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「人間とは、ロボットとは」を問うSFミステリ金字塔『鋼鉄都市』 [お気に入り・おすすめ]


鋭い眼光で、容疑者を追い詰める猫型ロボット刑事。
ロボット刑事小.jpg
筆者には「ロボットの捜査官」というキーワードですぐタイトルが浮かぶSF作品が、二つあります。

日常生活の中にロボットが

一つは、1973年の国産特撮テレビ番組『ロボット刑事』
ロボットを使った犯罪を繰り返す悪の組織に人間とロボットの刑事が立ち向かう姿を描き、全26話が放送されました。
ロボット刑事を観る小.jpg

巨匠・石ノ森章太郎先生がデザイン・アイディア提供と連載漫画で関わったこの作品。
当時の超大ヒット作というわけではありませんが、まだ小学生だった筆者はけっこう気に入って、お小遣いでプラモデルや『変身サイボーグ1号』用変身セットなど買ったのを覚えています。

私が『ロボット刑事』に惹かれた一番の理由は、
叩き上げのベテラン&熱血青年の刑事コンビと、感情を持ったロボットがタッグを組んで捜査にあたる
という物語設定。

いかにも”人造人間”という外観のロボット「K(ケー)」が、金属のボディに赤いブレザー・黄色いハンチング姿で相棒のベテラン刑事宅の居間で正座している場面は、妙にリアルでした。
そういうところが小学校中学年にさしかかっていた私には、「絵空事だけではない、斬新な作品」として印象に残ったのかもしれません。

SF界の巨匠
渾身のミステリ!

そしてもう一つの作品は、アイザック・アシモフの小説『鋼鉄都市』
1954年刊行以来「SFミステリの金字塔」として、同ジャンルの作品の頂点に立ち続ける名作。
私は児童向け翻訳で読んで以来の大ファン。
鋼鉄都市あかね書房小.jpg

前項の『ロボット刑事』も、おそらくこの作品から影響を受けたのではないでしょうか。



『鋼鉄都市』あらすじ

 80億人を超す人類が世界各地に巨大なドームで覆われた閉鎖都市「シティ」を築き、与えられた最低限の居住空間の中で暮らす未来の地球。

自らが労働力として造り出したロボットにより多くの人が職を追われ貧困にあえぎ、経済的・文化的に疲弊しきっている地球人たち。
その一方で歴史の早い段階で宇宙に移民した者たちの子孫は、開拓した星の広大な土地・資源と優秀なロボットを活用し、「宇宙人(スペーサー)」として地球人の優位に立つ存在になっていた。

その宇宙人たちの地球上居住区「宇宙市(スペースタウン)」で、殺人事件が勃発。
被害者である宇宙人の高名なロボット社会学者殺害当時宇宙市に滞在していた関係者すべてを捜査・精神探査を行った結果、「殺人を犯すことができた者は一人もいない」ことが判明。

人間および自身の生命と安全を尊重する「ロボット工学三原則」をプログラミングされている宇宙市内のロボットも、もちろん人を手にかけることはあり得ない。
かといって外部犯の仕業と考えるには、「ある問題」が障壁となる。

地球人と宇宙人との政治問題にも発展しかねない殺人事件の捜査を命じられたのは、2000万人以上が住む世界最大のシティ・ニューヨークの刑事イライジャ・ベイリ。そして彼のパートナーとして宇宙人側が送り込んできた人間そっくりのロボット、R・ダニール・オリヴォー。

宇宙人とロボット排斥運動の機運が高まり、世情不安定なシティ。
その中で自らもロボットへの強い反感を抱きながら、当のロボットと協力せざるを得ないベイリ。
度重なる捜査妨害や周囲で起こる様々な突発事件に一進一退させられながらも、地球の「しがないC-5級刑事」は粘り強く少しずつ真相へと迫っていく…。

現代SFにも
繋がる物語設定

アシモフが本作以前の『ファウンデーション』初期三部作などでも物語設定として使っている、「疲弊・荒廃しきった地球文明」と「巨大な経済・軍事力を持つ宇宙人文明」の対立。
宇宙と地球小.jpg
この構図は、世界の後発SF作品多くに受け継がれていくことに。
「優秀なスペーシアン(宇宙産まれ)と、劣等アーシアン(地球産まれ)の差別が存在する社会」という形で、2023年時点でシリーズ最新作である『機動戦士ガンダム 水星の魔女』にも描かれています。

今流行の
あのジャンルも先取り!

