作者と受け手、言葉のキャッチボール~雑俳『物者附』の魅力その③~ [web雑俳]
「観てまわったウィーン」。
『2022秋スピリッツ』雑俳物者附での、筆者拙吟。
『2022秋スピリッツ』雑俳物者附での、筆者拙吟。
表の意は、「ウィーン観光旅行」。
裏にはある”丸いもの”が隠されています。
それは…。 映画『第三の男』でも有名な、オーストリアはプラーター公園の大観覧車。
裏にはある”丸いもの”が隠されています。
それは…。 映画『第三の男』でも有名な、オーストリアはプラーター公園の大観覧車。
筆者拙吟
裏とともにご紹介
裏とともにご紹介
今回の兼題「物者附 丸くてあるするものは」で筆者がひねり出したのは、冒頭ご紹介作を含め以下の10句。
※数字は投句一覧「地巻」での通し番号。
※数字は投句一覧「地巻」での通し番号。
続いてそれぞれの裏もご紹介しますがその前に、隠された丸いものがおわかりにならない句がある時はもう一度だけ考えてみてください。
さぁ、シンキングタイム終了でよろしいですか?
それではまとめてご紹介、それぞれの裏。
かなり苦しいのも多くて、せっかく考えていただいた方には申し訳ございません。
反省を兼ね
自作を再検証
自作を再検証
今後また物者附やる時に備え、反省を兼ねて自作を何句か振り返っておきましょう。
順不同で、まず124 番「分けた明暗」。
この句は最初「光と影の記録」と詠んだのですが、なんだか説明っぽいと思ったので投句作のように変えました。
”カメラのレンズが明るいところと暗い部分を分けて処理するから、写真や映画が撮れる…”という原理を言いたかったのですが、かなり無理がありましたかね。
14番「ニューフェイスのヒーロー」。
表は映画会社の新人オーディションでデビュー、すぐに主役を射止めた銀幕のスターたち。
東宝第1期ニューフェイス出身の三船敏郎はじめ、日活では小林旭・東映なら高倉健などなど。
東宝第1期ニューフェイス出身の三船敏郎はじめ、日活では小林旭・東映なら高倉健などなど。
そして裏はもちろん、やなせたかし先生が産んだ国民的ヒーロー。
日本人で『アンパンマン』をまるで知らない人はいないだろうから、(こりゃいい句ができたわい)とほくそ笑んでいたのですが…。
以上2点は”間違い”ではありませんが雑俳としての評価が下がる減点ポイント。
みごとそこに引っかかってしまったこの句は、やはりどなたの選にもは入れてもらえませんでした。
自信作だったのに…
前項で取り上げた2句などはこうして読み直してみると、われながら(こんなんじゃダメだなー、これが人の句だったら俺も抜かないもんな)と思います。
でも実は10句の中には密かにちょっと自信があったのに、まるで坊主だった残念作も。
でも実は10句の中には密かにちょっと自信があったのに、まるで坊主だった残念作も。
その代表作が
44番「泣かせた刻み」。
44番「泣かせた刻み」。
この句は裏の”刻んでいると涙が出る玉ねぎ”がわかるかどうか以前に、そもそも表がどうも皆さんにご理解いただけなかったよう。
作者としては、表は”感動的な歌舞伎の幕切れ”のつもり。
幕開き・幕切れにチョーン・チョンチョンチョンチョン…と柝を細かく打つのを、芝居では「刻み」と言います。
幕開き・幕切れにチョーン・チョンチョンチョンチョン…と柝を細かく打つのを、芝居では「刻み」と言います。
たとえば『菅原伝授手習鑑 寺子屋の段』なんぞを見物して、舞台上で見得を切る役者に拍手を送りながら。
閉まる幕に合わせ絶妙の間で打たれる刻みの柝に、感極まって客席一同滂沱の涙…といった情景を詠んだ句。
閉まる幕に合わせ絶妙の間で打たれる刻みの柝に、感極まって客席一同滂沱の涙…といった情景を詠んだ句。
自分ではちゃんと表も立っているし裏には玉ねぎも隠してあるしと、いい句のつもりだったんですが…。
まず選に入らないことには、どうにもなりません。
まず選に入らないことには、どうにもなりません。
違う解釈で
選に入った句も
選に入った句も
ここまでご披露したのはすべて選外の句でしたが、ここでお客様が抜いてくださった作もひとつご紹介。
34番「化けた菊」。
表は言うまでもなく『皿屋敷』お菊さんの幽霊。
裏は和名を「菊石」とも言うので「アンモナイトの化石」。
裏は和名を「菊石」とも言うので「アンモナイトの化石」。
…のつもりだったのですが、抜いてくださった方は裏が
というご解釈でした。
というご解釈でした。
二ツ目時代~真打ち昇進後しばらくは不遇だった二代目の師匠は、やがて独特のフラがある高座がお客様・お席亭・評論家に認められ大ブレイク。
だから裏が、
”芸人として化けた圓菊”。
だから裏が、
”芸人として化けた圓菊”。
こういう具合に作者の意図とは違った解釈の裏で選に入ることがあるのも、雑俳物者附の面白さ。
では筆者互選結果のうちこのケースに該当する句をいくつかご紹介していますので、未読の方は覗いてみてください。
では筆者互選結果のうちこのケースに該当する句をいくつかご紹介していますので、未読の方は覗いてみてください。
作者と受け手が表裏の解釈を巡って、頭の中で言葉のキャッチボールをする。
この双方向性が、物者附が雑俳の中でも遊びの要素をより濃くしているのではないでしょうか。
この双方向性が、物者附が雑俳の中でも遊びの要素をより濃くしているのではないでしょうか。
ほかの題に比べるとちょっととっつきにくいところもありますが、慣れてくると作るのが楽しくなる雑俳物者附。
折りにふれ、また記事にて取り上げていきたいと思います。
折りにふれ、また記事にて取り上げていきたいと思います。
お開きまでお付き合いいただきまして、まことにありがとうございます。ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝
入船亭扇治拝
タグ:雑俳 物者附 落語
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