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第3回web雑俳 番頭互選コメント(1) [web雑俳]


灯火親しむ秋に、粋な言葉遊び。
当ブログ名物のweb雑俳、
第3回を振り返るシリーズ第1弾。

記事おしまいの方には、ひと足早く

『こまちの紅白歌合戦』アニメも!

カンパご協力、御礼


『第3回言の葉落語会』はweb・リアル同時開催。
投句・互選には多くの方のご参加をいただきました。

しかしリアル落語会の方は、まだまだ感染拡大の懸念も大きい時期の夜ということもあり。
お客様のからのお申し込みが、今ひとつ伸び悩み

採算ラインを大きく下回ることが予想されたため、失礼を承知で記事内にて会へのカンパお願いいたしました。

その結果、本当に多くの方からお振込み・会当日の手渡しにてのお志を頂戴しましたこと。
この場をお借りし、あつく御礼申し上げます。

カンパお礼こまち.gif


ご協力金は、まず第3回の経費に充当。
残金は運営費としてプールし、今後の企画へと役立てさせていただきます。

8月20日の会のあと、私が個人的に
(おそらく)世界で一番面白い、PCR検査体験記/猫、ゆく夏を惜しむ
地元の味に元気をもらう、道東の旅
北の大空を舞う、農家を守る紅の翼
の記事のようにPCR検査受けたり、北海道の旅に行ったり。

9月に入りましてからも月例のカルチャー講座・四国への学校公演・世田谷区立図書館でもイベントなど。
明るい笑い声に包まれた、みかん色の愛媛旅日記

多忙・・・というほどではないのですが、講座の準備や図書館新作作り等。
ちょっと時間と手間をとられる案件抱えておりましたので、カンパお振込みいただいた金融機関の記帳に行ったのが9月23日。

『第3回言の葉落語会』の事後処理が後手後手になってしまいましたこと、あらためてお詫び申し上げます。

当日落語会にお越しでなかったお客様で、噺家の天に抜けた方。
web色紙、近日中にお送りいたします。

第2回の参加特典、web寄せ書きも忘れているわけではございません! 選者噺家一同もそれぞれ、一時よりは忙しくなっておりまして…。

いま一度お時間は頂戴しますが、必ずお約束通りにはまとめるつもりですので。 もうしばらくお待ちいただきますよう、お願い申し上げる次第です。

まずは第3回地口附け、自作を反省


ここから『第3回言の葉落語会』の振り返り。
そのまま読み進めていただいても話がわかるよう書いていくつもりですが
web雑俳第3回、クライマックス突入!
web雑俳第3回投句一覧 完全版公開
のリンクから互選結果など、あらためてご覧いただくのもよろしいかと。

過去2回に比べ、私は今回の兼題がいちばん苦労させられました。
ことに、「有名人名の地口附」は大惨敗。

人間、常に後を顧みていないと進歩がないそうです。
そこで恥を忍んで、拙吟不成績の理由を分析してみることに。

有名人の名前の任意の箇所を言いかえて、違う言葉を作る。
まず思いついたのが
「消毒大事(聖徳太子)」
時節柄タイムリー、こりゃいきなり我ながらいいのができた。

喜んでおりましたが、少し落ち着いたら
「待てよ、これけっこうほかの人も詠むんじゃないか?」
思えてきました。

案の定、蓋を開けてみると4人の方が同じ句を。
危ない危ない、違う句にしといてよかった(皆様の句が出揃ってから差し替えたわけではございません!)。
でも結局、「消毒大事」よりいいのはできませんでした。

14 アドリブヒットだー
(アドルフ・ヒットラー)
なんか、苦し紛れの最たるもの。

会当日の開きで小ゑん師匠もおっしゃってましたが、こういう促音入りしゃべり言葉を使うと、句の格はぐっと下がるそうです。
皆様も、お気をつけください。

逆に、
180 森郊外(森鴎外)
185 山田苗字(山田洋次)
はちょっと自信があったりしたんですが…。

結果は、坊主
どなたも、とってくれませんでした。
表も裏も立っているとはおもうんですが、当たり前過ぎたんでしょうか。

173 松の賀正 (松尾芭蕉)
も悪くはないと自分では思ってたんですが、通り句っぽいところが敬遠されたのかも。

96 常温冷温(ジョン・レノン)
は、締切間際にひねり出したもの。
音数が合ってない、駄洒落の部類ですね。
数合わせで出したのですが、駒子師がとってくれて嬉しかったです。

余談ながら。
今では定着した、お酒の「常温」という言葉。

「冷や」とは本来お燗つけてないお酒のことですが、冷やして飲むお酒・冷蔵酒が出回り出すとそちらを「冷や」と呼ぶように。

そこで従来の冷やのことを、今度は「常温」と呼称。
いかにも、味気ないなぁ。

古今亭志ん朝師匠が、お気に入りの蕎麦屋・室町砂場に行った時のこと。
「まず板わさと、お酒冷やね」
注文すると、若い女性店員さんが冷酒の小瓶とガラス猪口持ってきた。