『鋼鉄都市』の設定で私が個人的に(うまいなぁ)と思うのは、シティと人間の関係性。
世界はドーム小.jpg

各シティはシールドで覆われた通路で繋がっておりことに宇宙市の正規ゲートでは出入りが厳重に監視されていますが、シティ文明確立以前に使われて今でも閉鎖されていない出入り口がいくつもあり、実はドームは完全な閉鎖空間ではなく外部に向かって開かれてはいるのです。
その出入り口を使ってほかのシティから外部犯がいったん野外に出て宇宙市に侵入、そして脱出することはできそうに思えるのですが…。

しかし地表での作業はロボットに任せ何世代にも渡りドーム内にこもり続け、人類として極端な「広場恐怖症」に罹ってしまった地球人にとって、「ニューヨークから地表を1マイルも這って宇宙市へ行く」ことは、理論上は可能でも実際には心理的・生理的に不可能。

この事実が、宇宙市殺人事件の不可解さをより深めています。

考えるアイコン.jpg

こういった「物語の中だけで成立する特別な不可能状況」は、『屍人荘の殺人』などわが国で最近流行の「特殊設定ミステリ」の先駆けとも言えるのではないでしょうか。

特設ミステリは決まれば強い印象を読者に与えますが、前提となる約束ごとをきっちり構築しておかないと、物語としての説得力がなくなってしまう。
そこは「執筆中毒」を自称するほど筆力のあるアシモフのこと。成立の経緯や内部で暮らす人の様子を丁寧に描写することにより、「シティに依存し縛られている地球人類」の姿を、現実感をもってページから立ち上がらせています。

冒頭から堂々と!

「作中に張り巡らされた伏線が、終盤ではきれいに回収される」。
ミステリの醍醐味の一つ。
伏線回収小.jpg

後に『黒後家蜘蛛の会』連作集でミステリ愛を存分に発揮する作者、『鋼鉄都市』で早くも作中隅々までミステリ的配慮を行き渡らせています。

試行錯誤の末真相にたどり着いたベイリが犯人を追い詰める場面では、さりげない描写に隠されていた手がかりがこちらの頭の中で「パタパタっ」と音がするように、推理の各ピースとしてあるべきところへ収まっていく快感を得られる。

そしてそんな伏線のうちの一つは、なんと警視総監とベイリが会話する作品冒頭から堂々と開陳されているのです!
私が初めて読んだあかね書房版ではこの場面が挿絵になっており、読了後すぐ巻頭に戻ってイラストを見直し「ほんとだ、こんなとこに手がかりがあったんだ!」と子ども心にも感心したもの。

驚くアイコン.jpg

SFとミステリの融合作品はあまたある中で、先駆けの一作にしてエヴァーグリーンである『鋼鉄都市』。
福島正実訳のハヤカワ文庫版は、私が初版で購入した1979年から変わらぬ装丁で、今でも新刊で容易に手にすることができます。

この名作を堪能したあとは、「ロボットが殺人の容疑者?」という謎を扱った続編『はだかの太陽』が待っていますし。
さらにはアシモフもう一つの作品世界「宇宙帝国」に繋がる『夜明けのロボット』『ロボットと帝国』へと、ベイリとR・ダニールの物語は壮大に発展していくのです。

SF・ミステリとしてだけでなく、未来を舞台に人間のあり方も読者に問う意欲作『鋼鉄都市』。
鋼鉄都市おすすめ小.jpg

これからお読みになる方が本当に羨ましいくらい私が大好きな作品、自信をもってお勧めする次第です。

蔦飾り線.png

お付き合いいただきありがとうございます。ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝

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