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コロナ禍以来初、楽屋噺で盛り上がる幸せ [日々雑感]


「新たな日常」が始まり、私たち噺家の仕事も少しずつ再開。
~日ぶりのお客様を前にしての高座・出演料頂戴するのいつ以来という発言、仲間のSNSで目にします。

私も先日、本当に久しぶりで「噺家どうしの会話」を堪能。
その雑感とweb雑俳互選結果追加、
そして当ブログでご覧いただいているうちの黒猫こまちの動くGIF画像は使用枚数過去最高・18枚の超大作(?)!

ありがたいけれど気が重かった、配信収録


6月下旬から7月初めにかけ、妙に落ち着かず気が重い日々が続きました。
三遊亭金時師からいただいた仕事で、ちょっと面倒な噺をやることになったのです。

江戸東京博物館で毎年夏に行われている『えどはく寄席』の怪談特集、今年は無観客で収録した高座を配信することに。
私の演目は、師匠・扇橋ゆずりの『団子坂奇談』。 上方ではかなりネタばれの『腕(かいな)喰い』という題名、東京では先代・橘家文蔵師匠がよく高座にかけていました。

その文蔵師匠はうちの師匠にこの噺を稽古してから 「こんなめんどくさいわりにウケないネタ、扇橋さんに任すから」 と言ってあまり演らなくなり、以後『茄子娘』と並んで「扇橋夏の変わった噺」としてうちの師匠の専売特許みたいに。

一門では弟弟子の扇辰と、私がたまにやるくらいでまあ珍しい噺の部類。人が演らないネタすなわち「あまり面白くない噺」なので、あえて人様に聴いていただこうと思ったらポピュラーな滑稽噺とはまた違った苦労があったりします。

そんな手のかかるネタをお客様が一度だけお聴きになる生の高座ではなく、配信期間中繰り返し人の目に触れる映像として収録。
気の弱い私にはそのプレッシャーがまるで漬物石のようにずーんと肩にのしかかり、夜寝ていても『団子坂』を演っていてしくじる夢を見てはっと飛び起きたことも一度ではありません。

「難しいから仕事だ!」


以前Twitterでも呟いたのですが、こういう時必ず私が思い出すのは

「難しいから仕事なんだ。やりやすけりゃ遊びだ!」

という、漫画の登場人物の台詞。

作品は『週刊少年キング』連載、望月三起也作『ワイルド7』
凶悪化する現代犯罪に対抗するため、元犯罪者たちを集めて組織された超法規的白バイ部隊。 人への発砲・人身の殺傷を許可された7人の男たちのバイオレンスアクション、小学校高学年~中学生だった私は兄とともに大ファン。 全21話・48巻のコミックスもすべて持ってました(処分してしまいましたが…)。

前述の名台詞は、シリーズ屈指の完成度だと私が思う『地獄の神話』篇中に出てきます。
悪役の巨大財団総帥が秘蔵している本物の戦闘機(ゼロ戦・紫電等)を盗み出したワイルドのメンバーたちが、敵爆撃機と市街地で空中戦を繰り広げる。

戦闘機をうまく操縦できず
「やっぱり乗り慣れたバイクじゃないと、扱いが難しいや」
花火師で爆弾魔の「両国」がぼやくのに、元侠客で予科練経験もある「オヤブン」が返す言葉。

たかが漫画と侮るなかれ、人の胸に刺さり記憶に残る台詞に漫画で出会うことはけっこうあります。
西原理恵子さんなど「人生にとって大切なことは、漫画から教わった」とおっしゃる方多いですよね。それをタイトルにした雑誌やwebの企画もありました。

「難しいから仕事、易しいは遊び」
私にとっては今でも、世界中のどんな珠玉の名言・格言にも劣らぬ重みを持った言葉です。

スタッフの方が頼り、無観客の高座


子どもの頃好きだった漫画の台詞に励まされ、稽古を入念にして臨んだ収録本番。
何か所か言い間違い・言いよどみはありましたが、撮り直しをするほど致命的なミスは無くなんとか収録を終えることができました。

ただ45分の長講だと、体力と喋る間の配分が難しい。
朝から何も食べてなかったので(胃の弱い私は高座前食事をしないことが多い)、終盤空腹でスタミナ切れに。 なんとかサゲまではたどり着きましたが、噺の舞台がそば屋なので余計に想像してしまい喋ってて途中で何度か「ぐぅー」とお腹が鳴きそうに。

そして痛感したのが、落語という芸はやはり聴いてくださるお客様と作り上げていくものなんだなということ。

お客席の反応に応じて
「皆さん眠そうだから、ここは声を張ってテンポをあげてみよう」
「ちょっと口調が走り過ぎてお客さんついて来られない方いるから、もっと噛んで含めるように喋ろう」
出し入れが自然にできていくもの。