「いや僕が言ったのはこれじゃなくってホラ、お燗してないそのままのお酒があるでしょ?」
志ん朝師匠の説明にその店員さん、しばし考え。
「ああ、常温の方ですね!」

「老舗の蕎麦屋で、「常温」だもんなー…。
時代は、変わったねー」
昔ながらの「冷や」が通じなくなった風潮を、楽屋で嘆いていました。


採らせていただいた句に、ちょいと蛇足を…


それでは僭越ながら、扇仮名女=入船亭扇治選についてのコメントを。

☆客の一
キキ 逸る心がつい前のめり 
41 上過ぎ消印(上杉謙信)

地元美濃市の一日郵便局長やらせていただいた時に見たんですが、消印のスタンプ押す職員さんの手際の見事なこと!
何枚も重ねたり並べたりしたのを、目にも留まらぬ早業でポンポーンと。

「押印機」という消印押す機械は50年以上前からあるそうですが、今でも窓口で差し出した郵便物には手作業で押していますね。

この手紙を早く、相手の元に届けたい!
勢い込んで手紙持ってきた差出人の様子に、つい職員も焦って消印上の方にずらして押しちゃった…なんて感じでしょうか。


☆客の二
キキ 一豊さんち絵に描いた餅
31 いつしか悪妻 (葛飾北斎)

所帯を持った時は、色が白くてぽっちゃりしてて。
台所仕事の手際がよくって、針が持てて亭主を立てる。
三国一の恋女房に恵まれて、ああぼかぁ幸せだなぁ…。

なんて時期が、いかに短いか!
一度でも結婚したことがある方は、よーくおわかりのはず。
ましてや、亭主はなんとかと紙一重の天才浮世絵師。
女房の方も貞女なり孝女なりだけじゃ、務まらなかったのかも。

毒をもって毒を制す…と言うと語弊があるかもしれませんが、いくらか悪女っぽい方が北斎には合うような気が。

ちなみに北斎と言えば、のべつ引っ越しをしていたことでも有名。
別に一時の志ん生師匠のように、借金取りに追われていたわけではありません。

一説によれば北斎は病的に整理ができないたちで、書き溜めた下書きや作品がどんどん家の中を侵食。
家中足の踏み場がなくなると、
「えーい面倒だ、越しちゃえ!」

芸術家だから、環境を変えてリセットという効果もあったのでは。
90歳の生涯になんと、93回の引っ越しを北斎は経験しています。


☆客の三
キキ 楽屋よろこぶあの崎陽軒
47 売れすぎ点心 (上杉謙信)

この句はいわゆる「暴れてるねー」と言われる作品、 多くの方に選ばれている吟。 大人気でしたね。

句の人気通りに、評判が良くて連日羽根が生えて飛ぶように売れている中華の一品。
私は、崎陽軒のシウマイのつもりで採らせていただきました。

2001年の私ども10人での真打披露。
各寄席の初日・中日・千穐楽には、楽屋と席に真打一同からお弁当を出します。

先日店を閉めた「辨松」や四谷・八竹・の茶巾寿司など定番の老舗弁当のほか、皆で相談して末廣亭の中日に披露目では初めて崎陽軒シウマイ弁当を採用。 これが、思いのほか大当り!

辨松さんの味が濃いおかずなど、皆が豪華弁当にちょっと飽きた頃の崎陽軒。
その場で食べてよし、お土産で持ち帰ってもよしと大評判。
懐かしい想い出です。


☆客の四
キキ カタカナ言葉煙に巻く客
78 コミケ売り子(小池百合子) 

時節柄、小池都知事での地口がけっこうありました。

残念ながら令和2年は開催見送りとなった、コミックマーケット2020
漫画やイラストなど作品の展示・即売はもちろん、今ではコスプレイヤーたちのショーウインドウ・交流の場に。

各ブースの売り子たちも、自分の好きなキャラクターに扮してアピール。
ヲタク=引っ込み思案は、大いなる勘違い。
自らの美意識・価値観の中では、ぐっと積極的になれるのが現代の2次元ファン。

『新世紀エヴァンゲリオン』アスカの真っ赤なプラグスーツ姿の売り子さんに
「うちの同人誌買わないなんて、あんたバカァ?」
言われたら、もう逆らえないなぁ。

話がそれましたが、小池都知事はさすがに元売れっ子アナウンサー。
コロナ対策の会見でも、自分をよく見せるすべを知り尽くした立ち居振る舞い。

その小池都知事が発表した
「東京アラート」
都の自粛規制緩和後に感染再拡大の兆候が見られたら、即レインボーブリッジと都庁舎ビルを点灯させて注意を促す。

今思うと、どこまで実効性があった警報なのか…。

それはさておき、防災服を身にまとい隙のないメイクでカメラに向かい
「都民の皆様の健康を脅かす事態が発生した際には即刻、東京アラートを発令します」
と言い切った小池都知事。

