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寝坊な連中決死の早起き!噺家の正月風景 扇治独演会告知もあり! [落語情報]


宵っ張りで、
朝寝坊。

皆様噺家に、
そんなイメージをお持ちかと。

ところがどっこい、
じっくり噺家たちと
付き合ってみると…。

「やっぱりその通りだ」
実感することに。
10時は早朝.png


「午前10時が早朝」の世界

冒頭イラストで、
寝坊したこまちが
「早朝~」
と言っていますが。

鳩時計は、
もう10時10分をさしています。
10時過ぎ
これは世間の常識に照らして
「早朝」と言えるでしょうか。

おそらくアメリカに行って、
この時間。
表で人に会って
"Good morning!"
挨拶しようものなら。

相手から
"Are you all right?"
心配されるはず。

わざわざ海外まで行かなくても、
うちの近所でだって
「おはよう」が通用するのは
午前9時まででしょう。

ところが午前10時が立派に
「早朝」なのが、
噺家の世界

上野鈴本演芸場で
毎週土曜10時から開かれる
二ツ目の勉強会が、
『早朝寄席』

お客様方にとっては、
もうお昼に近いこの時刻。

噺家には
前日お酒を控え、
目覚ましを
3個セットして
寝ないといけないほどの
「早朝」

そんな朝寝坊の噺家たちが、
世間の方は寝静まっている
まだ夜の明けきらぬうちから。
活動を始める時が、
1年のうち何回かあります。

その第一が、
1月1日、
元日の朝。

一門揃って、
大師匠宅へお年始


ここで、懐かしい写真を1枚。

一門正月.png

写真左より、
扇辰・扇橋・扇遊・扇治・扇好。
みんな、若い!

2000年元旦、
まだあたりが薄暗い頃。
一門揃って師匠宅に集合、
これから大師匠にあたる
五代目・柳家小さん宅へと
向かうところ。

カメラのシャッターを
押してくれたのは、
おかみさん

師匠の重たい一眼レフ渡されて、
「お父さん、
 これどこ押すんだっけ?」
「去年教えといたろ!」
なんてやり取りが毎年恒例

そのうちお向かいの奥さんが
新聞取りに出てきて、
「橋本さん、おめでとう」
「あらルリ子さん、
 明けましておめでとう!
 まあ去年の暮れには、
 おいしいメロン頂いちゃって
 ごちそうさま」

新年の挨拶から、
世間話に花が咲いて。

イライラした師匠が
「俺たち急ぐんだから、
 早く撮れ!」

そんな騒ぎの末に、
撮られた写真。
今では本当に、宝物です。

※今は亡き扇橋の弟子たちが
一堂に会する
『入船亭一門会』は、
12月23日(水)18時~
池袋演芸場にて開催。

詳細は
春の延期から捲土重来、入船亭一門会開催!
をご覧下さい。

年始の席で、
大師匠から呼び出し?

お正月の寄席は、書き入れ時
1日4部構成の浅草演芸ホールは、
午前9時開演。

そういう高座の上がり時間に
あたった噺家も、
ちゃんと小さん宅での
乾杯の席に並ぶことが
できるよう。

柳家一門の
目白・小さん邸集合は、
午前7時前が目安でした。

東中野の扇橋宅から、
タクシーに分乗して目白へ。

開け放たれた小さん邸の玄関で
「おめでとうございます!」
大きな声で挨拶して、
自宅に付属している
広い剣道場へ通ります。

暮れのうちに
町会から借りてきた、
長テーブルと座布団が
ずらり並んで。

机の上には、
おせちとお酒の支度も
できています。

紋付羽織袴姿の、
柳家小さん弟子・孫弟子。
スーツを着た、
一門預かりの色物さん。

総勢60名ほどが、
互いに新年の挨拶交わしながら
道場で待っていると。

午前7時過ぎ、
2階から
のっしのっしと降りてくる
人間国宝

手元に大師匠のいい写真が
見当たらないので、
小さん師匠のお弔い返しで
頂いた風呂敷を代わりに。
風呂敷の狸とこまち.png

小さん師匠が正面上座に着き、
全員にお屠蘇が行き渡ると。
「え~、新年おめでとう。
 今年もそれぞれ、
 身体に気をつけて。
 お客様に喜んでもらえるよう、
 精一杯務めましょう。

 それじゃあ、乾杯!

