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飛鳥時代の昔から変わらない、人とギャンブルの関わり [日々雑感]


カジノのルーレット台に向かい、真剣な表情で玉の行方を見守る黒猫こまち。
8を狙うこまち.jpg
狙うは数字の一点張り、
”末広がりの八”。

日本最古の
ギャンブルと禁止令

『日本書紀』に「天武天皇が貴族たちと盤双六の賭けをした」との記載があり、これがわが国最初のギャンブルの実例であるとされています。
時に西暦685年9月。
まだ平城京も開かれていない、飛鳥時代のこと。

天武天皇と位の高い貴族たちが遊んだ「盤双六」とは、後に”和風バックギャモン”とも称された二人対戦式のボードゲーム。
盤双六2.jpg
盤上に各黒白15個の駒を配し、対戦者が2個のサイコロを交互に振って目の数だけルールに従って駒を動かす。先に相手の陣に自分の駒を全て入れた方が勝ち。

後に流行する囲碁・将棋などよりサイコロの出目によるギャンブル性が強く、宮中では反物・檜扇などの景物を賭けての盤双六は大変な人気だったそうです。

節度をわきまえて遊んでいるうちはいいのですが、勝ち負け・損得の方ばかりに気がいってのめり込むのがギャンブルの怖さ。
「博戯(賭博)」としての盤双六熱は、やがて宮中から庶民の間にも広まっていきました。

「過ぎたる遊びは人心を惑わし国と民を荒廃させる」
との懸念から、賭け盤双六大好きだった天武天皇崩御後の西暦689年『禁断双六の令』が発布されます。

お触れを出した持統天皇は、
天武天皇の奥方。

「あたしゃ亭主で懲りてるからね。賭け双六なんて熱くなっちゃロクなことないんだから、やるもんじゃないよ!」

おそらくは潔癖な女帝であったであろう持統天皇。身近にギャンブル依存症の人がいて賭博の怖さを知っているからこそ、こういう禁令を出したのでしょうね。

二度目の禁令も
やはり女帝が発布!

ご亭主のギャンブル熱に手を焼かされたのは、持統天皇だけではありませんでした。
禁令をかいくぐり方々で行われる賭け双六に業を煮やしたもう一人の女帝・孝謙天皇も、759年に再度厳しい盤双六禁止のお触れを出しています。

この方の旦那さまは、やはり盤双六を好んだ帝である聖武天皇。
権力者である奥さんが、その死後に満を持して法を整備し発した禁令。
聖武天皇がお隠れになられた3年後という発布のタイミングには、生前の旦那の賭け事三昧を苦々しく思っていた孝謙天皇の心情が垣間見えるような気が。
孝謙天皇と持統天皇.jpg

「役人も農民も法を恐れず双六にうつつを抜かしている」
「子は親のいましめも聞かず、家業まで滅ぼしてしまう」
禁令を出すにあたって、孝謙天皇はこう嘆いてもいます。

貴族たちの雅な時代に発せられたこの言葉、現代にもそっくりそのまま通用する。
いかにギャンブルというものが、時代を超えて人々の心を魅了し続けているかということでしょう。

ブログ主
生涯一度だけの大博打

小心者の私は、人生半ば以上生きてきて未だ本格的なギャンブルというものをしたことがありません。
学生時代は寄席三昧で後半ほとんどキャンパスに行かなかったので、友だちはできず麻雀も覚えず。
噺家になってからは競馬好きだった師匠のお使いでよく馬券を買いに行ったものですが、自分でもやってみようとは微塵も想いませんでした。

そんな私が今までの生涯でただ一度だけ、大博打(自分としては)を打ったことがあります。



あれはまだ子どもたちが産まれる前、私たち夫婦が30代だった頃のこと。
飲み友だちご夫妻と一緒に、韓国へ辛い物を食べる旅に行きました。
本場の焼肉や冷麺に舌鼓打ちながら過ごす呑気ツアー、4泊5日の3日目あたりだったかな。その日の夕食場所へ向かう前に、連れのご夫妻が途中にあるソウル郊外の『パラダイスカジノ ウォーカーヒル』に寄ってみようと言い出しました。

その方たちも別にギャンブル好きというわけではなく、ソウルオリンピック後に大幅リニューアルオープンした外国人専用老舗カジノをちょっと覗いてみようという軽い気持ち。
どうせ店まで行く通り道だしちょっとしたアルコール飲料なら無料サービスがあるということなので、呑兵衛の私たち夫婦も夕食前の喉湿しと運試しで行こう行こうと大賛成。

最寄り駅から送迎シャトルバスで、ソウルの不夜城カジノを訪れます。
ウォーカーヒル玄関.jpg
弱小噺家が、生まれて初めて足を踏み入れたギャンブルの聖地。
分厚い絨毯が敷き詰められたフロアは向こうが見えないほど広く、きらびやかなシャンデリアのもと観光客たちのさんざめきやディーラーの声が響く独特の雰囲気。

