物やお金がないのも、笑い飛ばす噺家魂!~「赤貧洗うがごとし」を、呑気な黒猫イラストで高座ネタに~ [日々雑感]
破れ襖に綿の出た座布団、ミカン箱の食卓。
絵に描いたような(イラストだから当たり前ですが)、独り者の侘住まい。
今では死語に近い?
物のない様を表す言葉
物のない様を表す言葉
北の大地にあるH大学獣医学部を舞台とした、佐々木倫子さんの人気漫画『動物のお医者さん』 。
そのコミックス第4巻に、こんなくだりが。
白泉社 花とゆめCOMICS『動物のお医者さん』第4巻より
そのコミックス第4巻に、こんなくだりが。
白泉社 花とゆめCOMICS『動物のお医者さん』第4巻より
主人公ハムテルと友人二階堂・大学院生の菱沼先輩が、自分たちの”貧しさ”を嘆くシーン。
この作品が発表されたのは、1990年。
漫画の登場人物とはいえ、最高学府に籍を置く若者たちがよく知らないこの言葉。
日本から貧困がなくなったわけではありませんが、
その当時から、あまり使われない表現の一つだったと言えるでしょう。
現代に生きる
「赤貧洗うがごとし」
「赤貧洗うがごとし」
しかし、そんな現代にあっても…。
噺家の前座たちの暮らしには、この言葉がついてまわったりします。
噺家の前座たちの暮らしには、この言葉がついてまわったりします。
これは、今からふた昔ほど前のある貧しい前座の物語。
実話ですが名前を出して差し障りがあってはいけないので、大事をとって「黒猫家こまち」の体験談ということで話を進めましょう。
お金がなくて、毎日お腹を空かしている食いしん坊のこまち。
ある日、先輩たちの真打披露パーティの手伝いに行きました。
披露目が無事お開きになり、帰りに「ご苦労さん!」と持たせてもらった引き出物のお赤飯折詰。
さっそくうちへ帰ったこまち、冒頭イラストのようにありがたさを噛みしめながら赤のご飯をいただきます。
冷めた赤飯の、
レンジ入らず加温法!
レンジ入らず加温法!
夕食の膳で、うまいおいしいと折詰の半分をたいらげたこまち。
(あとはまた、明日の朝食べよう)。
(あとはまた、明日の朝食べよう)。
楽しみにお赤飯をとっておいて、せんべい布団に潜り込むやいなやグーっ。
パーティで働いた疲れから、深い眠りにつきます。
パーティで働いた疲れから、深い眠りにつきます。
さてあくる朝こまちが、いそいそとミカン箱食卓に向かうと…。
昨夜あまりに眠かったので、折詰にちゃんと蓋をしないまま。
さすがにここまで全開ではありませんが、ひと晩冬の冷気にさらされたお赤飯は表面がパリパリに乾いちゃってます。
このままじゃ、せっかくの赤いご飯に申し訳ない。
温めて少しでもふっくらと、おいしく食べてあげたい。
温めて少しでもふっくらと、おいしく食べてあげたい。
しかし典型的な「赤貧洗うがごとし」所帯のこと、電子レンジはおろかトースターすらありません。
お釜やフライパン持ち出すのは、ちょいと面倒だ。
手っ取り早くあっためる方法はないかと考え、こまちの頭に閃いたのは。
手っ取り早くあっためる方法はないかと考え、こまちの頭に閃いたのは。
タッパー代わりに使おうと洗ってとってあった、カップ焼きそばの空き容器。
いいことを思いついたとこまち、さっそくこの調理方法を実行に移します。
台所の流しで、
悲劇は起きた!
悲劇は起きた!
焼きそばパックにお赤飯を入れ、やかんのお湯を注いで蓋をして。
待つことしばし。
待つことしばし。
もういいだろうと、台所の流しでパックのお湯を捨てにかかる黒猫前座。
しかし一口にカップ焼きそばと言っても、その構造は湯切りの仕方により大きく2種類に分かれます。
ふた昔前のことでもあり間も悪くて、こまち宅の流しに洗い上げてあった焼きそばパックは②タイプ。
久しぶりのお赤飯で緊張しているのと、これから支度して楽屋に行かなくちゃいけない慌ただしさ。
流しに向かい平常心でないこまちの、パックを押さえた両手がツルっ!と滑ります。
その拍子に、パカっと蓋が開いて。
お湯と一緒に、中身のお赤飯が流しの底に ベチャっ!
皆様ご家庭の流しとは違い、独り者で無精な前座の台所。
お食事前の方には恐縮ですが流しの底には、歯磨き粉や黒い毛なんかがこびりついてる。 そこへお赤飯の塊が、じかに”ベチャっ”。
いかに貧しい前座でも、一瞬迷ったそうです。
(食べようか、よそうか…)。
(食べようか、よそうか…)。
まぁ結局食い気には逆らえず、食べたそうですがね。
さすがにそのまま口に入れるのは抵抗があると、さらに一計を案じ…。
お赤飯をざるにあげて、流水で洗ってから食べた。
ここから始まったんでしょうな、桁はずれに貧しい様を表現するこの言葉
おあとが、よろしいようで…。
このネタを思い出したきっかけは、冷蔵庫に貼った回転寿司『スシロー』のメニューに興味津々のリアルこまち。
※こまちに魅入られたメニューがこのあとどんな運命を迎えたかは、私のTwitterhttps://twitter.com/senjitonaraban16月21日付にて動画を掲載しております。
お開きまで
お付き合いいただきまして、
まことに ありがとうございます。
ぜひまた、
ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝
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タグ:落語 猫 イラスト