SSブログ

雑俳のラスボス『物者附』あなたはこの「裏」がわかるか? [web雑俳]


古今亭駒子師主催『天高く雑俳の秋スピリッツ』その⑨の兼題は、『物者(ものは)附』。
難しい…というわけでもないのですが、作り方の基本を理解するのにちょっと戸惑う方が多い(筆者を含む)題です。

物者附
作句上のルール

物者附の約束事は、
①題に沿った物(裏)を想起させる文句(表)を作る。

②表はそれだけでちゃんと意味が通る言葉でなくてはいけない。


③表と裏は、できるだけ意味が離れていると高得点につながる。裏の単なる説明・言い換えにならないよう心がける。


④裏を表す方法は表の文句から情景や形を想像させる「絵物者」と、文字で連想させる「字物者」の二通り。両者が混在するのも可。


⑤詠み方は「のた切れ」。必ず「~の○○」「~した・だった○○」という形にする。

今回の物者附は、「丸くてある・するもの一切」。
この題に沿って、たとえばこんな句を詠んでみます。
「貝になった芸者」。

表の意は、”貝のように口を閉ざした芸者さん”。
貝になった芸者.jpg
野暮を承知で情景を説明すると…。
置き屋の女将さんがある日、売れっ子芸者のお腹が大きくなっているのに気づく。
「誰の子なんだい!」女将がきつく問いただしても、当の芸者さんは相手の男に忠義だてし貝のように口を閉ざしたまま…。

そしてこの句の裏になる丸いものとは、こちら。
貝になった猫.jpg
アンモナイトの化石に似ているところから「ニャンモナイト」などと呼ばれる、猫の丸くなって寝ている姿。

花柳界の符牒で芸者さんのことを”猫”と言うので、「貝になった芸者」=「ニャンモナイト」と苦しいなりに表がたつ物者附になりました(うまいかどうかは置いといて)。

秋スピリッツ
物者附作品一覧

それでは2022年10月10日昼の部に集まった物者附作品を、以下にまとめてご紹介します。
※行頭の数字は、作品一覧「地巻」での通し番号。
※少しでも見やすいように、20句ごとに区切りを入れております。

2022年秋スピリッツ
兼題:物者附 丸くてある・するものは

1 10円分の世界平和
2 1930年代制作のレコード盤がここにあった
3 アーサー王達が座った
4 アレルギーの元
5 イヤだったゴム
6 ガキ大将の歌声
7 くやみの数
8 すくわれた出目
9 ススキの向こう側
10 スリーポイントの銀メダル
11 ためこんだ火種
12 つけた白黒
13 なごり雪が作った
14 ニューフェイスのヒーロー
15 ねらったポケット
16 ピックで弾いたロック
17 ひっくり返った粉
18 ひび割れた鏡
19 プーチンへの腹薬
20 ふさふさのカット

21 ベットの15
22 ホールの人
23 ミソがついた王子
24 握られた輪
25 安土にかかった霞
26 偉大な一歩の地
27 萎んだ菊
28 井戸の穴
29 一発の銃声
30 一本の筒
31 飲み忘れた薬
32 奄美の海の神秘
33 押し倒した裸体
34 化けた菊
35 夏に廻った三越
36 割れた桃
37 噛みついた首
38 瓦ぶきの蔵
39 甘かった今川
40 観てまわったウィーン

41 願いを叶えてくれる七つの秘宝
42 気っ風がよかった船のり
43 飢えと満腹のひと月
44 泣かせた刻み
45 橋の石
46 金が埋まった土
47 九月の坊主
48 空からフォーユー
49 串に刺さった白玉
50 軍艦の乗組員
51 計られた腕
52 穴があいていたポケット
53 穴に落ちた音
54 穴を埋めた重鎮
55 月は落ちなかった
56 建部賢弘はオイラーより早い年代に正確に求めた
57 見すかした将来
58 見上げた広告
59 虎のハリセン
60 光る前座

61 広がった波
62 高石ともやが歌った
63 刻まれた記憶
64 三色の番人
65 三人の兄弟
66 三増の家
67 残った俵
68 子らの集団
69 子煩悩の相方
70 持った石ころ
71 手にした世界
72 手乗りのウグイス
73 拾わなかった1グラム
74 十五の夜
75 祝日に出た太陽
76 焼いたうさぎ
77 焼けた明石
78 照らした大鏡
79 真似した炎上
80 杉の林

81 正された露
82 生け捕った籠
83 石と化した貝
84 線をひいた手
85 続いた煩悩
86 続けた黙食
87 太った志ん陽師匠
88 打った大石
89 袋の中身
90 大きかった福
91 大砲の弾
92 卓上の往復
93 団子の向こう側
94 弾かれたパチもん
95 男だけの東西南北
96 猪の口
97 泥だらけの駒
98 天の七つ星
99 転がされた金時
100 転ばなかった僧

101 兎のお餅
102 渡した眼鏡
103 登った天辺
104 投げた象
105 頭主の坊や
106 闘った馬場
107 道の入口
108 得意のサイン
109 二世の種明かし
110 虹色の音
111 虹色の風船
112 入った水口
113 入れ替わった昼夜
114 年寄りのマイボール
115 年季の入った菓子
116 波だった水
117 白黒つけた一石
118 白黒つけた戦い
119 鳩のエサ
120 髭の入れ物の崩れを防いだ

121 怖かったお茶
122 武装した獣
123 風に乗った船
124 分けた明暗
125 褒められた一花
126 膨らんだ石鹸
127 味噌汁の名人
128 未確認の焼きそば
129 鳴った腹
130 野原のスバル360
131 裏表のあった堅物
132 里で見た犬
133 倫敦からンが一つ盗まれた
134 鈴木大地の母
135 炬燵の上の猫
136 籠の玉

拙句で解説
絵物と字物

出来の良し悪しは別にして、筆者の詠んだ作品のうち絵物者と字物者の句を一つずつご披露しましょう。

11番「ためこんだ火種」。
表は小は夫婦喧嘩から大は国家間紛争まで、争いの元が充満している状態。
裏は、こちら。
ガスタンク.jpg
ガスタンクを裏に隠した絵物者。

字物者で詠んだのは、
84番「線を引いた手」。
「線」と「手」の文字から、これを連想してもらいたいのです。
ヨドバシカメラ.jpg
♬まぁるい緑の山手線。

こんな感じで遊ぶのが、雑俳の物者附。
拙い解説ですが、その約束ごとと面白さおわかりいただけましたでしょうか。

考えるアイコン.jpg

今回掲載した作品群のうち互選会「開き」前の時点では、裏に隠れている「丸いもの」が筆者にもわからない句が沢山あります。
10月10日昼の部の開きで入れない(裏がわからない)句はできるだけ確認し、答え合わせをしたいと思います。
後日そちらも別記事にてお知らせいたしますので、それまで皆様ご自身で謎解きをしてお待ちください!

※『秋スピリッツ』シリーズその他の回の作品一覧は
☆『秋の雑俳落語会、『笠附 百人一首上五取り』作品一挙公開!
☆『江戸っ子たちの心持ちになって、こんな『無駄口』で遊んでみよう!
にて掲載しております。

蔦飾り線.png

ご精読ありがとうございます。またのご訪問、お待ち申し上げております。
入船亭扇治拝

タグ:雑俳 落語
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。