一人の予算は日本円で3000円~5000円くらい・滞在するのは1時間弱で軽く遊ぼうと決め、めいめいチップを交換。
それぞれスロットマシンなどでカジノ気分を味わったあと、最後は全員一緒にルーレットで締めようと台の前に集まります。
ルーレットで勝負.jpg
韓国美人の女性ディーラーが手際よく仕切るルーレットの賭けは、投げ入れられた玉の回る音を聞いたりチップが移動するのを見ているだけでも胸躍るもの。

肝心の賭けの方は最初から元手の少ない遊びですから、それぞれ好きなように赤か黒か・奇数か偶数かなど倍率の低いもの中心に賭け続けているうちほかの3人は手持ちのチップを30分ほどで使い切りました。

ここで今までギャンブルとは無縁だった私だけが大勝ちしないかわりに大負けもせず、まだ2000円ほど持って賭けに生き残っていたというのは人生の皮肉でしょうか。

あまり連れを待たせてもいけませんしこちらもお腹が空いてきましたから、ここが切り上げ時と勝負に出ることに。
手持ちのチップを半分に分け、1000円を赤黒・もう1000円を数字一つに賭けてみたのです。

その時私が選んだ数字は、冒頭イラストのこまちと同じ「8=八」。
日本人にとっておめでたいこの数は、まだ一度も私たちがルーレットに参加している台では出ていませんでした。

数学的に言えばルーレットで出る数は毎回38通りが同じ確率のはずですが、人間の心情的には(今まで出てないんだから、そろそろ来るんじゃないか)と根拠なき期待を抱きがちなもの。
私もそんな気持ちで、
8に張ってみたのです。

連れの奥さんから「やっぱり噺家さんて、末広がりって縁起担ぐんだねー」と冷やかされ、私もほとんど期待はしていませんでしたが…。

運命というのは、本当に不思議なものです。
カラカラカラカラーッ。
小気味いい音を立てて、回るルーレットの中を転がる小さな玉。
やがて盤の回転が止まりカラリッ・コトンと玉が収まった升目に刻まれていたのは…。
ルーレットで8.gif
そう、「8」でした。

カジノルールのルーレットでは最高配当の36倍大当たりを、ギャンブル初心者の私が1回限りの一点張りで射止めたのです。
女房と友人夫妻・一緒に台を囲んでいるほかの観光客からの喝采の中、美人ディーラーがうっすら笑みを浮かべながら大量のチップを私の方へスーッと運んでくれました。

震える手でそれをすくい上げると、交換所に行って即換金。
元手1000円が、3万6000円相当のウォンに化けました。
ギャンブル慣れした人には子どもの小遣い程度の額でしょうが、小市民の私には初めて賭け事で手にした夢のような大金。

驚くアイコン.jpg

まさにビキナーズラックで振って湧いたこの儲け。
あぶく銭はひと晩で潔く使っちゃえと、玄関のベルボーイにチップを弾んで呼んでもらったタクシーで夕食に予約してある店に横付け。
もちろん普通は割り勘にする飲食代も、私の方で出させてもらいました。

帰りも奮発したタクシー代でちょうどルーレットの儲けを使い切り、ホテルのベッドに入ってからも。
ルーレットが止まった瞬間に正面の電光掲示板に点った「8」の輝きと、ディーラーの"This number is Eight!"とコールする澄んだ声が胸に蘇ってなかなか寝つかれなかったものです。

人生は
日々賭けの積み重ね

人によっては初めての大当たりでギャンブルの魅力に目覚め、深入りしていく方も多いのでしょうが…。

いい悪いではなく生来賭け事が向いていないであろう私は、ウォーカーヒルでの一夜以来本格的なギャンブルをしたことがないまま今日まで過ごしてきました。
せいぜい子どもたちが幼い頃せがまれて、スクラッチくじやゲームセンターの景品獲りをやったくらい。

「そりゃ家庭顧みないで借金こさえるほどのめり込んじゃいけないけど、まるで賭け事をやらないのも人間として面白くないんじゃないの?」
そうお思いになる方も、いらっしゃるかもしれませんが…。

小市民の私としては、生涯の職業を不安定な「噺家」という商売に決めたことが人生最大のギャンブルだと思っています。
そしてその勝ち負けは、私が寿命を全うするまでまだわからない。
いや生前売れなくてもあの世に行ってから再評価される芸人もいますから、本当に先の見えない賭けを続けている最中ということになるでしょう。



毎日いただく食事の当たりはずれや、駅で自分に都合のいい電車をタイミングよくつかまえることができるかとか。
考えようによっては、私たちの暮らしは日々いろんな賭けを積み重ねていくものなのかもしれません。

縁あって同居猫をうちに迎えたのも、わが家としては大きな賭けと言えるでしょうし。
ごはんも賭けだ.jpg
こまちが少しでも幸せでいてくれるように。
博才ゼロの私でも、この賭けには全力で勝ちに行くつもりです。

蔦飾り線.png

お開きまでお付き合いいただきまして、まことにありがとうございます。
またのご訪問、お待ち申し上げております。
入船亭扇治拝

タグ:猫 落語
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