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ようやく巡って来た「コロナ明け」高座(1) 支度篇 [落語情報]


外出自粛・テレワーク出勤で「電車の乗り方忘れちゃった」という言葉、けっこう耳にします。
先日久しぶりの高座で出かけた私も、それを実感しました。

生涯最長不倒(おそらく)の開店休業期間


2020年6月23日(火)は私にとって、一生忘れられない日になるでしょう。 新型コロナウイルスの影響で落語の仕事がすべてキャンセルになり、人前でお喋りしなかった期間・実に93日間
やっとこの日、人前で落語を演じる機会を得たのです。

児童向け書籍では『十五少年漂流記』と表記されることが多いジュール・ヴェルヌの名作、原題は『2年間の休暇』
船が難破して無人島で漂着した少年少女たちが救出されるまでの700日余りをうまく言い表した、洒落た題名だと思います。

「93日間の長期強制休業」、もちろん私にとってこんなに高座に上がらなかったのは初めてのこと。
これまでで一番長く落語を喋らせてもらえなかったのは、数年前のゴールデンウィーク。

仕事の依頼も寄席の出番もなんにもなかった私は、「18連休」というカレンダー以上の優雅な休暇を過ごしたことがあります。
今回はそれを遥かに上回る3ヶ月以上の開店休業、この先何年現役でできるかわかりませんがおそらくこれよりヒマなことはないでしょう。
もしあったら、それこそ引退を考える時でしょうね。

素人っぽさが慕われた、扇橋のおかみさん


私の現場復帰最初の高座は、江東区常盤2丁目のデイサービス施設でのボランティア。 出演料が発生しませんから厳密には「仕事」ではありませんが、落語をやらせてもらうことが今はとにかくありがたい。
当日に向けて噺の稽古はもちろん、袷と単衣の着物の入れ替えなど準備を進めてきました。

「交通費実費のみ頂戴する」約束になっておりましたので、スマホの乗り換え案内アプリで現地へのルートを事前に検索。 自宅から最も近い京王線笹塚→都営新宿線森下が最短、料金片道398円(交通系ICカード利用時)。
電車に乗るのは、3週間ぶりくらい。 ちゃんと、迷わず行けるだろうか。 Suicaのチャージのしかた、憶えているでしょうか。

前日からかなり心配で、胸がどきどき。 遠足を控えた子どもか、テレビの『初めてのお使い』みたい。
そんなことを考えていて思い出したのが、師匠・扇橋のおかみさんが電車に乗る時の大騒ぎぶり

噺家の女房の中には、志ん朝・金馬師匠夫人のように仲間を招いて宴席を張ったり麻雀をしたりするのがお好きな人もいます。 でもうちのおかみさんは、まるでそんなことには縁のない人でした。 とても明るくて社交的な人なのですが、亭主の仕事である落語の世界とは意識して距離を置いてましたね。

噺家の女房は、あくまでも内助の功という考え。

「扇橋師匠のおかみさんはいつまでも妙に業界ずれしなくて、初々しくていいね」
と、飾らない「素人っぽさ」を慕う芸人もけっこういました。

三遊亭好楽師匠が『笑点』のレギュラーになってからも律儀に盆暮れの挨拶に来てくださってましたが、そのたびにおかみさん大はしゃぎ

「まあ!まあほんとに好楽さんだ!テレビとおんなじだよすごいね!こんな有名な人にうちみたいな狭いとこ来てもらって、いやーほんとにすまないねー。
あっちょっと待って!今色紙持ってくるから、子どもとあと一緒にトリム体操やってる友だちにサインもらっていい?」

おかみさん、自分のご亭主も落語と俳句の世界では「有名な人」なんですよ と傍で見ていてツッこみたくなること、何度もありました。

電車に乗るのに、ひと騒動


扇橋夫人は普段の買い物のほか、あまり出歩くたちではありませんでした。 ひとたび用があって電車で出かけるとなると、前の日から大騒ぎ。 書き物をしている師匠に何度も

「秋葉原で緑の電車に乗り換えるんだったら、東中野で黄色い電車の真ん中へんに乗ればいいんだっけ?」
「浅草で東武電車乗るんだけど、地下鉄の何番出口から行くのが一番近いの?」

確認怠りなく。

当日いざ出かける段になると、前座の私はよく東中野駅まで行かされました。 荷物を持ったりするのではなく、目的地までの料金をお釣りなくきっちり渡され

「扇べいさん!じゃ私あと5分くらいしたら出るから、先に行って切符買っといて!

ということになるわけです。
「東中野から先は大地が切れて、水がザーザー流れてる」 と信じてるかのようなおかみさん遠出の大騒ぎ、今は懐かしいですね。

勝負風呂敷で、しっかり支度


おかみさんと同じくらいどきどきして迎えた、93日ぶりの高座当日
余裕をみて到着時刻の1時間半前にはうちを出ることに。 自粛が始まってから伸ばし始めた髪を整え、いよいよ着物の支度。

広げた風呂敷は、一番気に入っている『横浜高島屋落語会』第20回記念でもらったもの。気分を盛り上げたい時はよく使う、私にとっての「勝負風呂敷」。

小高島屋風呂敷.png

中に入るのは帯・羽織・着物・長襦袢。 小物は扇子と手拭い・下締めに匂い袋。 下着を上に置いて・・・うん、着物の支度のやり方忘れてないな

でも本当にしばらくぶりだから、緊張して手が震えてやりづらいな。
えっ、こまちが猫の手貸してくれる?
そうかい、じゃあ出かけるの遅くなっちゃいけないから頼もうか。 くれぐれも、爪を立てないようにね。

イエッサー!

風呂敷を包むこまち.gif

いやいや、一緒に行くとデイサービスの人たちに喜ばれて「うちの子になんなさい」って言われちゃうから。
こまちは、お留守番だよ。
蔦飾り線.png

さあ猫が手伝ってくれた荷物をしょって、いざ93日ぶりの高座に出陣。
果たして、ちゃんと務めることができるでしょうか?
続きは、また別記事にて。

またのご訪問、お待ち申し上げております!
入船亭扇治

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