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言葉は生き物、だからこそ気をつけたい「普段使いの日本語」 [日々雑感]

「ありがとうございます」と
「ありがとうございました」。

同じようでいて、噺家視点で見ると実は大きな違いがあったり。

日本語ってその気になって考え出すと、けっこう深くて微妙。



さてこちらは、東武東上線成増駅で、表示板を眺めながら考え込む黒猫こまち。

成増駅で考える.jpg

早く乗らないと、
電車の扉閉まっちゃうよ


”日本語の乱れ”の
代表格の一つ”「なります」

こまちの頭を悩ませていた、ひらがな表記の「なります」

駅名ではなく、「~になります」という文脈で使われる方の言葉。 一時は”日本語の乱れ”の一つとして、盛んに取り上げられたものです。

ファミリーレストランや大型チェーン居酒屋の店員さんが、注文の品をテーブルまで運んできて。
「お待たせしました、
 ご注文の○○になります」

お客さんにこう言うのが、マニュアル化されていた時期。ありましたよね。

これに識者文化人、言葉づかいに敏感な年配の方などが大苦言を。

なんだ、「なりました」ってのは。その料理はここへ運んでくる前、厨房の中じゃ違うものだったのか!

なりますにクレームつける.jpg


社会現象になるくらい、方々で議論された末。”どう考えても文法的に正しくない”という結論に達し、今ではあまり耳にすることはなくなりました。


変わっていく言葉、
噺家としての付き合い方

本来、”危ない”という意味しかなかった「ヤバい」

若い世代の間で、”カッコいい・イカしてる”の意で使われるようになり。

今では『広辞苑』などにもその用例が記載され、一般に認められた使い方になっています。

”言葉は生き物、
時代に応じて
用法や意味が変化する”
ことを表す、代表的な例の一つ。

ほかにもカタカナ言葉の多様など、昔に比べ大きく変わった私たちの使う言葉。

それを一概にすべて「日本語の乱れ」として、ひと括りに否定するつもりはもちろんありません。

ただ”言葉を商って稼がせていただいている噺家”としては、そんな変わりゆく言葉たちとの付き合い方。それなりに、気をつかっているつもり。

響きの美しい言葉や、微妙な言い回し。そういったものは、できるだけ大事に残していく・注意して使っていくように心がけたいと思っています。


たとえば、お世話になった方へのお礼の言葉。
「ありがとうございました」と過去形で言うのは、
”江戸っ子としちゃぁ、
間違いだよ”。
先代・桂文治師匠から教わりました。

上方よりも、「掛け売り」=現代のクレジット決済が盛んだった江戸の街。

呉服屋さんとか酒屋さんなどへの、買った品物の代金支払い。全額いっぺんに納めず、何か月かに分けて支払うのが当たり前でした。

☆買った方は、いち時に出ていくお金が軽減されて助かる。

☆売った側も勘定がすっかり済まないうちは、そのお客さんはずっと自分のところのお得意でいてくれるというメリットが。


両者WinWinで成り立っていた、江戸の経済。

その月の勘定をもらった商人は相手に、「どうも、ありがとうございます」=「来月以降も、よろしくご贔屓に」と頭を下げる。

「ございました」と言い切ると、縁が先に続かない。だからこれからもお世話になる相手には、「ございます」と言った方がいいんだよという大先輩からの教え。

私にとってはとても腑に落ちることだったので、今でも「ありがとうございます」と言うことが多いですね。


何気ない言葉づかい、
実は失礼にあたることも

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、増えた在宅時間。わが家でも、夕食は家族揃ってということが多いです。

