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おいしくて、大きくて、人情に厚い!浅草の老舗そば店『尾張屋』さん、久々の訪問。 [日々雑感]


「こっちこっち!」

地下鉄の出口から、脱兎のごとく(猫ですが)地上へ駆けあがったこまち。

浅草雷門脇で創業160年・おそばの名店『尾張屋』さんの前に立って、さかんに手招き。

尾張屋さん訪問.jpg


名物
「器からはみ出すえび天」

尾張屋さんの売りと言えば、

☆国産高級材料で打ち上げる、腰が強く香り高いおそば。

☆本鰹節を贅沢に使った、最後の一滴まで飲み干したいつゆ。

そして
☆独自仕入れのごま油でカリっと揚げる、ボリュームたっぷりのえび天。


中でもえび天の大きさには、こまちもびっくり・大喜び。
全身で上天ぷらそばを満喫しています。

天ぷらそば満喫.jpg


※元画像は、尾張屋さんの公式ホームページからお借りしました。ありがとうございます。


老舗の名店で
リアル『そば清』

いつも清潔な店内、
浅草らしく気さくで
親身な接客。

寄席に出ている芸人たちは、10日間の興行のうち何度も足を運ぶのが常。私の師匠・入船亭扇橋も、尾張屋さんの大ファンでした。

その老舗のおそば屋さんの、二階小上がりで。2001年秋・私どもの真打披露の際、今でも忘れない打ち上げをやったことがあります。



10人の新真打が一日ずつ担当する披露興行、その日のトリは三遊亭白鳥師でした。

口上に並んでもらった落語協会幹部連、手伝いに来てくれた二ツ目。楽屋の前座・お囃子さんに、私たち身体が空いている新真打も参加。

総勢20名くらいで、尾張屋さんの二階を半分くらい埋めて。夕方からの大宴会が始まります。

入門16年目で、いよいよ迎える噺家として第二のスタートライン。一生に一回晴れの日ですから、白鳥師も大盤振る舞い。

ビールや日本酒がどんどん出て、皆いい心持ちになった頃。 締めにおそばを頼む段になって、話の流れで「大のせ」の話題になりました。

「のせる」=楽屋の符丁で「食事をする」こと。
「大のせ」は「大食漢」の意。


白鳥師の弟弟子と、柳家一門のそれぞれ大のせ自慢の二ツ目どうしが。
「私、もりそば2枚と天丼いただきます」
「じゃあこっちはもり5枚、いいですか!」
なんて注文しているのを聞いて、洒落っ気のある誰かが。

「どっちがホントの大のせか、
『そば清』みたいに
賭けしてみない?」

言い出しました。

落語『そば清』
別題『そばの羽織』。

そば屋にふらりと現れては、気持ちよくもりを5~10枚たいらげていく清兵衛。

ある日町内の若い連中から、50枚食べられたら1両という賭けを持ちかけられる。
いち時にそんなにたくさんやっつけたことはない清兵衛、「ちょっと考えさせてもらいたい」とその場は答えを保留。

商用で出かけた信州からの帰り道、大きなうわばみが猟師を飲み込む現場に遭遇。
お腹がふくれて苦しむ大蛇がなめた、不思議な赤い草

それを見た清兵衛の脳裏に、そば賭けの勝算が閃いて…。

清兵衛がつるつるとそばをたいらげていく様子、シュールな考え落ちのラストなど。見どころ聴きどころの多い演目です。


その噺を地でいく、三遊亭と柳家の「大のせ一門対決」をやろうという趣向。

披露目のお酒で気が大きくなっている私たちは、「面白れぇじゃん、ぜひやろう!」とすぐ意見がまとまります。



同席の桂文楽師匠がまた、
そういう遊びが大好き。
文楽師匠_e.jpg

※撮影:横井洋司氏
落語協会ホームページより転載。


「いいねいいねー、若い人はそれっくらい元気でなくちゃ。そば代は俺がもつから、安心してやんな」


幹部のお墨付きが出て、大食い二ツ目ふたりの対決スタート。

いやあ、その食べることのせること!

次々と運ばれてくるもりそばのせいろが、小気味よく空になっていきます。

おそばつるつる.gif


「お代は、けっこうです」
老舗店の人情に、感激!

