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加齢から来るもの忘れ、脳トレにして楽しんじゃおう! [日々雑感]

崇徳院出だしは.jpg

百人一首の札を手に、考え込む黒猫こまち。

夢の中で噺を忘れる

人間、疲れたりストレスが溜まると寝ていて悪い夢を見やすいですよね。
筆者も連日の熱帯夜で身体が少し参っていたのでしょう、今朝がた仕事がらみの悪夢を体験。
それも噺家にとって一番怖い、高座でしくじる夢。

夢のシチュエーションは、夏の屋外納涼演芸会。
渓流の中に櫓を組みそこでさまざまな演芸が行われるという設定です。納涼演芸会.jpg

あまりの暑さに(こんな会場が合ったら涼しいだろうな)という願望が潜在意識の中に産まれ、それが形になって現れたのでしょうか。
現実ではこんな会場あるわけないですが、そこは夢ですから。こちらも(着物が傷まないかな)といった心配をするでもなく、川のせせらぎに耳を傾けながら舞台袖で出番を待っていました。

やがて前の演者の高座が終わり、私の出囃子がなり始めます。するとそこへ前座がやって来て、「扇治師匠のネタは『崇徳院』になりました」と言うではありませんか。

なんでもこの演芸会ではあらかじめいくつかの演目をピックアップしておき、それをお客様からのリクエストで誰がどの噺をやるか決める趣向なのだそうです。
私は事前にそんなこと聞かされておらず寝耳に水(実際に寝ている)ですが、そこはやはり夢の世界。「あっそうなの、久しぶりの噺だけどまぁ思い出しながらなんとかできんだろ」あっさり『崇徳院」をやる気になり、「ついちゃ噺に出てくるあの歌は、~だったよね」と何気なく前座に確認しました。



~落語『崇徳院』あらすじ~

花見時分の上野で知り合ったお嬢様に一目惚れの若旦那。お互い名前も身分も明かさずに別れてから、若旦那はお嬢様への恋煩いで寝ついてしまいこのままでは命に関わるかもしれない。

見舞いに訪れ事情を聞いた出入りの職人熊五郎が「じゃあアッシがすぐそのお嬢さんとやらを見つけてここへ連れてきてあげましょう」と請け合い、若旦那は大喜び。しかし相手を探す手がかりになるのは、別れ際にお嬢様が若旦那に渡した和歌の上の句が書かれた短冊一枚だけ。

「倅の命が尽きる前に、草の根を分けてもその娘さんを探し出すように」と大旦那から言いつけられた熊さんの、見当外れな苦労が始まる…。



二人の恋の橋渡しになる短冊に書かれているのは、百人一首に収められた崇徳院の歌(上の句のみ)。それを夢の中の私は度忘れしてしまったのです。

以下、出番直前の私と前座との会話。
扇治「あの上の句って、”七重八重花は咲けども山伏の”だよな」
前座「いえ師匠、それは『道灌』に出て来る歌ですよ」
扇治「おっといけね、じゃあ”ちはやふる神代もきかず竜田川”だったかな」
前座「それも別の噺のです」
扇治「ホントはなんだっけ?」
前座「アタシは修業中の身で『崇徳院』なんて大ネタやらないから知りません」
扇治「ええーっ、そこをなんとか」

こんなやり取りをしている間にも出囃子が鳴り続け、次の出演者がなかなか出て来ないのでお客席はザワザワ。
(春限定とはいえ師匠直伝で何度もやってる噺なんだから、忘れるわけないんだけどなー、オレどうしちゃったんだろう)焦れば焦るほど歌は思い出せず、出番は刻々と迫ってくる…。

というところで、ハッと目が覚めました。

リアルど忘れに
寝ぼけ頭で対応

ああ、夢だったのか。

ホントの高座でなくて良かったけど、それにしても怖かったなぁ。まだ胸がドキドキしてるよ。
毎晩寝苦しいから疲れてるんだろうな、噺の中の文句忘れる夢見るなんて。今夜からはケチらないでエアコン点けて寝よう。
ところで夢でしくじった歌の文句ははこうだよな…と頭の中で考えてきたところで、またドッキリ。

