現代にも生きる夏の道具を扱った、味わい深い落語『麻のれん』 [落語情報]
加賀の千代女の、有名な句ですが…。
黒猫こまちが蚊帳に入ったら、「遊びつ」という一語も加わりそう。
貴人用高級品から
庶民の虫よけグッズに
庶民の虫よけグッズに
蚊帳が唐からわが国に伝来したのは、平安時代。
時の天皇が播磨へ行幸の折り、賀野の里の寝所で絹織物の天幕を張ってお休みになられたのが始まりだそうです。
時の天皇が播磨へ行幸の折り、賀野の里の寝所で絹織物の天幕を張ってお休みになられたのが始まりだそうです。
それが貴族の間にも浸透し、宮中や館の寝所では半透明の幕を張り巡らした「御帳台」が使われるように。
団扇もそうなのですが、蚊帳も最初は虫よけがメインの用途ではなく貴人が顔や姿を隠すためのものでした。 日本に限らず王侯貴族など身分の高い人がお休みになる寝台には、こういう幕がつきものですよね。
団扇もそうなのですが、蚊帳も最初は虫よけがメインの用途ではなく貴人が顔や姿を隠すためのものでした。 日本に限らず王侯貴族など身分の高い人がお休みになる寝台には、こういう幕がつきものですよね。
それが時代とともに、風通しが良く虫の侵入を防ぐための簡易テントへと用途が変化。
全国的に麻の価格が安定したことにより、庶民も気軽に買い求められるようになりました。
全国的に麻の価格が安定したことにより、庶民も気軽に買い求められるようになりました。
喜多川歌麿の有名な浮世絵『夕立に蚊帳』に描かれている、麻生地を萌黄色に染めて紅色の縁を付けた蚊帳。
こちらは慶長年間に(1596~1614)に二代目西川甚五郎という人が考案したもので、蚊帳の代名詞と言われるほどのヒット商品。
と川柳に詠まれるほど蚊が多かった江戸では特に、蚊帳は就寝時の虫よけとしてなくてはならないもの。
当時一番の蚊帳の産地は、近江。
江戸市中では毎年夏前になると、近江商家江戸店の手代と荷物持ち兼売り声担当が必ず二人ひと組で蚊帳を売って歩く姿が見られました。
「蚊帳やー蚊帳、萌黄のー蚊帳」と独特の節まわしの売り声を出さなくてはいけないので、荷物持ちは体力だけでなく美声の持ち主でないと務まらなかったとか。
現代にも生きる
さまざまな蚊帳
さまざまな蚊帳
蚊帳は今でも、私たちの暮らしの中に生きています。
ネットで検索すると目に留まる、通販などで売られている蚊帳。
素材はポリエステルから麻・大きさも一人用から家族四人が一度に入れるものまで千差万別。
壁や天井から吊るタイプではなく、自立する蚊帳も多く販売されています。
こういう折り畳みタイプの元祖は、江戸時代に使われていた「幌蚊帳」というもの。
喜多川歌麿『幌蚊帳』。
こまちさん、絵に描かれたご婦人は赤ちゃんにおっぱいあげてる最中なんだから。CIAOちゅ~る催促して、手を煩わせちゃいけませんよ。
赤ちゃんと言えば、小さいお子さん用の蚊帳もたくさん取り扱いがあります。こちらはベビーベッドに被せるタイプでなく、床に直置きする蚊帳。
なんだか「はえ帳(食卓カバー)」の大きいのみたい。
味わい深い
落語『麻のれん』
落語『麻のれん』
古典落語の中には蚊帳が出てくる演目がいくつかありますが、その代表格の一つが『麻のれん』。
「六畳の間に吊った、真新しい上物の麻の蚊帳」の中にいながら、杢市はなぜ蚊の波状攻撃を受けることになったのか?
その訳は『麻のれん』という題名とこんなイラストから、勘のいい方は看破できるかも。
この噺をお聴きになっていない方のために、あえて真相はふせておきます。
「蚊帳の中という安全地帯に、どうやって蚊は侵入したのか」という謎に対する答えは、ちょっとミステリでいう「物理トリック」の趣きが感じられたりもします。
さらに旦那が杢市に「あること」を言わなかったがためにこの騒動が起きていることから、「叙述」「心理」トリックの要素も(ちょっとこじつけっぽいですが)。
ミステリ好きな私ですから、ついそっちの方へ話を持っていきましたが…。
『麻のれん』という噺は「夏の演目」「目の不自由な方を扱った噺」としても、とても味わい深いものだと私は思います。
『麻のれん』という噺は「夏の演目」「目の不自由な方を扱った噺」としても、とても味わい深いものだと私は思います。
生前この噺を得意にしていた師匠・扇橋の談。
最近の寄席などでも、夏場にはけっこう高座にかけられることも多い『麻のれん』。機会があったら、聴いてみてください。
お開きまでお付き合いいただきまして、まことにありがとうございます。
ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝
ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝
タグ:落語 猫
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