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花のお江戸にもあった、歓楽地への時短要請~コロナ禍の今こそ見習いたい、八代将軍の粋な政策 [江戸のトリビア]


今回のコロナ禍が、
後世「歴史」になった時。

状況を象徴するキーワードの一つになるであろう、「飲食店への営業時間短縮要請」=詰めて「時短」
時短営業.jpg


今回が初めてではない
お上の時短要請

本記事冒頭をiphoneで執筆中、「じた」と打ち込むと変換候補2番目に「時短」が出てきました。
私はこれまでその言葉をスマホで打ったことはないので、それだけ人口に膾炙した用語になっているという証左でしょう。

要請を受けて本来なら書き入れの時間帯前に、営業終了なさっているお店の方々。
お仕事や所用・行楽帰りの食事を、楽しみにしている皆様。

そういう方のご苦労はお察ししますし、私も飲食店さんでの落語会がいくつか中止になっています。

私の田舎では今でも、一番近いコンビニまで歩くと20分くらい。
夜9時以降までやっている飲食店は、スナック系のほかは駅前に2・3軒あるかないか。

でも都市部に暮らす現代人は、どんどん宵っ張りになって。
お店などそれを取り巻く環境も、時代に応じて変化。

その中での時短要請、各本面に大きな影響を及ぼしていることは私なりに理解したうえで。

「庶民が飲食や娯楽を楽しむのに、時の権力者から時間制限を設けられた」ケースは、戦時中は別として今回が初めてではないこと。
ご参考までに、本記事で触れてみたいと思います。

今を遡ること400年前の、江戸時代。
この超有名人気スポットが、営業の形態と時間をお上から厳しく規制された時期がありました。
東叡山 花見.jpg


「上様が寝られぬ」
お寺からのクレーム


当時の江戸人口のおよそ半数が出かけたとされる、春のイベント「お花見」。
上野のお山はその中でも常に、No.1の人出を誇っていました。

しかし享保年間(18世紀初め)に入り、事情が一変。
桜の樹が立ち並ぶ寛永寺から幕府に、厳しいクレームが寄せられたのです。

「春先の花見客の騒々しきこと、目にあまる!
畏れ多くもかしこくも、代々将軍様の御魂をお守りする霊廟を前に町人どもの飲めや歌えや。
これでは上様が、ゆっくりお休みになることはできませぬ。

即刻触れを出し、当地での花見は静粛に執り行うよう下知されたし!」。

平たく言えば、
こういうことをすると
花見でラジカセ.jpg

こうなるから、
徳川家康怒る.jpg

なんとか手を打てということ。

徳川将軍家の墓所を守るお寺からこう言われたら、断るわけにはいきません。 そこで当時の八代将軍・吉宗、「相わかり申した」と寛永寺の要請を受け入れます。

そして上野のお山入口・江戸市中各地に設けられた広報ボード「高札」にて、
「今後上野での花見は、
 極力静かにいたせよ」
とのお触れを出しました。


上野のお山の、
厳しい取り締まり

規制の範囲は時代によって少し変わりますが、基本線としては以下の通り。

☆茶店や料理小屋・まん幕を張った中での飲食は可。
☆ただし、お酒はご法度。
☆控えめな歌舞は可、音曲は不可
※歌い踊るのはあまりうるさくなければ認められていましたが、それに三味線や笛太鼓などの演奏を入れちゃダメだかんね!ということ。


そしてもう一つ、重要な上野での禁止事項があります。
それは、
「けんか口論」。

全国武士の頂点に立つ、徳川将軍。 その霊たちが眠る聖地で罵詈雑言張り上げての諍い、「まことに不謹慎である!」というので規制の対象に。

威勢のいい江戸っ子が「てやんでぇべらぼうめ!」タンカを切っただけで、公序良俗を乱したと。
上野のお山専属ガードマン「山同心」が飛んできて、即捕縛ということになったケースもあるそう。


閉門時刻も、きっちりと

そして上野では、「時短」も適用されていました。
それまでは夜桜見物もできていたのが、お触れが出て以降は暮れ六つ(だいたい午後6時頃)にて門を閉ざすことに。

東叡山寛永寺境内の風紀は守られ、騒々しい酔客がいないことから。
年配の方や子ども連れ、良家の婦女子だけのお出かけにはとてもいい環境。

でも一方には、それでは物足りない人たちも大勢いました。
花見の楽しみである飲食が厳しく規制され、夜の桜も見られない。
がっかりした庶民の気持ちを放ったらかしにしないのは、さすがテレビの人気者・暴れん坊将軍!
上野にかわり、気兼ねなく花見ができるスポットを新たに造成します。

江戸城内の桜などを移植して吉宗が作ったのは、
・王子飛鳥山
・品川御殿山
・隅田川堤
3ヶ所の新桜名所。

勾配がきつい上野に対して、飛鳥山はなだらかな丘で散策しやすい。
飛鳥山の花見2.jpg

品川と隅田堤は、海と川も楽しめる。
海をのぞむ品川御殿山.jpg
隅田川から船で花見.jpg

飲食・歌舞音曲一切の規制無しのうえ、各地それぞれの魅力も相まって。
後発ながら新しい名所は、上野と肩を並べる人気スポットとなりました。


名君吉宗の、
光るまつりごと

隅田堤に桜が植樹された1里あまりの箇所は、以前から水害が多く護岸工事が必要だったところ。
そこに広く強く根を張る桜を植えれば、景観美化と堤防強化の一石二鳥。

向島や吉原に向かいながら花を眺める人も多く、大勢の人が行き交った春の隅田堤。
通る人の足で踏み固められ、土手は当初幕府が予想したより遥かに早く強化に成功。

上野の禁令と同時に、これだけ庶民の心をつかむ施策をスピーディに実行した吉宗。
その行動力・政治力・柔軟な発想には、頭が下がります。

それに引き換え、現代日本を指導する方々のコロナへの対応。
呑気ブログですから、あまり政治的なことには触れたくないのですが…。

ここまでのところ、
「もう少しほかに、やり方あったんじゃないの」。
素人が見てもそう思えてしまう点、いくつもあるのでは。

ここは上の方に任せるだけでなく、私自身が吉宗の英断に倣い。
新型コロナウイルス感染拡大防止には、何が有効でどう対処すべきか。一人ひとりが考え、行動することも必要かと。

おっと、柄にもなく堅苦しいことを。
ではお口直しに、本ブログでは何回か取り上げている人気SFアニメ『超時空要塞マクロス』より。
初代歌姫リン・ミンメイ(CV.飯島真理)の、この歌声をお届けしましょう。


挿入歌『シルバームーン・レッドムーン』、サビ部分後半。
♬冷たいあなたは上海ダンディ  
 ジタンの香りが目にしみる

女泣かせの色男が、粋にふかす細身のフランスタバコの名は「ジタン」
それを今聴くと、
♪時短の香りが 
 目にしみる…
こう脳内変換。


それともう一つ、
本記事でのお遊び。
冒頭イラスト中お店の貼り紙、いま一度ご覧ください。

17時から、19時22分までオープン。
営業時間は2時間22分=”ニャンにゃんにゃん”。

桜罫線淡い760.png

お開きまで
お付き合いいただきまして、
まことにありがとうございます。
ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝

※記事中の浮世絵画像はすべて、国立国会図書館デジタルコレクションより。

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