿に手のひらを浸し、それでテーブルクロスに点々と梅の花型のスタンプを押していくシーンから物語は幕を開けます。
桜庭家の三男坊・浩太(こうた)が朝食の席で醤油の小皿に手のひらを浸し、それでテーブルクロスに点々と梅の花型のスタンプを押していくシーンから物語は幕を開けます。
浩太は、桜庭家の猫。
ニ十歳を迎えてもピカピカふわふわの毛並みが自慢で、家族で一番背の高い次男の浩美(ひろみ)の肩に飛び乗るのが苦にならないほどまだまだ元気。
ニ十歳を迎えてもピカピカふわふわの毛並みが自慢で、家族で一番背の高い次男の浩美(ひろみ)の肩に飛び乗るのが苦にならないほどまだまだ元気。
その浩太が最近朱肉や絵の具・時には食卓の醤油やケチャップを使い、方々に肉球はんこぺたぺた押すのに余念がない。
テーブルクロスについた醤油の梅鉢模様を布巾で拭きながら「なんでこんなイタズラ覚えたんだろうねー」首をひねるお母さんに向かって、浩太は胸の中でこうつぶやくのでした。
(イタズラなんかじゃありませんよ、予行演習ですよ)。
(イタズラなんかじゃありませんよ、予行演習ですよ)。
「肉球」と「猫又」
二つのキーワード
二つのキーワード
浩太はいったい、何の予行演習をしているのか?
それは実際に作品を読んでいただいてのお楽しみとして…。
ここでは『みとりねこ』ストーリーの肝になる、二つのキーワードについて考察してみましょう。
それは実際に作品を読んでいただいてのお楽しみとして…。
ここでは『みとりねこ』ストーリーの肝になる、二つのキーワードについて考察してみましょう。
まず初めに鍵となる言葉は、
「猫の肉球はんこ」。
「猫の肉球はんこ」。
猫と暮らしている方なら、一度ならず桜庭家と同じような体験なさっているはず。
柔らかくて少し湿っていて、干し草のような匂いのする猫の手足裏側。
猫がその肉球を使って、カーポートに停めてある車に点々と泥足で梅鉢アートを描く…なんてのはよく見る光景。
私も先代猫「こにぼし」に、肉球はんこで苦労させられたことがあります。
『みとりねこ』浩太のように醤油ではなく、わが家の場合は墨汁。
落語会に使う寄席文字のめくりを書いている時、背後からテーブルに飛び乗ってきたこにぼしがまだ乾いてない字の上を素足でべたべた。 そのまま紙全体を縦断していったので、半分以上書き上げていためくりが梅鉢散らしに。
ホワイトで消せないほど広範囲に梅鉢が広がってしまい、泣く泣く書き直したことがありました。
『みとりねこ』浩太のように醤油ではなく、わが家の場合は墨汁。
落語会に使う寄席文字のめくりを書いている時、背後からテーブルに飛び乗ってきたこにぼしがまだ乾いてない字の上を素足でべたべた。 そのまま紙全体を縦断していったので、半分以上書き上げていためくりが梅鉢散らしに。
ホワイトで消せないほど広範囲に梅鉢が広がってしまい、泣く泣く書き直したことがありました。
もう一つのキーワードは、
「猫又」。
”年古く生きた猫はしっぽが二又に別れ、不老不死の妖怪になる”というもの。
「猫又」。
”年古く生きた猫はしっぽが二又に別れ、不老不死の妖怪になる”というもの。
仲のいい浩美が幼い頃”生き物の寿命”という概念を知り不安になっているのを察した浩太は、(浩美に悲しい思いをさせないように、自分が浩美より一日でも長生きしよう。僕が、浩美を看取るんだ)と決意。
でも本来は人間よりずっと短い生涯である猫が、どうやったらそんなに長く生きられるのか?
(それには、頭が良くてきれいな従姉が浩美に教えてくれた「猫又」になればいいんだ!)と気づく浩太。
(それには、頭が良くてきれいな従姉が浩美に教えてくれた「猫又」になればいいんだ!)と気づく浩太。
だけどどうしたら、
猫又になれるんだろう。
悩む浩太に今度はお姉さん猫のダイアナが、素敵な情報を教えてくれるのでした…。
猫又になれるんだろう。
悩む浩太に今度はお姉さん猫のダイアナが、素敵な情報を教えてくれるのでした…。
猫好きな人には見慣れた、猫の肉球はんこ。
「うちの子うんと長生きして、猫又になってずっとそばにいてくんないかなぁ」なんて話題も、猫家庭だったら一度ならず言の葉にのぼっているはず。
そんな馴染み深い猫キーワードから、一編の宝石のような物語を紡ぎ出す。
名ストーリーテラー・有川ひろの魅力にあふれた短編集『みとりねこ』。
その筆致は、まさに猫の魂を宿したかのよう。
未読の方は長編『旅猫リポート』と併せて、ぜひご一読なさってみてはいかがでしょう。
名ストーリーテラー・有川ひろの魅力にあふれた短編集『みとりねこ』。
その筆致は、まさに猫の魂を宿したかのよう。
未読の方は長編『旅猫リポート』と併せて、ぜひご一読なさってみてはいかがでしょう。
そうそう、お読みになる時は大きめのハンカチとたっぷりのティッシュペーパーご用意を。
きっと、涙腺をやられますからね。
きっと、涙腺をやられますからね。
ここまで書いてきてふと傍らを見ると、そばには私がサボらないか監視する共同執筆猫の姿が。
「無事に記事一本、書き上げましたよー」報告すれば、「うむ、じゃあおやつ(自分の)にするか」と立ち去るその後には…。
ニトリの冷感ラグの上にうっすら残る、黒猫の肉球はんこ。
それを見ていると『みとりねこ』の余韻のせいか、なんだか鼻の奥がツンとしてきました。
こまちさんや、いっぱい食べて遊んでぐっすり眠って。
いつかはこんな書類が、
うちに来るといいね。
うちに来るといいね。
ご精読ありがとうございます。 ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝
入船亭扇治拝
タグ:読書 猫