目覚めているのに、この現実世界でも崇徳院の歌がスッと出て来ないのです

驚くアイコン.jpg

おそらくまだ半覚醒状態で、脳がちゃんと働いてないせいでしょう。
少し落ち着いて考えてみたら「割れても末に会わんとぞ思ふ」と下の句をまず思い出すことができました。 続いて「○○○○○岩にせかるる滝川の」と上の句もだいたい頭に浮かんできましたが、最初の五音がまだ出てこないまま。

う~ん、なかなか頭がスッキリしないなぁ。
今から二度寝して起きれば睡眠が足りて、こんなのすぐ思い出せるんだろうけど。この場で上五の言葉が出てこないのはもどかしいなー。 枕元にあるスマホの電源を入れて検索したり布団を出て書棚の落語関連本で調べるのも、自分の記憶力の衰えに屈するようでなんだか悔やしいし。

よしっ、ここはあえて寝ぼけた頭に鞭打って、寝たままで思い出してみよう。
そう決心すると布団の中で天井をにらみつつ、頭の中で崇徳院の歌最初の五音を探り始めます。



やり方は、漫画家・エッセイスト東海林さだお先生提唱の「ひらがな五十音順しらみつぶし」方式。任意のひらがな一文字を頭に置き、続けてもう一字を五十音順に組み合わせ、思い出したい言葉・固有名詞を探そうというもの。

たとえばある俳優さんの名前が急に気になったんだけど度忘れしちゃって出てこないなんてのを思い出すには、まず「あ」を頭にして「あい」「あう」「あえ」「あお」「あか」…といった具合にかな五十音を繋げて正解を思いつくまで根気よく続ける。「あい…、あっ相葉くんか」とか、「あか…なーんだ、赤坂さんね」と記憶を手繰り寄せていく、経験上かなり成功率の高い方法。

ただ思い出したいのが女優さんの名前で「あしだまな」くらいだったらさほどの労力はいりませんが、「わくいえみ」だとちょっと手間がかかりますがね。

えへへアイコン.jpg

このやり方で記憶が蘇った時はけっこう感動的で、私はよく寝る前なんかにこれをやって楽しんでいます。



さぁ崇徳院の歌も、東海林先生メソッドでなんとか解明してみましょう。
今回は頭が寝ぼけての一時性度忘れなので、正直に「あ」からしらみつぶしにする必要はなさそうです。ある程度記憶に残っていることがらを元に推理してみましょう。その方がより頭の体操になりますしね。

考えるアイコン.jpg

落語『崇徳院』後半では、お嬢様を探す熊さんが歌の上の句を大きな声で読み上げながら町内を歩いて回ることに。初めて人前で声を上げる時には恥ずかしくて「〇っ、〇ッ」と頭の一音しか出てこない…という場面があり、私が自分で演じた時の記憶では比較的大きく口を開けて声を出した気がします。母音は「あ」「え」「お」のどれかだったような。

そして「岩にせかるる滝川の」にかかる言葉だから、確か水に関係がある語のはず。子音は、サ行だったんじゃないかな。
「さ」「せ」「そ」のどれかで始まる、川に縁のある言葉…「ささ(笹)「さわ(沢)」、「そう(草)」…

あっ、そうだ!
「せ(瀬)」だ、「瀬をはやみ」だ!
瀬をはやみ岩にせかるる滝川の割れても末に会わんとぞ思ふ

ふぅーっ、なんとか思い出すことができたぞ。

正解にたどり着くまでに要した時間は、5分くらいでしょうか。
普段頭がはっきりしている時だったらそもそも忘れること自体ないと思いますが、悪夢でうなされた直後の起き抜け状態で曖昧になっている記憶。それが無事発掘できた喜びは思わず「エウレカ!」と叫びたいほど。

あっそうか、そもそも夢で演芸会の舞台が渓流の中に設けられていたのも、「瀬をはやみ」の無意識化での伏線になっていたんだな!

大これに決まり.jpg

こういった記憶力減退は加齢とともにどんどん進んでいくものですが、(あぁ、俺もう歳だダメだ…)と落ち込むのではなく、今回の私のように「頭の体操をするためのいい材料が手に入った」と前向きにとらえて楽しんでみるのもまた一興。無理のない範囲でもの忘れを思い出そうと努力するのは、脳の活性化にも繋がるそうですしね。脳二態.jpg

皆様もぜひ、寝床の中などで「五十音順記憶サルベージ法」お試しください。

蔦飾り線.png

入船亭扇治・記

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