発声とともに、
飲み干されるお屠蘇

あとはめいめい
時間の許す限り、
ここで飲み食いしていて
かまわないのです。

前座の時は、
お盆を持って大勢の間を
お給仕に駆け回ってヘトヘト。

もう二ツ目ですから、
私も末席でおせちに舌鼓を打ち、
お酒をちびちび

ご機嫌で過ごしていると、
正面に座っている小さん師匠。
近くにいた弟子の
さん喬師を呼び寄せ、
なにやら耳打ち。

言われたさん喬師が、
人の間を縫ってこちらへ
やって来ます。

なんだろうと思っていると、
私のそばまで来たさん喬師匠。
「おい、扇治。
 うちの師匠が、
 ちょっと来いって呼んでるぞ」

きっと小言だぞ、
先に謝っちゃえ!

私は前座時代からよく、
小さん
三語楼(現・当代小さん)
小緑(現・花禄)
『親子三代の会』
のお供をさせていただき、
旅などもご一緒したことが。

小さん師匠とまるで
接点がないわけでは 、
ありませんでしたが。

なにしろ相手は 、
人間国宝の雲上人

その大師匠から、
思いもよらぬ
年始の席での呼び出し。

これは、驚きます。

新・扇治アイコン.png



扇治
いったい、
何のご用でしょう?

さん喬師匠.png



さん喬
俺も知らないよ。
ただうちの師匠、
怖い顔してたからな。
きっと、小言じゃないか。
新・扇治アイコン.png



えっ、正月早々怒られんですか!
さん喬師匠.png



そうだよ、
お前たち孫弟子とは
のべつ会うわけじゃないだろ?