誰も反応してくれる人がいないと、どんどん噺が単調になっていくのが自分でわかります。
それに気がついてからは撮影しているカメラマンや脇にいるディレクター・プロデューサーの方たちがどんな表情をしているか観察して、なんとか間らしきものを作ってみました。

こうして収録した高座は、 YouTubeの
江戸東京博物館公式『えどはくチャンネル』
にて7月20日頃から無料公開されます。
よろしければチェックしてみてください。

終演後は、3密を避けつつおそば屋さんで打ち上げ


私の後の収録は同期の三遊亭萬窓師、圓朝作『乳房榎』を熱演。
すべて無事撮り終えたところで、口入れの金時師に誘っていただき錦糸町のおそば屋さんで打ち上げをすることに。

仲間とお酒を飲むどころか、直接会って話をするのもしばらくぶりです。
打ち上げ会場は金時師が二ツ目の頃から会をやっている錦糸町の
「そばの里 みつまさ」Tel.03-3631-5850

もうけっこうなご年配でしょうが元気なご夫婦が切り盛りし、自慢の手打ちそばと一品料理・吟味したお酒がおいしい居心地がいいお店
私も落語会に3回出していただいたことがあり、10数年ぶりで楽しみに伺いました。

ここで、以前の記事に掲載した「そば屋の出前こまち」GIFをご覧ください。
出前こまち.gif

江戸博で収録してきたのがそば屋を舞台にした『団子坂奇談』、終演後のお疲れ会もそばの名店というそばつながり
そしてこのあと打ち上げでできあがった噺家たちの現場写真を見ていただきますが、webでブログが紹介される時は一番初めに載っている画像が「看板」としてサムネイルで表示されます。

むくけつきおじさんたちが赤い顔してくだまいている写真がカバーでは、読者の方が来てくれません。
そこで文字通りうちの「看板娘」に登場してもらったわけです。

いやそれにしても、まだ日のあるうちから焼酎のお湯割り片手に語りこむ宴席の面白いこと楽しいこと盛り上がること
ほかの人たちも、けっこう楽屋での会話に飢えてたんでしょうね。

世のため人のためには間違ってもならない、楽屋での失敗談や笑えるエピソードの数々。
傍で聴いていると本当にくだらない話題ばかりでしょうが、その無駄な言葉のやり取りが今はひとつひとつ胸にしみます。

ああ、また仲間とバカっぱなしができてよかった。
気持ちがいいとお酒のまわりも早く、一同すっかりいい心もち。
そんな宴たけなわの様子を、みつまさのご主人が撮ってくれた写真がこちら。
えどはく打ち上げ.JPG

画面手前右は鳴り物担当の春風亭一蔵さん。向かいに萬窓師、奥に金時師と私。
写真で見るとけっこう互いが密接していて「けしからん!」と思われるかもしれませんが、一蔵さんは身体が大きいので遠近感がちょっとずれているだけ。ちゃんとソーシャルディスタンスは保っています。

2時間以上盛り上がったところで、そろそろお開き。
先輩の金時師が、一手にお勘定は引き受けてくれました。
ありがとうございます、ごちそうさまです!
前なら「軽くもう1軒」となるのを、夜の街の誘惑に負けず自重して錦糸町駅で清き別れ

ああ、おいしかった楽しかった
読者の皆様にこの気持ちをお伝えしたく、黒猫こまちもざるそばを1枚ご相伴。


おそばを食べるこまち.gif

なんだい、そばに限ると言った舌の根も乾かないうちに今度はうどんかい?
猫の好みと秋の空、猫の目のように変わるってのは正にこれだね。
だいたい猫舌がどん兵衛なんて熱いの食べて、大丈夫かい?

web雑俳互選結果追加


いっときの持続化給付金の支給遅れほどではないつもりですが、今回はゆっくり順次公開させていただいております『第2回web版言の葉落語会』噺家選者の選、また新たにひとり追加。

先日の柳家三三師に続き一門の兄弟子
・茨木糖持(いばらぎとうじ)=柳家一琴
が渾身の効きを付けた句の数々は
第2回冠沓附噺家互選
第2回洒落附噺家互選
にてご覧いただけます。

噺家の天に抜けた方へのweb色紙・ご参加いただいた方への寄せ書きも、決して失念しているわけではございません。
「新たな日常」で仲間たちもそれぞれに忙しくなっておりますので自粛期間中と同じペースは保てませんが、ちゃんと準備は進めておりますのでご安心ください。

そしてこれはまだ正式な企画以前の段階ですが、できるだけ早い時期にweb版とリアル版コラボの『言の葉落語会』を開催できないかと模索しております。 ご自宅でも電車の中でも、いつでもどこでも頭の中で楽しめる粋な江戸言葉遊び・雑俳。
この先も、噺家たちと一緒に盛り上がってみませんか? 
蔦飾り線.png

お開きまでお付き合いいただきまして、まことにありがとうございます。
お帰りがけに、未読のページございましたら覗いてもらえたら嬉しいです。
ぜひまた、ご訪問くださいませ。
入船亭扇治拝

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