女房や子どもたちと和やかに会話しながらの夕餉、楽しくてけっこうなものですが。

ついつい身内だけの気安さから、それと知らず「親しき中にも礼儀あり」に反する言葉を発してしまうことも。



その一つが、
「○○でいいや」。

本来この言い回しは、 「自分の第一希望がかなわない状況下、不本意ながら次善の選択をする」 際に使うもの。

「急に寒くなったけど、冬物まだクリーニングから帰ってこないから。もう一日、この薄手のコート着てってくれる?」

「ああ、わかった。じゃあ今日は、これいいや」

なんてやり取りなら、納得できます。

食事の場合でも、
目玉焼きには醤油至上主義.jpg

という方が、
海外で目玉焼き食べる時に。

その場に醤油がないので、
「じゃあ、ソースいいや」
妥協するのも、問題なし。

しかしわが家で先日、

「ほうじ茶と
 冷たい麦茶あるけど、
 どっちがいい?」

女房から聞かれた倅が

「う~ん、
 じゃほうじ茶いいや」

と答えるのを聞いて。 噺家の父としては、「細かいようだけど、それは違うだろ」と思いました。

与えられた選択肢から、 自分で決めたのだったら。

「僕は、ほうじ茶いい」
「ほうじ茶する」
「ほうじ茶所望する」


という返事をすべきでしょう。

このケースでの「で、いい」は、飲食を提供してくれる人への礼を失している。

おやつちょーだい台詞.jpg
あれでいいや台詞.jpg
お酒飲ませちゃうぞ台詞.jpg
あちゃー.jpg


家族だからとあえて小言めいたこと言わしてもらったのですが、倅も素直に聞いてくれてよかったです。


「○○で」が
有効なシチュエーションも

ところが場面によっては、「で」という助詞がとても有効な時が。

その筆頭が、
立ち食いそばでの注文。



お召し上がりになったことがない方のために解説すると、たいていの立ち食いそば屋さんは食券式。

入口にある券売機で事前に購入するのですが、経費削減のため「そば・うどん」共通のことが多い。
食券 .jpg

この券をカウンターに黙って置くと、奥の厨房から「そば・うどん、どっち?」と聞かれますので。

お客さんは「そばを」「うどんお願い」と、好きな方を申告する方式。



しかし私ども立ち食い慣れした庶民は、店の方にいちいち「そば・うどん」と尋ねる手間をかけさせません。

食券をピシリ!
カウンターへ置くと同時に、
「そばで」 と力強く宣言。


立ち食いそば注文.jpg

ここは「を」「が」では、ちょっと弱い。

「で」だからこそ、厨房の職人さんが「ヘイそばでね、了解!」とすぐ仕事にとりかかれる。

そこに産まれるお客さんと立ち食いそば屋さんとの、阿吽の呼吸。

今まで向こうから、「そば?うどん?」聞かれるまで待っていた方。ぜひこれからは「○○で!」と自己申告して、快適な立ち食いライフを経験なさってみてはいかがでしょう。


「相手の手間を省く」
ファストフードの達人

立ち食いそばだけではありません。牛丼やハンバーガーなどのファストフードを扱うお店は、極限まで人件費を削減して効率化を図っています。

そういうところを利用するのは、基本的に時間とお金を節約したい人たち。

お互いに余計な手間を省くのが、 この食事形式のお作法。



以前、マクドナルドでバイトしている人から聞いた話。

「もちろんお客さんなんだから、別にしなくていいんだけれど…。

こちらが聞く前に”店内か持ち帰りか”言ってくれると、とっても接客しやすかったりするんだよね。

ナゲットのソースなんかも、どれがいいのか何回も聞き直さなきゃいけない人がたまーにいて。

後ろのお客さんがイライラしてるの見ると、こっちも焦っちゃうから」


なるほど、「トントーンと注文事項を自己申告する」こと。

必須ではないけれど店の業務効率化につながり、頼む方も
「あの人、この店の通よ」
と周りから尊敬される(ような気がする)。



先ほどおやつをねだるのでしくじったこまち、名誉挽回で意気揚々と行きつけのファストフードショップへ向かいましたが。

果たして、トントーンとうまく行くのでしょうか?

完璧オーダー.jpg


蔦飾り線.png

お開きまで
お付き合いいただきまして、
まことにありがとうございます。
ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝

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