だから去年の垢
早いうちに落とせってんで、
お前の顔見たから
この場で言っとこうてんだよ。

なんか去年うちの師匠、
しくじった心当たりないか? 
新・扇治アイコン.png



う~ん、言われてみると…。

信州の旅で、
小さん師匠部屋に迎えに行った時。
旅館だから
そのままでいいだろうと思って、
布団敷きっ放しで行こうとしたら。

師匠がご自分で
布団畳み出したんで、
慌てて手伝ったことが
ありましたけど。

でもそん時は別に師匠、
怒ってる様子
ありませんでしたよ。
さん喬師匠.png



ああ、きっとそれだ。
無精するなって
その場で言いそびれたから、
これから小言になるんだよ。

まぁ、
やっちゃったことは仕方ない。
俺も間に入ってやるから、
師匠の前へ出たら
とにかく頭下げて
謝っちゃえ!
新・扇治アイコン.png



は、はい…。
もしもの時は
よろしくお願いします…。 
それまでのお酒が
すっかり醒めた私、
さん喬師匠について
恐る恐る
小さん師匠のもとへ。

「あん時のあれは、ウン…」

上座へ近づく私に手ぶりで、
「そこへ座れ」
と合図する小さん師匠。

人間国宝と至近距離で相対し、
両手をついて深々と頭を下げ。
「申し訳ございません!」
言おうとしたのですが、
緊張して声が出ません。

お辞儀したまま
冷や汗かいていると、
小さん師匠の方から先に。

小さん師匠.png



お前だよな、
去年暮れの二ツ目勉強会で
『二番煎じ』やったのは。
新・扇治アイコン.png



は、はい…。
そうですが?
故・古今亭志ん朝師匠
肝煎りで、
今でも毎月開かれている
二ツ目勉強会

テレワークで落語の稽古?
の記事でも、触れています。

発案者の志ん朝師匠はもちろん、
身体が空いている
落語協会幹部連が。

客席最後列で
若手の噺を聴き、
終演後の合評会で
感想とアドバイス
述べてくれるという会。

確かに私は12月の会で
『二番煎じ』
という噺をやって、
その時は小さん師匠もお見えに

ただお開き後の
合評会兼打ち上げの席には、
「明日早いから今日は帰る」
とお出にはなりませんでした。

旅先のしくじりじゃなく、
高座の出来のこと
小言を言われるのか…。

胸をドキドキさせつつ、
平身低頭の私に向かって。

小さん師匠.png



あん時のあれは、ウン…。
よかったな。
新・扇治アイコン.png



…?! 
小さん師匠.png



ありゃあ、
いい出来だった。

よくあの噺で、
夜回りしてる時に
端唄唸るとこや。

番小屋帰ってから、
みんなでこっそり
猪鍋つついて酒飲む仕草

それが大事だって人がいて、
そりゃそこんとこも
下手よりゃうまいに
越したことはねぇんだけど。

そういう細かいことは、
置いといて。
この噺の
本当の肝
大事なとこはな。

とにかくその晩は、
風が冷たくって寒い!

お上が決めたことだから、
町内の連中は震えながら
夜回りをして。

冷え切って帰る番小屋で、
気心の知れた仲間で
ワイワイ酒飲んでる。

その、
「寒さ」と「楽しさ」
が出せりゃ、
この噺は大成功だ。

あん時のお前の
『二番煎じ』、

そりゃ細かいとこはまだまだ
稽古しなくちゃいけないけど。

噺の肝んとこはよーく出てて、
聴いてて面白かった。

あれだけできりゃ、
この後が楽しみだ
しっかりやれ!

元日から
しくじりの小言
食らうどころか、
思いもよらぬお褒めの言葉

さらに小さん師匠の手からじかに、
ご祝儀も頂戴したのです!

お礼を申し上げて
座を立つ時、
ちらっと傍らの
さん喬師匠の方を見ると。

さん喬師匠.png



小言じゃなくて、 よかったな。
俺の早合点で、
心配させてすまなかった。

でも芸には厳しい
うちの師匠から
褒めてもらったんだ。

何よりの、
お年玉だろ? 
口には出しませんが
そんな想いを込めて、
お茶目
ウインクをしてくれました。

いやーそれにしても、
落語『船徳』の船頭みたいに。
小言と思い込んで
うっかりこちらから
べらべら謝らなくてよかった…。

紋付謝るこまち.png

危なく、藪蛇になるところ。

ここでちょっと、
会のお知らせ

大師匠から直々に
声をかけてもらった 、
冬の噺の代表格の一つ
『二番煎じ』

当日楽屋のネタ帳見ないと
確言はできないのですが、
1月9日(土)
14時45分~
なかの芸能小劇場
にての
『扇治新春独演会』
こちらで、
想い出の『二番煎じ』
高座にかける・かも。

現代では
「すわ火事!」
という時には、
最新設備の消防車が出動。
消防車かけつける.png

そういう物がなかった、
火事早い江戸の町
町内で
火の用心を心がけること、
本当に大切でした。

そんな江戸の夜回りを扱った、
いかにも冬らしい1席

独演会で
もう1席決定しているのは、
自作『二十年目の前座』
人情味がかった、
噺家の楽屋裏もの

私が休憩挟んで2席だけの、
こぢんまりした落語会

よろしければお正月気分で、
お付き合い下さいませんか?

料金、一律おひとり様2800円

事前申し込みは
senji1365@gmail.com
にて承っております。
2021年正月独演会 .png

よろしく、お願い申し上げます。


それでは、
夜の町に響く火の用心
かけ声と
拍子木の音を聴きながら、
今回はお開き。


蔦飾り線.png

ご精読いただきまして、
ありがとうございます。
ぜひまた、ご訪問下さいませ。
入船亭扇治拝

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