一瞬、アニメの登場人物みたいに。
そんなところとコミケのコスプレイヤーをだぶらせて、この句は頂戴を。


☆客の五
キキ 出自は問わぬ全て作品
175 身の上賤し (井上ひさし)

この大作家は大学の大先輩でもあり、そこにも敬意を表して採らせていただきました。

直木賞はじめ、多くの文学賞を受賞している井上先生。
激動の幼少期~青年期を過ごし、『ひょこりひょうたん島』の放送作家として世に出ることに。

文壇バーがまだまだ華やかなりし時代で、文筆業界にも師弟関係・学閥・人脈なんて面倒くさいものが幅をきかせている魑魅魍魎の世界。

ミッション系大学フランス語学科を出たテレビの台本書き上がりの若いのが、そこへ飛び込んでいく。
井上先生、けっこう苦労したんじゃないかな。

谷崎潤一郎賞の選考会あたりでW大学出身の大御所作家から
「なんだこの井上ってのは。 孤児院育ちでJ大学なんて軟弱な学校出の若造に、権威ある賞を与えていいもんかね?」
ケチをつけられたり。

そんなことを想像して、この句のキキはつけさせてもらいました。


☆人の位
キキ 太く短く生きる源
104 人生走ろうダメ元 (鎮西八郎為朝)
☆地の位
キキ 仲良く分ける儲け官民
176 無駄な工事年末 (武者小路実篤)

どちらも小ゑん師匠吟。

番頭として今回もできるだけ、お客様の句を上位で頂戴したかったのですが…。 この2句は個人的に大変ツボにはまり、人と地に。

「人生走ろうダメ元」は、今の私たちへのエールと受け取ってもいいかと思います。

「無駄な工事年末」、コロナ禍で自粛の最中も方々で年度末工事やってましたね。
もちろん必要なものも多いのでしょうが、いわゆる「予算消化」「官民癒着」の匂いも漂う。
「持続化給付金」のドタバタにも、それを感じます。

あとこれは小ゑん師匠の意図かどうか、私が勝手に類推しているだけですが。

投句の際のテクニックで、
「同じような趣向で出来のいいのと、ちょっと落ちるのをわざと一緒に出す。 それで、いい方をぐっと引き立たせる
やり方があると、小ゑん師匠から教わりました。

「人生走ろうダメ元」 「無駄な工事年末」

並べてみると前者の音がきれいに合っているのに対し、後者は「ねんまつ」と「さねあつ」の地口がちょっと微妙

その176番があるから、地巻の中で104番が光って見えた…。
というのは、私の考え過ぎでしょうか。


☆天の位
キキ ぐずぐずしてりゃすぐ風立ちぬ
172 待つな稽古 (松田聖子)

これは噺家がもっと選ぶかと思ったのですが、意外と入りませんでしたね。
抜きたいけれど、耳に痛いからあえてスルーしたとか。

コロナの影響で、3か月も高座から離れていたあの頃。
仲間もみんなそう言ってましたが、 「こういう時こそ、稽古」 と思っても、なかなか実践できないもの。

いつどこでお客さんにこの噺聴いてもらうから、そのために! という目標がないと、モチベーション上がらないんですよね。

落語会再開の目途がたったら、それから稽古したって間に合うさ。
今まで芸人やってきた、貯金が身体に沁みついてるからね。
ところが、ぎっちょんちょん。

30年の芸の蓄積なんて、3か月で贔屓のプロ野球チームの貯金のようにはかなく消し飛ぶことを実感。
口先でぼそぼそ喋っているだけでは、どんどん声が小さく間は悪くなっていきます。

もっと早い段階に、自分で自分を鼓舞しておくべきだった。
本息で稽古をしておかないといけなかったなという自戒を込めて、天に抜かせていただきました。

おっと、同世代ながら変わらず輝き続ける。
松田聖子さんへのリスペクトも、忘れずに。



☆雲隠し
キキ 馴染みの店に呼んだ踊り子
33 いつもの奥に (出雲のお国)

これも、仲間の句でしたね。
この名前を題材にした句は今回ほかになかったので、思いついた時点でアドバンテージありかと。

雲隠しで採ってますけど「踊り子」自体はいかがわしいそれではなく、たとえば松竹歌劇団(古いね)の新人さん…みたいに私はイメージしました。

最後のラインダンスでも、まだまだ最後列の端っこ。
先輩たちの陰に隠れながら、一生懸命踊る新米ダンサー
その姿に目をつけた、青田刈りの紳士。

SKDマネージャーに鼻薬をきかせて、当人を馴染みの小料理屋の奥座敷に呼び出して…。
というシチュエーションで、色っぽい方へ持っていった結果の雲隠し。

はい、だらだらと感想綴っただけで恐縮ですが…。
ここまでが 『第3回言の葉落語会』地口附
番頭からのコメント。

同音折句附けは、また回をあらためて。


お開きまでお付き合いいただきまして、まことにありがとうございます。
ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝

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