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高値傾向が続く庶民の味・秋刀魚、落語で楽しく満喫しよう! [落語情報]


こんがり焼け目のついた2匹のサンマ、鮮度がいいので目元涼やか。
さんまロックオン.jpg
それをテーブルの向こうから、虎視眈々と狙う黒猫。


年々減少
サンマの漁獲量

秋風が立つ頃になると、無性にサンマが恋しくなる私。

岐阜産まれで川魚が主だった少年時代、小学三年の時に初めて母親が焼いてくれたサンマ。

父親の好みで大根おろしではなく、おろし生姜を添えた醤油で食べた時の感動たるや!

それ以来サンマは、私にとっての”永遠の恋魚”。




私だけではなく多くの日本人がその姿に郷愁を抱く存在、なおかつリーズナブルなお値段で庶民の味方。

しかしその本来大衆魚であったサンマ、最近は漁獲量が減る一方。
日本では2008年の年間34万トンをピークに水揚げは右肩下がり、2020年は過去最低の2万9566トンだったそうです。

さんま漁獲量激減.jpg

その年の気候や海水温度で日本近海までサンマが回遊して来ない等、漁獲量激減の理由も様々。

個体の絶対数が減っていることもあり得るので、日本・韓国・中国・ロシアなど8か国が参加する国際会議では資源保護のため漁獲可能量(TAC)引き下げを決定。

日本では2020年比で41%の削減、今年2021年の漁獲可能量は15万5335トンに設定。

これは過去最低水準だそうですが、昨年実際には3万トン弱しかサンマは獲れていないので当面の市場価格には影響無し。




冒頭画像でこまちから食卓を死守しながら味わった、わが家のサンマ。
9月下旬に近所のスーパーで買った時は一尾199円(税抜き)でしたが、岩手や宮城・千葉沖までサンマが下りてくればもう少し値段は落ち着いてくるでしょう。

その時が来たら、もう一回くらいはこまちと闘いながら食べたいなぁ。


江戸の不人気魚が
イメージ戦略でスターに

「ダツ目サンマ科」であるこの細長い魚、わが国江戸時代には今日の隆盛到底うかがい知れぬ不人気魚でした。

最初は食用ではなく、油を取るために買う人が多かったほど。

当時の漁師にはサヨリの仲間(沖サヨリ)だと思われていて、
「これ脂っこくておいしくないけど、身は普通のサヨリよりずっと大きいから。安くしとくんで買わないかい?」
そんな具合に売られていたそうです。




「サンマ」の語源は
☆細長い魚を表す「狭真魚(サムマ)」が転訛。
☆群れ=沢を成すので「沢魚(サワンマ)」から。
など諸説。

『吾輩は猫である』などに「三馬」と書かれたりもしていますが、佐藤春夫があの詩を発表した大正時代以降は他の表記を退け
”秋が旬の、刀のようにシャープな魚”=「秋刀魚」
が漢字としてすっかり定着。

まさにイメージぴったりのきれいな字面、サンマ当人(当魚)もいい漢字を充ててもらい喜んでいるのでは。

さんま刀.jpg

郷ひろみに憧れる少女”蒲池法子”が、「松田聖子」として超人気アイドルから世界的エンターテイナーへと羽ばたいていったように。

”沖さより”から「秋刀魚」になったことで、サンマの人生(魚生)は今日の大衆スターの地位へとつながったと言えるでしょう。


秋刀魚を扱った
落語三題

せっかくですから、私もここからは「秋刀魚」と表記することにします。

その秋刀魚が出て来る落語を、三席ご紹介。


トップバッターは、やはりこの噺。
さんまのちゅ~る.jpg
『目黒のさんま』。

詐欺の名称にもなった有名落語と、人間国宝の面白エピソード~噺家たちの”洒落になる高座でのミス”その②~で取り上げた『時そば』と並び、多くの方があらすじと落ちをご存知の一席。

登場人物の会話より説明の部分が多めの「地ばなし」、新しいギャグを入れてウケやすいことから秋にはよく高座にかけられています。




続いては
さんま火事.jpg
『さんま火事』。

桁外れにケチな地主の油屋に、再三煮え湯を飲まされている長屋の者たち。

意趣返しに大家の発案で、夕飯どきに油屋の裏の空き地に長屋36軒が勢揃い。
ずらり並べた七輪で旬の秋刀魚を大量に焼き、その煙を火事と勘違いさせて油屋の店の連中を慌てさせようとするが…。

噺家から紙切りに転向した初代・林家正楽の新作落語。

油屋のケチん坊ぶりを長屋の者が大家に訴える前半、うまくやらないとすぐお客様が飽きてしまったりします

苦労した割にウケにくい地味目の噺なので、今では私ども一門の何人かとほか数人しかやり手はいません。

でも長屋の連中が”唐茄子のお化け”(和製ジャック・オー・ランタン)をこさえて油屋の旦那を脅かそうとするくだりなど、捨てがたい味があって私は個人的に好きな一席




おしまいは『さんま火事』よりさらに珍品、
助六と揚巻.jpg
『さんま芝居』。

イラストのように秋刀魚が衣装付けて舞台に立つわけでは、もちろんありません。

道中の江戸っ子二人が、旅の座興にと入った田舎の芝居小屋。
出ているのはドサ回りの芸人一座、大根役者ばかりで江戸っ子たちは辟易。

そのうち芝居もクライマックスにさしかかり、幽霊が花道のスッポンから出る段になったが小道具の煙用花火の支度がない。

見物を待たせちゃいけないと、ちょうど道具方が焼いていた秋刀魚の煙を渋うちわであおいでヒュ~ドロドロー。
なんとか幽霊を登場させたのだけれど…。

二代目・三遊亭圓歌が得意としており、音源が残っています。

最近では四代目・三遊亭金馬師匠(現・金翁)が鳴り物入りで高座にかけており、国立演芸場での芸術祭参加公演の際には私も前座で手伝った記憶が。

落語芸術協会の三笑亭笑三師匠も、お元気な頃はトリでやってましたね。

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さてこんな呑気記事を綴っているうち、2021年も10月を迎えようとしています。

東京などで長く続いた緊急事態宣言も、9月をもって全面解除の予定。

ほとんど仕事は開店休業だった私も、来月からはボチボチと高座でしゃべる機会が戻ってきそうな気配。

それではそろそろサビついた口と喉に油をさし、蔵に入りっぱなしだった噺の埃を払って。

いずれどこかの高座で皆様の前にお目通り叶う日を、心待ちにしております。

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お開きまでお付き合いいただきまして、まことにありがとうございます。ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝

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