さすがに、腹も身の内。身体に障らない範囲内でお開きにしましたが、それでも二人でもり30枚近くやっつけたのでは。

「いやー、久しぶりでこういうの見て面白かった。どっちもご苦労さん!」

大量のそばで膨れた腹をさする二ツ目たちに、ご祝儀を渡す文楽師匠。

財布を出したついでに、賭けで出たそば代の分だけの払いは済ませておいてやろうと。

師匠がトントーンと下へ降りて、レジで「いくら?」聞こうとしたら出ていらしたのが、尾張屋の女将さん。

「今日は店の方も、楽しませてもらいましたんで。
おそばのお代は新しい真打さん方への、うちからのご祝儀にさせてください」


文楽師匠が、あの”まろやか”な四角い顏(※懐かしの『ペヤングソース焼きそば』CMより)で。

文楽師匠まろやか.jpg

「いやこちらが食べたものだから」といくら言っても、お店の方は頑として受け取ろうとなさらない。


「そういうこったから、お前たちからも女将さんにちゃんと礼を言っときなよ」

文楽師匠から話を聞き、急いで下へ降りた私たち。


「ほかのお客さんもいらっしゃるところで、お騒がせしちゃって…。
ご迷惑おかけしたうえにご馳走になって、恐れ入りますありがとうございます!」


平身低頭する新真打一同に向かって、女将さん。

「いえいえ、ほんとによろしいんですよ。いっぺんにあんなにたくさん、おそばを茹でたのって。昔の大晦日、年越しそばのお客様で大わらわだった時以来。

その頃を思い出させてもらって、私も楽しかったし。

お二階にいたお客様方も、皆さんの食べっぷりご覧になって。
”あんまりうまそうだから、自分たちも食べたくなってきた”っていろいろ注文してくれましたから。

店の売り上げに貢献していただいて、こちらこそありがとうございます。

ご昇進、おめでとう!


ニコニコ笑ってらした姿、記事を書きながらまぶたの奥に蘇ってきました。


今も健在、
老舗の細やかな接客

今回尾張屋さんのことを取り上げたきっかけは、ご縁ある方から頼まれたネット配信用動画のナレーション。

コロナ禍で、お花見もなかなかままならないご時世。
屋形船に乗って隅田川を下る映像で、浅草界隈の春風景を楽しんでいただこうという企画。

長命寺の桜餅・合羽橋の箸問屋さんなどを巡る道中、老舗のおそば屋さんにも立ち寄るという台本になっています。

取材先のお店はまだ決まっていなかったので、「ちょうど浅草の寄席に出てますから、尾張屋さんに聞いてみましょうか?」
私からの提案に、企画者の方からは「ぜひお願いします」とのお返事。

わかりましたとさっそく、開店前のお店に電話でアポをとってから伺うことになったのですが…。



内心、ちょっと不安でもありました。
私はこの数年、尾張屋さんで食事をしていません。
それがいきなり、「こうこうだから取材させてください」「ハイどうぞ」といくかどうか…。

「ここんとこ、うちでもりの1枚も食べてない身で。よくそんな図々しいこと頼みに来られたもんだ。
取材なんて駄目だダメだ、さっさと帰んな!」

塩まかれて門前払い…なんてことに、ならないとは限らない。

気の小さい私は、ドキドキしながら尾張屋さんの糊のきいたのれんをくぐります…。



結果は、
こちらのとり越し苦労。

応対してくださった六代目若旦那・田中秀典氏(若くてイケメン)は、快く取材OKのお返事をくださいました!
それも、こちらの予想を上回る好条件で。

「店の宣伝になることですから」若旦那はおっしゃってましたが、取材自体拒否という飲食店さんも少なくない中。

足が遠のいていた弱小噺家でも、ちゃんとお客として接してくださる。
浅草で長くご商売を続ける老舗の、あたたかく細やかな接客。
それは昔と、まるで変わっていませんでした。


あのそば賭け騒動、
お店の方の記憶にも

取材希望先からの色よい返事に、ほっとひと安心したところで。

「2001年、私たちの真打披露でこんなことが…」 そば大のせ対決の一件のことを、私が持ち出すと。

若旦那は

「私は当時まだ店におりませんでしたが、両親から話は何度か聞いています」


そして同席の高田店長さん、

「覚えてますおぼえてます!
私あの時厨房に入ってまして、釜前がもう戦場みたいだったのは今でも忘れませんよ。

本店だけではそばが足んなくなって、近くの支店から取り寄せたり…。下で召し上がったお客さんが「なんだなんだ」って二階へ見物に上がって来たり。

芸人さんたちがああやって大勢で楽しくやってくださると、店に活気が出て楽しかったですよ」


細かいとこまで、覚えていてくれました!

三密ご法度の今では、
考えられない飲食風景。

それをお店の方も「迷惑」ではなく、「いい想い出」として忘れないでいてくださる。



女将さんの人情に触れ、お店の方の記憶にも留めていただいた。

そう考えるとあのバカ騒ぎも、今よりはのんびりしていた時代の1エピソードとして。

悪いものではなかったのかなと、あらためて思い返し記事にした次第です。

今度天気のいい日に、尾張屋さんに行ってお昼食べて。浅草界隈ぶらぶらしてみよう。

新真打と協会幹部の
懐かしい記念撮影


おしまいに、浅草つながりの懐かしい画像を1枚。

演芸ホールさんに、2001年新真打一同で挨拶で伺った時の写真です。

浅草演芸ホール挨拶まわり.jpg


右手前から、
林家木久扇・金原亭伯楽
古今亭円菊・先代橘家文蔵
先代三遊亭圓歌・入船亭扇橋
柳家一琴・林家きく姫
扇治・当代橘家文蔵
三遊亭萬窓・三遊亭白鳥
金原亭馬遊・古今亭駿菊
三遊亭遊雀・柳家禽太夫
演芸ホール松倉社長

挨拶まわり名前入り.jpg


みんな若くて、
痩せてて、
髪の毛が豊富!

私自身にとっても、お金はなくとも希望にあふれていた良き時代。

あの頃の気持ちを思い出して、
また芸に精進しようと。

初心に立ち返らせてくれた、
尾張屋さん再訪でした。


桜罫線淡い760.png

ご精読、
まことに ありがとうございます。
ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治

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